永久氷獄
待ち構えていた問題が何かというと、宿の問題である。
さして問題なくギルド登録を済ませれたので、宿屋に向かったのだが………
宿屋の部屋が空いておらず、俺とシスティナが同室という結果になってしまったのだ。
まあ、俺と彼女が同じベッドで寝るわけではないのだからいいのではあろうが。
ただ、一歩間違えれば危険である。
「おやすみ………」
システィナは俺が寝る前からもう寝てしまったようだ。
彼女は疲れているのかいないのかわからないが、もう夜遅いので眠いのだろう。
彼女に眠いという概念があるのかは定かではないが。
取り敢えず、彼女が寝てしまった後は俺だけとなる。
恒例の自分のステータスチェックだ。
今回の殲滅作戦であまりにも大量の敵の魂を吸収したので、少し見ておきたい。
◇ステータス
《ユウ》
職業:冒険者
レベル:103 限界突破:1
攻撃力:316
防御力:316
俊敏性:316
魔法力:316
◇スキル
魂の解放者
剣術:レベルMAX 棒術:レベル8
斧術:レベル3 槍術:レベル4
身体能力強化:レベルMAX 威圧:レベル3
全属性耐性:レベル3 毒牙:レベルMAX
聴覚強化:レベル2 視覚強化:レベル3
思考加速:レベル1 武器破壊:レベル2
武装貫通:レベル2 破拳:レベル3
魔法剣:レベル2 魔力感知:レベル2
調合:レベル5
毒類無効 痛覚軽減
◇魔法
火属性魔法:レベル9 風属性魔法:レベル5
氷属性魔法:レベル3 光属性魔法:レベル2
闇属性魔法:レベル2 思念制御:レベル5
魔力光線:レベル2 魔力吸収陣:レベル1
消費魔力軽減
………かなりのスキルが増えている。
ついに俺の剣術スキルはMAXに到達したようだ。
それに、毒類無効のスキルも追加されている。
効果は確認していたが、こうしてみるとレベルが存在しないスキルは異様である。
魔法の量も劇的に増加している。
どうやら、魔術師たちの魂のおかげで大量に魔法を習得できたようだ。
それに、あの魔獣のスキルなのか”魔力光線”が追加されている。
もし試す機会があれば、試してみるとするか。
さて、今日は本当に濃い一日だった。
睡眠不足は体に毒だ。
さっさと寝てしまうことにするか。
明日は、何をするかな………
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
………
どうやらシスティナは先に起きていたようだ。
まだ朝の7時ごろだというのに早いものだ。
さて、今日は何をするかがまだ決まっていない。
最近の大きな作戦が終わったおかげで俺は少し疲れているし、今日は休むかな………
『では、グレーターウルフ・コマンダーを倒してはどうじゃ?』
コマンダーを?
まだ侵攻は先のはずだが………
『だからこそ今倒すのじゃ。力を持たれる前に倒すのは基本中の基本じゃし』
まあ、そういってもなあ………
俺がコマンダーに勝てるかはわからないんだぞ?
『そこに居るじゃろ、最高戦力が』
ああ、システィナか。
彼女の力を見てみたいと思っていたところだ。
この機会に彼女の力を見ておくとするか。
「じゃあ、倒しにいくか」
「行くん、ですか………?」
少し眠そうだ。
眠いならもっと遅くに起きてもいいのではあろうが………
「私は大丈夫ですから」
なら良いんだけどな。
俺は早速準備に取り掛かった。
グレーターウルフ・コマンダーの討伐の為に。
グレーターウルフ・コマンダーは俺の目標の一つだった。
倒すべき目標として俺の視野に入れていたが、どうやらもう決着がついてしまうようだ。
それも、俺以外の手によって。
俺のスキルの性質で分かったことが一つある。
それは、俺のスキル”吸収”が自分の倒した敵の魂でなくとも発動できる点だ。
前の教団殲滅戦で、俺以外の倒した魂も吸い取れたからわかったことだ。
「行くぞ」
俺は宿屋から駆け出す。
それを当然のようにシスティナが並走してくる。
「やっぱりこの速さは尋常じゃないな」
彼女は浮遊しながらではあるが、それでも圧倒的な高速だ。
俺の全力疾走にも追いつけるほどの速さであるのだから。
「おっと、見えてきたな」
門を駆け抜け、草原を駆け抜けてグレーターウルフの領地に入った。
ここからは奴らの縄張りだ。
俺は少し遠くに巨大な影を目視した。
それはコマンダーの姿以外の何者でもなく。
俺が倒すべき目標がそこにはいた。
「さて、システィナ。あれを倒してくれ」
「あれを? 指揮官ですか………」
「まあ、楽勝でしょうね」
そうだろうな。
俺では苦戦するかもしれないが、彼女であれば大丈夫だろう。
「では、行きますね」
彼女がコマンダーに向かって走り出す。
俺もそれに従って走り出す。
「少し、離れていてくださいね」
どうしてだ?
