ギルド登録
ブロガルドは、ギルドに所属する冒険者たちから親しまれる町である。
周りには弱い魔物しかおらず、冒険者になりたての新人でも簡単に倒すことが出来る。
最初の町と言ったらここ、といった雰囲気を持つ町だ。
それゆえに、滞在する冒険者の数は途轍もなく多く、ブロガルドのギルド支店は大きな収益を上げている。
ファイリアがここに行くように指示したのは、ギルドが目的の大半であった。
「もう朝なのか…………」
俺がグレーターウルフ・コマンダーから逃げて、この町にたどり着いたころにはもう朝日が昇っていた。
そして、朝日が昇り始めると共にブロガルドの町の門は開く。
つまり、俺は開門時間ぴったりにこの町を訪れることが出来たわけだ。
「そこの者、身分証は持っているか」
門を通ろうとした俺を呼び止めたのは門兵だ。
この門は検問を兼ねているのだろう。
「いや、持っていないな」
当然身分証など持ち合わせてはいない。
中学生としての身分証ならあるが、ファイリアから「使えないぞ」と言われてしまった。
「旅人の方か?」
「ああ、そんなところだ」
俺は適当に答える。
「通ってよし」
あっという間に釈放されてしまったので俺はあっけにとられた。
こ、こんな簡単に通していいのか?
『良いじゃろうよ。ここは王都でもないのじゃし、そっちのほうがお主も都合が良いじゃろう』
ま、まあそうか。
「どうした?」
「なんでもないです!」
俺は急いで町の中に入った。
『さて、ギルドに向かうとするかの。冒険者登録をした方が何かと都合がいいのじゃ』
ああ、そうだったな。
で、ギルドの方向ってどっちなんだ?
『この大通りを進んで、それからじゃな_____』
ファイリアは何でも知っているから本当に助かる。
こいつ実は賢者かなんかじゃないのか、と思うほどだ。
さて、ギルドに向かう途中だが俺のステータスをチェックしてみよう。
◇ステータス
《ユウ》
職業:なし
レベル:20
攻撃力:67
防御力:67
俊敏性:67
魔法力:67
◇スキル
魂の解放者
短剣術:レベル3 身体能力強化:レベル3
威嚇:レベル8
かなりレベルは上がっている。
しかし、ステータスはまだまだだ。
グレーターウルフ・コマンダーを相手取るとなるとステータスではなくスキルが重要になってきそうだ。
このままレベルを上げても、ステータスでは追いつけない。
ここから大量にレベルを上げることが出来れば上回ることは出来そうだが、それは難しいだろう。
そういえば、威嚇スキルのレベルがかなり上昇している。
これも大量にグレーターウルフを迎撃したおかげか。
そして、俺を一番助けてくれている魂の解放者。
これは何か変わっているのだろうか。
確か不明になっている部分があったな、
◇魂の解放者
”固有能力” ”上位能力”
・解析 -人の魂を解析することが出来る
・解放 -現世に囚われた魂を解放できる
・吸収 -魂の力を吸収し自らの物にする
・?? -不明(30/100)
・?? -不明
・?? -不明
何だ、特に変わっていないのか。
いや、何か変わっているな。
最初の不明能力の説明に(30/100)というものが付いている。
確か、俺が吸収した数は30ほどだったはずだ。
となると、100の魂を吸収したときに何かが起こるのであろうか。
これからの狩りで目指すべき場所はまずそこになりそうだ。
『なにぼんやりとしているんじゃ。もうギルドにはついておるぞ』
おっと、もう着いていたらしい。
ギルドの建物は重厚な造りをしていた。
両開きの玄関、レンガで組み立てられた外壁。
侵入者に対しても効果的に迎撃できるように装飾までもが工夫されている。
『さて、入るとするかの』
何かどきどきするな。
俺は少しの緊張とともにギルドのドアを開けた。
カランカランと鈴の音がなり、ギルドに人が入ってきたことを伝える。
ギルドの中は意外と広く、開放的だった。
どうやら内部は酒場も兼ねているようで、この時間帯から飲んでいる客もいる。
しかし、朝早いので人はそんなに居なかった。
まあ、朝5時とかの時間帯なので当たり前か。
「見慣れない方ですね。冒険者の方ですか?」
受付と思われる場所に座っている女性が声を掛けてくる。
これが良くある受付嬢というものなのだろう。
