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契約

 『耐えて見せよ、未来の我が契約者よ!』


 待て、一体何をするつもりなんだ!?

 魔力を注ぎ込むって_____


 『ゴチャゴチャと言っている暇は無いぞ!』

 『ほら、気を引き締めるのじゃ! 力に負ければ命は無いのじゃぞ!』


 うっ!?

 

 俺の体に鋭い痛みが走った。

 いや、正確には俺の精神にと言うべきか。


 俺の体に何かが流れ込んでくるような感覚。

 それは、俺の精神を蝕み、破壊しようとしてくるッ!


 くそ、耐えろ俺!

 こんな所で負けていたら、俺はチャンスを失うんだ!

 生きるチャンスを! 

 無駄にしてはならないッ!


 俺の精神がひび割れかかっている。

 もう少し割れれば、俺の精神は崩壊する!

 耐えなければ!

 ここで耐えて見せなければ!

 

 『もう少しじゃ!あと少しお主が耐えれば、契約は完了する!』


 そうだ、あと少しだ!

 最後まで気を抜くなよ、俺ッ!


 たったの数分であったが、俺には数時間にも感じられた。

 突如として俺にのしかかる重圧が消え、解放されたのだ。


 終わった、のか?


 『そう、お主はわしとの契約を結ぶことに成功した』

 『これまでにわしと契約を結べた者はおらん、誇っていいのじゃぞ』


 いや、これからどうすればいいんだ?

 俺にはこれから生きていく術が無い___


 『そうじゃな。まずはこの空間からお主を開放しよう。話はそれからじゃ』


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さて、俺はまた戻ってきたわけだ。

 さっきは周りが良く見えなかったが、ここは光のあまり当たらない裏路地であるようだ。

 恐らく、スラム街の裏路地である。

 あの店員が言っていたことを思い出せば、それは容易に想像できる。

 

 「俺の傷は………… 治ってる、な」


 あの”失敗作”の言っていた通りに、見事に俺の傷は完治していた。

 リボルバーの弾は幸いにも貫通していた。

 そのため、体内に弾が残っているなどということは無いようで安心した。


 『聞こえておるか?』


 おっと。

 どうやらこちらでも彼女の声は聞こえるようだ。

 ノイズもきれいさっぱり消えて、声がはっきりと聞こえる。


 『うむ、お主と契約したことで導線が深くなったからじゃの』


 ということは、俺はいつでもあんたと話せるという事か。


 『そうじゃ。まずは、お主の能力の確認から始めるかの』

 『ではまず、能力板ステータスを開いてみよ』


 ステータス?

 やっぱこの世界にもあるのか…………

 しかし、俺はその開き方を知らない。


 『まさかお主、転移者か?』


 ああ、恐らく。

 いつの間にかここに来ていたからな。

 この世界の人間でないことは確かだ。


 『てっきりこっちの世界の人間だと思っていたんじゃがの』

 『わしとの契約に耐えられたことも頷けるのじゃ』

 『転移の時点で弱い魂は粗方消え去ってしまうからの』


 そうなのか。

 じゃあ俺は幸運だったな…………


 『さて、能力板ステータスの開き方を知らないとなると…………』

 『お主、頭の中で能力板ステータスと念じてみい』


 念じる…………

 こう、か?


 俺の頭の中に突如として板が浮かび上がってきた。

 それには、俺の名前からレベル、ステータスといったゲーム的要素が詰め込まれている。

 やはりここは俺が良く見る小説類の異世界と同じようなものだ。


 『そうじゃ、初めてで成功するとはな。これも異世界人の創造能力故か』

 『では確認するとしよう』


 

 ◇ステータス

 《優一》 

  職業:無し

  レベル1

  攻撃力:10

  防御力:10

  俊敏性:10

  魔法力:10

 ◇スキル

  魂の解放者(ソウル・リベレーター)


 

 なんだこれ。

 全ステータス10って…………

 高いのか低いのかよくわからないぞ。


 『そうじゃな。どうやらお主は平均値だったようじゃ』

 『レベル1の時のステータスは、それぞれ”5~25”の間で振り分けられ、その合計値は必ず40になる』

 『だから、お主は極端に低い能力が無く恵まれておるぞ』


 それ、器用貧乏ってことなんじゃないのか?


 『そうとも言うぞ。しかし、万能であることには変わりないじゃろう』


 まあ、それならいいが…………


 『昔、レベル1のステータスが攻撃力だけ25でほかの能力がすべて5の奴がおった。お主はそっちの方が好みか?』

 

 いや、そんなことは無い。

 そんなステータスなら今の方がましだ。


 『そう言ってくれると助かるのじゃ。わしには初期ステータスだけはどうにも出来んからの』

 

 そういえば、俺の能力の最下段にある”スキル”ってなんだ?