そんな質問が飛び出てくるところだったが、俺は彼女の指示に従った。
グレーターウルフが接近してきた彼女に気付く。
コマンダーは彼女に向かって威嚇している。
彼女を取り囲む体制だ。
草原の中に数十体もの狼が群れている。
「数は31……… ほどでしょうか」
彼女のつぶやきが聞こえた気がした。
その直後、彼女が右手を天に掲げた。
同時に虚空から一本の杖が現れる。
それは彼女の手に収まり、システィナは満足そうな顔で杖を眺めた。
何もない場所から杖が現れたことに驚いたのか、狼たちが少しおびえる。
しかし、コマンダーが唸ると全ての狼が一気に威嚇し始めた。
「少しかわいそうですが………」
「まあ、致しかね有りません」
彼女がつぶやくと同時に、杖を天に掲げた。
同時に、杖が光りだす。
「うおっ!?」
杖が光りだすと同時に周りに強烈な魔力が吹き荒れ始めた。
彼女の持つ力が杖から放出されて行っているのだ。
その魔力は周りの歪ませ始めるほどのものだった。
前の戦いで、魔獣と戦った時、奴の角からでる魔力のせいで奴の周りが歪んでいるように錯覚した。
しかし、彼女のそれは違う。
錯覚などではない。
文字通り、空間を歪ませているのだ。
あまりにも膨大な魔力が周囲の光を屈折させているのだ。
同時に水色のオーラが発し始める。
「………永久氷獄」
彼女がつぶやいた。
それと同時に、彼女の周囲が瞬時に凍り付いていく。
「これはッ!?」
俺と彼女は100メートル以上離れているのだ。
しかし、彼女の魔法は俺のところまで届くほどのものだった。
猛烈な寒波の嵐がシスティナの周囲100メートルを吹き荒れる。
これが彼女の広範囲殲滅魔法”永久氷獄”。
その力に俺は少しばかり恐怖した。
嵐の後に残されたものは凍てついたグレーターウルフの大群。
そして、いともたやすく凍り付いたコマンダーの姿だった。
「では、止めです」
再び彼女の杖が振り上げられた。
「終末の日」
直後、彼女の周囲の狼たちが熱線で打ち抜かれていく。
太陽の光を凝縮した光線を放っているのだ。
それも、半径100メートルにわたるまであらゆる場所に。
あらゆる生命を焼き尽くす究極の範囲攻撃。
ギルドの魔術師たちの魔法とは比べものにもならない。
これが彼女の魔法なのだ。
魔法の雨が止んだ後に俺が見たのは、ずたずたに射抜かれたコマンダーの姿だった。
「うわっ……… えげつないな」
あまりにも速く瞬時に凍結されたためコマンダーの体は硬直してしまっている。
「これじゃあ誰がやったかわからないよな………」
俺は凍り付いた草原をパキパキと折りながら進んだ。
そして、彼女の近くまで来ると、
「お疲れ様」
そうねぎらいの言葉をかけてやった。
「正直、弱すぎました」
どうやら彼女はこのレベルの敵は余裕のようである。
そりゃあ、彼女はレベル1000越えなのだから当たり前だろうが。
「さて、死体どうするかな」
このコマンダーの死体、見つかったら大変なことになってしまいそうだ。
「とりあえず焼きますか?」
俺は頷く。
彼女は俺が頷いたのを確認すると、杖をコマンダーに向けて焼き払ってしまった。
「うわぁ」
思わず声が出た。
永久氷土のごとく凍り付いていたコマンダーが一瞬にしてドロドロに溶けてしまったのだから。
「とりあえず、帰るか」
あまりにも速く終わってしまったが、今日の目標は達成できたので問題ない。