「いや、新規登録だ」
「ああ、そうでしたか。ではこちらの契約書をお読みください」
慣れた動作で取り出されたのは一枚の紙。
これは羊皮紙というものなのだろうか、いつも触る紙の質感とは全く異なった。
そして一つの問題が生じる。
文字が全く読めないのだ。
紙に書いてある文字が、全くと言っていいほど読めない。
文字も自分が知っている字は一つも存在しない。
この世界の人間が使う言葉は日本語だからてっきり文字も日本語なのかと思ったが、そんなことは無かったようだ。
『なるほど、読めんか』
ああ、読めない。
『転移者というものはなぜかこの世界の言葉を理解できるのじゃが、どうやらお主は言葉は分かっても文字は判らないようじゃな』
いや、理解しているというか、全部の言葉が日本語に聞こえるんだ。
あんたの言葉も、全部。
『ニホンゴ………… なるほど、お主の元居た世界の言葉か。まあ、転移者がこの世界の言葉を理解できる現象は原因不明じゃし、ここはわしが文書を読み上げよう』
すまない、助かる。
『大丈夫じゃ、わしとお主の仲じゃからな』
『では読み上げるぞ』
『ギルド契約にあたっての注意…………』
そこからは長い長い音読が始まった。
要約するとこうである。
1、ギルドにはギルドランクというものがある。
ギルドランクはE,D,C,B,A,S,SSとあり、A以降はA+、A-といったように区別がさらに分かれる。
例外を除き、すべての冒険者はランクEから始める。
受注できる依頼は自分のランクの上一つまでである。
例えば、ランクEの場合、ランクE,Dを受注できる。
ランクは依頼を成功させるごとにポイントがたまっていき、ポイントが一定に達するとランクが上昇する。
2、ギルドには規定がある。
ギルド内で起こったすべての問題に関して、職員は責任を負わない。
ただし、一部の重大な問題に関しては例外である。
また、すべての問題において、当事者同士での解決をしなければならない。
その際に傷害などを引き起こした場合、職員の調査の上で、当事者に罰を与えるものとする。
要約してもかなり長かった。
これをたった一枚の紙に収めているのだから凄いものである。
「えっと、読み終わっていただけましたか?」
「ああ」
「では、ここへ記入をお願いします」
そういって取り出されたのは一枚の紙。
そこにいくつかの欄があり、同時にペンを渡される。
ペンと言っても旧世代のインクペンだが。
この一番上の欄が名前。
俺はユウ、と書き込んだ。
なあ、これで文字はあっているのか?
『問題ないぞ』
そうなのか…………
俺には変な文字にしか見えないんだけどな。
えっと次は…………
レベル?
『20じゃな。素直に書き込むのが吉じゃ』
冒険者になりたてでそんなにレベルが上がっているものなのか?
『まれにおるから気にせんで良いじゃろう』
そ、そうか。
俺は20とレベルの欄に書き込む。
それを見た受付嬢が一瞬驚いたような気がしたが、気のせいだろう。
次は使用武器、と。
…………俺って何を使ってるんだ?
『片手直剣でいいじゃろう。ナイフもそこに入る』
じゃあ、そうするか。
これで紙への記入は終わり。
どうやらこれを基にしてギルドカードなるものを作るらしい。
少し待った後に渡されたのは左上にEと刻まれた一枚のプレート。
どうやら金属製のようだ。
この手触りは、鉄かな?
『正確にはインバーじゃな。鉄の合金で成分構成は”Fe-36Ni”。時計の部品などに使われておる』
…………
本当に何でも分かるんだな。
それにしても、元素記号とかってこっちの世界にもあるのか?
『一部の国で使用されているようじゃの。世界全体でみれば余り使用されておらん』
さて、このギルドカードには俺がさっき記入した事項が刻まれている。
そして、”ポイント”という欄が空白だ。
『依頼を達成するごとに更新できるよう空白なのじゃよ。そのプレートは魔道具の一種であるからの』
魔道具、ね。
まあそれは後で聞くとして、とりあえずこれでギルドへの登録はすました。
さて、次はどうすれば良い?
『一旦は魔物を狩ることにするかの。能力が解放できる可能性もあるのじゃし、路銀も稼げる』
そうだな。
じゃあ、ギルドを出るとするか。
ん?