 『それは”技能スキル”じゃな。わしとの契約で与えられる能力じゃ』

 

 そうなのか。

 ちなみに、これってどんな効果なんだ?


 『自分で見てみるといいじゃろう』


 ああ、そうか…………

  ◇魂の解放者(ソウル・リベレーター)

   ”固有能力ユニーク” ”上位能力エクストラ

  ・解析 -人の魂を解析することが出来る

  ・解放 -現世に囚われた魂を解放できる

  ・吸収 -魂の力を吸収し自らの物にする

  ・?? -不明

  ・?? -不明


 なるほど、そういう能力か。

 しかしながら、不明が多くないか?

 

 『不明能力がこんなにある能力はわしも初めて見たのう』

 『なるほど、”魂”…………』

 『お主は幸運じゃ。基礎能力が高いだけでなく、成長を続ける能力を手にするとはな』


 そうか。

 しかし、この能力はどうやって使えばいいんだ?

 解析は何となくわかるが、解放と吸収は意味が分からないぞ。


 『この世の魂は全て世界に未練を持っておる。そのしがらみを解き放つのであろう』


 だが、そんなことして何の得になるんだ?

 そんな能力あっても無駄なんじゃないのか?


 『そんなことは無いぞ。魂がこの世に残っているとゴーストという魔物になってしまうのじゃ』


 なるほど、理解できた。

 しかし、”吸収”。

 こいつは良くわからない。

 ”魂の力を自らの物にする”、か。

 どう使えばいいんだ?


 『魂は力の部分と意思の部分に分かれておる。その力の部分を吸収するのであろう』


 まあ、そういう事か…………

 しかし、そんな事をしたら魂に申し訳ないな。


 『魂の力は失われるもの。気にすることはあるまい』


 それもそうか。

 

 さて、俺の能力を試してみたいな。

 解放と吸収はまだ使う時が見つからないし、とりあえず解析から試してみるか。


 「さて、だれか手ごろな奴はいないか?」

 『探すよりも先に、そのスラム街から出たらどうじゃ』


 …………

 全くもってその通りだ。


 俺はとりあえず裏路地を抜けることにした。

 光が全く差し込んできていない。

 今は夜なのであろうか。

 確か、ここに来たときは昼であったように記憶している。

 

 「長い裏路地だな…………」


 『うむ。どうやらもうすぐ出口のようじゃぞ』


 俺は裏路地をやっとの思いで抜けた。

 俺の予想通り、もう夜になっていた。


 「うおっ、くせえ」


 俺の鼻に飛び込んでくる腐臭。

 ここがスラム街であるのは真実であるようだ。

 あたりを見渡すと、まともな家ではなく、仮建設されたテントや、ボロボロな家ばかりが並んでいる。


 『ここは早めに抜けるべきじゃの。お主はレベル1じゃ。このまま盗賊にでも襲われれば、何も出来んぞ』

 

 ああ。

 早めに抜けないと面倒なことになりそうだ。

 

 『あっちの方向に明かりが見えるぞ。スラム街ではないようじゃの』


 見ると、ちゃんと舗装された道にまともな家が建っている。

 しかし、レンガで作られているようなので、まだ建築様式としては古いものであるようだ。


 とりあえず俺はそちらの方向へ進むことにした。


 俺が歩いて明かりの方に向かうと、俺の進む街道に一人の男が立っているのが見えた。

 その男はこちらに気が付くと、こちらを阻むように手を広げた。


 「おうあんちゃんよお、ここを通りたければ有り金全部置いてくんだな」


 『まずいのお。盗賊とは言わんが、ごろつきであることは確かじゃ』


 くっ、どうすれば…………

 男の服はボロボロ。

 しかし、右手にはナイフ。

 結構体格はがっしりとしている。

 俺が正面から挑めばまず勝てない。

 当たり前だが俺は人と殺し合いをした経験は無いのだ。


 『ここでこそ”解析”を使う時ではないか』


 ああ、そうだった。

 ”解析”―――――

 

 相手から目を離さないようにしながら頭の中でそう念じる。

 すると、俺がステータスを開いた時のように、頭の中に板が浮かんできた。


 ◇ステータス

 《???》

  職業:無し

  レベル6

  攻撃力:26

  防御力:16

  俊敏性:19

  魔法力:11

 ◇スキル

  短剣術:レベル4 身体能力強化:レベル2


 まずいぞ…………

 俺よりも明らかにステータスが高い。

 どうやって倒せばいい?


 『まだこれならお主でも戦えるぞ』


 いや、明らかに相手の方が格上だ!

 倒せっこない!


 『いいから言うとおりに行動するのじゃぞ。まずは奴の側面に体当たりをかますのじゃ』


 あ、ああ。


 「あんちゃんよお………… 俺を舐めてんじゃねえぞ!」


 奴が突っ込んでくるッ!