俺のかつての目標があっさりと焼き払われてしまったのだが。
これを見ていると、ファイリアのかつての発言は冗談でもなんでもなく真実だったということが分かる。
彼女なら町一つほどなら余裕で消し飛ばせそうだ。
その妹であるシスティナでさえもこのような魔法を行使できるのであるから、姉であるファイリアも出来るだろう。
俺は溶けかかっている氷をへし折って帰った。
………システィナは相変わらず浮遊しているが。
そして、報告の為に俺はギルドに立ち寄ったのだが。
「どうしたんだ、これ」
俺が帰ってきたギルドは大慌ての状態だった。
どうやら、非常警戒宣言が発令されているらしい。
「おお、ユウか!」
ブラストが話しかけてくる。
どうやら彼はまだここに滞在していたようだ。
彼は試験官として王都からやってきたのではあるが、まだここにとどまっている気らしい。
「どうしたんだ? こんなに慌てて」
俺が聞くと、彼は叫びだした。
「どうしたんだじゃねえよ! 俺達死んじまうって!」
「おいおい、本当にどうしたんだよ」
「ああ、ああ、それがよぉ」
俺がもう一度聞くと彼は話し始めた。
「ここの近くの草原で超規模天災の反応があったんだよ!」
「な、なんだよその超規模天災って………」
俺は戸惑っていた。
まさか、とシスティナの方向を向く。
彼女は明らかに俺から視線をずらしている。
どうやら彼女の魔力に反応されてしまったようだ。
うかつだったな………
これじゃあ、彼女がやったってばれるんじゃないのか?
「お前、もしかして草原へ行ってきたのか?」
「ああ」
ブラストが俺の答えを聞くなり詰め寄ってきた。
「どうだった!? そこに居た奴はどんな奴だった!?」
「誰もいなかった」
出来るだけ隠そうと努力する。
「誰もいなかったぁ!? そりゃあ何かの間違いなんじゃないか!?」
「いや、本当に何もいなかったんだ。その反応の報告が誤報だったんじゃないか?」
俺の答えに唸り始めるブラスト。
どうも、超規模天災ってのはここの住民にとってはかなり恐ろしい存在みたいだな。
『超規模天災は、大体は神に近しい力を持つ魔物が当てはまるのじゃ。そのような力の存在が確認されたんとなれば、この国は終わってもおかしくない。当たり前の反応じゃ』
そうなのか………
かなり迂闊だったな。
何も心配が要らないのに警戒させてしまった。
俺がそう後悔した直後、フレッグの声が響き渡った。
「さっきの反応は恐らく誤報だ! 既に魔力が消失していることが確認された!」
その言葉を聞いた瞬間、ほとんどの冒険者が息をついた。
『魔力感知が途切れたのじゃな。まあ、一瞬だけの反応であれば誤報としてもおかしくはないじゃろう』
よかった。
どうやら、俺たちの行動は迂闊ではあったがそこまで警戒されずに済んだようだ。
さて、討伐を報告するかな。
侵攻を行いかけている魔物が倒されたと報じられれば、彼らは安堵するに違いないから。
その後、草原において不自然な形で惨殺されたグレーターウルフ達が発見された。
いずれもが硬直して死んでおり、不自然に穴がいくつも空いていることから誤報と判断された超規模天災の報告は真実だったのではないかと言い始める冒険者が続出する。
その件についてギルドは追われ、最終的に何も痕跡が見つからなかったことで再び誤報と判断されたが、そのことをユウたちは知らない。