入口の前に何人か立っているな。
まあ、関係ないだろう。
俺はこれから出ていくんだから。
「止まりな!」
突然声を掛けられて俺は立ち止まる。
俺に声を掛けてきたのはガラの悪い男だった。
体格も良く、身長は175ぐらいはあるだろうか。
俺の身長が163だと考えるとかなり高いな。
「おいお前、さっき登録してきたみてえだな…………」
「レベルを言ってみろ!」
俺は深く考えずに答えた。
「20だ」
俺の言葉を聞いた男が突然笑いだす。
「ぎゃはは!」
「レベル20? 笑っちまうぜ! 登録したてのひよっこがそんなレベルな訳ねえだろよ!」
「それにお前14くらいの子供じゃねえか!」
ガラの悪い男が笑うのに合わせて周りの男たちも笑い出す。
『絡まれたのう………… 厄介なことじゃ』
ああ、厄介だ。
どうしたらいいんだ…………?
『相手が攻撃してきても攻撃を加えるでないぞ。受け流すにとどめるのじゃ』
『力の差を見せつければ、相手も引き下がるじゃろう』
ああ、そうだな。
じゃあ一回解析をしてみるか。
レベル12あたりか。
しかもステータスも低い、俺の相手じゃない。
俺がレベル1くらいだと思って油断しているな。
「さて、調子に乗る馬鹿には思い知らせてやらねえとな!」
男たちが攻撃の構えを見せだす。
相手は素手だ。
そしてこちらも素手。
気づくと周りに少し人だかりができている。
しかし、誰も割り込んでこない。
それほどの存在だというのか?
「さて、やってやるぜ!」
「おらぁ!」
男がストレートを打ち出してくる。
しかし、遅い。
しかも、威圧感が無い。
俺が相まみえたグレーターウルフ・コマンダーとは比にならない程に。
こんなストレートは避けるまでもない。
俺は男のストレートを正面から受け止めた。
そして、少し押し返す。
「うおっ…………」
「雑魚の分際で、俺様のパンチを受け止めるとはなあ!」
「へへっ………… 調子に乗ってる奴は叩き潰す!」
少し様子がおかしいぞ…………
次の瞬間、男はナイフを取り出した!
「お、おい! ギルド内だぞ!」
周りの男たちが制止しようとするが、男はそれを払いのけた。
「関係ねえ! 俺様を怒らせた奴は全員地獄行きだ!」
男はおもいっきりナイフを振りかぶって俺を斬りつけようとしてくる。
しかし、大きく隙が生まれている。
それを見逃す俺ではない。
「セイッ!」
俺は隠していたナイフを取り出して男の持つナイフに勢いよく当てた!
次の瞬間、男のナイフが手からこぼれ、床に突き刺さる!
「な、なんだこいつ…………」
「ひ、ひい…………」
「ひゃあああああああ!」
男は勢いよく逃げ出す。
それを追いかけて取り巻きの男たちも逃げ出した。
それを見て俺が一息付いていると、背後から肩に手が置かれた。
「大丈夫かね」
俺が振り向くと、そこには男が立っていた。
「私はここのギルドマスター、名をフレッグという」
「俺はユウ」
思わず男に言葉を返してしまった。
「うむ、怪我は無いようだ」
「すまないな、登録したばかりなのに悪い思いをさせてしまって」
「いや、撃退出来ましたし」
「それなら問題は無いが………… あいつらには後でみっちりと言っておかねばな」
一瞬彼の顔がかなり怖く見えた。
ギルドマスターというのだから、ここで一番強い人間なのだろう。
その雰囲気は他とは違って見える。
「さて、もう行くといい。冒険者になったのだから、親にでも伝えておくといいだろう」
「あ、はい」
俺はその言葉の通りに外に出る。
まあ、俺はこの世界に親はいないんだけどな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてユウがいなくなったギルドでフレッグは思った。
「彼は見所がある。ランクCの男をはねのけてしまうなんてな」
「それにしても、彼の眼………… 奥から他の誰かに見られているような、不思議な感じだった」
「これが稀に見る”天性の才”という奴か?」
「そういえば、彼のランクは?」
「あいつらを余裕で相手できるくらいだから、レベル15以上なのは確実。ランクCぐらいで登録されているはずだが」
フレッグは、ユウの登録を受けていた受付嬢を呼んだ。
「さっきの彼のランクは何で登録したのだね」
「えっと………… Eですけど」
「…………なんだと? E?」
フレッグの顔が青くなっていたことにはユウは気づいていない。