 『右に避けて体当たりをかますのじゃ!』


 右に強く地面を蹴る。

 すると、男のナイフを持った手がバランスを崩したではないか!


 『今じゃっ!』


 「せいッ!」


 俺は渾身の体当たりをかます。

 すると、バランスを崩していた男は吹っ飛んで街道の端まで飛んでいき、ナイフを落としたのだ!


 『ナイフを急いで拾うのじゃ!』


 俺は奴のナイフを拾い、男に向けた。

 男は俺がナイフを向けているところを見ると、手を伸ばして叫ぶ。


 「ひっ…………! 勘弁してくれ、命だけは助けてくれ…………!」


 『容赦することは無いぞ。お主のレベルを上げるためにもな』


 俺は右手に持ったナイフで奴の心臓を貫いた。

 その直後に奴の首はだらんと垂れ下がり、もの言わぬ屍と化した。

 幸い血は出なかった。

 俺自身は何も跡を残すことなく、男を殺したのだった。


 「殺してしまった…………!」


 『落ち着くのじゃ。それくらいこの世界では当たり前の事。この程度で気を落とすな』


 それも、そうだ。

 落ち着け…………!

 ここは日本じゃない。

 ここは異世界なんだ。

 これが普通であれば、それでいいはずなんだ!


 『落ち着いたようじゃな。さて、”解放”と”吸収”を試してみるかの』


 そう、それだ。

 俺は男に向けて手を翻した。

 

 「解放」


 俺がそう言った瞬間、男の体から何やら光るものが天にすさまじいスピードで向かっていったのが見えた。

 そして、俺は感じている。

 男の体には純粋な力の塊が残っている。


 「吸収」 


 その力は俺に吸い込まれていき、少しの時間をおいて俺に完全になじんだ。

 俺自身の力が強くなったように感じる。


 『うむ、能力板ステータスを見てみい』


 ◇スキル

  魂の解放者(ソウル・リベレーター)

  短剣術:レベル1 身体能力強化:レベル1


 相手のスキルが追加されている…………!


 『うむ、成程。”吸収”は相手の技能スキルを吸い取る物であるようだな』


 これはかなり強いスキルなんじゃないのか?

 能力を吸い取れば吸い取るほど、どんどん強くなっていくわけなのであるから。


 『やはりお主は幸運の持ち主じゃ』

  

 そうか。

 そう言われるとなんだか不思議な感じがするな。


 そういえば、あんたは”解析”できないのか?

 やってみよう。


 『や、やめい!』


 彼女は止めてくるが、発動してしまった物は止められない。

 もう遅いようだ…………


 ◇ステータス

 《”失敗作”ファイリア》

 【ステータス閲覧権限がありません】

 ◇スキル

 【スキル閲覧権限がありません】

 【権限レベル4が必要です】

 

 「えっ………… なんだよこれ」


 『見られてしもうたか』

 『わしはお主の権限では及ばぬ場所にいる。今のお主では見ることはかなわぬ夢じゃ』


 というか、あんたの名前ファイリアっていうのか?


 『そうじゃ。”失敗作”のファイリアと呼ばれておる』


 ずいぶんと不名誉な肩書だな。

 どうにかならないのか?

 

 『仕方ないのじゃよ。わし自身のことを覚えているものも殆どおらぬのじゃ』


 (この人、ずいぶんと苦労してるな…………)

 

 『そういえば、お主は確か優一という名であったな』


 ああ、そうだ。


 『これからはユウと名乗ることにせい』


 どういうことだ?

 別に名前を変える必要はないと思うが。


 『優一という名前では異世界人だと容易にばれてしまう。この世界で生きていくのであれば名を変えた方が良いのじゃよ』


 ユウじゃあまり変わらない気がするが…………


 『普通にある名前じゃぞ?』


 この髪の毛じゃあ珍しいじゃないか!

 さっきの男も黒髪ではなく赤髪だったし…………


 『良く自分の髪を見てみい』


 俺は自分の眼に少しかかっている髪に視線を向ける。

 その瞬間、俺は見たものが信じられなくて叫んでいた。


 「白い…………! 俺の髪は黒だったはずだ!」

 

 『わしと契約したことにより髪の毛の色も変わったのじゃ。わしの髪は白いからの』


 もうこいつに対して常識は通じない気がする。

 というよりこの世界では常識を捨てないといけない気がしてきたぞ…………


 『とりあえず、ユウ。お主はギルドを目指すのじゃ』


 ギルド、か。

 冒険者にでもなれっていうのか?


 『その通りじゃ。この世界で生計を立てるのならそれが一番じゃ』

 『さあ、時間は無いのじゃぞ!』

 『早くこのスラム街を抜けるのじゃ!』

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