邪神の教団
「君に、邪教の信者を壊滅させてほしい」
………どういうことだ?
意味が分からない。
なぜいきなり邪教の信者を壊滅させる話が出てきたんだ?
「君は王都で白騎士連合を蹴散らしたらしいじゃないか」
「なっ!?」
予想外だった。
まさか、あの白鎧たちを蹴散らしていたことがこっちのギルドにも伝わっていたとは………
「その白騎士連合が、邪教とつながっているといううわさが流れている」
「………それが異世界人たちと何か関係があるのか?」
正直、先が見えていない。
「君は、”強制的に魂をささげる方法”についてしっているかね」
「強制的に魂をささげるだって?」
「そう、魂をささげる。その相手は邪神だ」
邪神。
ここでも出てきたか。
魂を邪神にささげることで、理性の崩壊とともに限界を超えた力を手にすることが出来る。
実際、俺は邪神に魂をささげた暗殺者に大いに苦しんだ。
「勇者となる異世界人に、魂を捧げさせて更なる戦力強化を図ろうとしている」
「オルティノ帝国は、勇者となった異世界人を使って支配力を増強させる気だ」
「オルティノ帝国は白騎士連合の本部が置かれている国だ。裏で何かが行われているのは間違いない」
なるほどな。
邪神を崇拝している教団をつぶすことが出来れば、教団とつながっている白騎士連合、オルティノ帝国の戦力増強を止めることが出来る。
「オルティノ帝国が勇者を抱え、それを戦力とすれば我らがエルトブラス王国、この大陸、ましてや全世界が危機に陥りかねない」
「勇者は単体で一個師団を殲滅し得る。それが邪神の力で強化されれば、我らに抵抗する手段はない」
そこで俺に教団を壊滅させようとしているわけか。
どうして俺なんだ?
ほかにも冒険者は居るはずだ。
「君に頼んだのは、君がAランク冒険者並みの力を持っているからだ」
「君のレベルはもう70に達しているだろう?」
俺は静かにギルドカードを手渡した。
フレッグはそこに書かれている俺のレベルを見ると、静かにうなずいた。
「君を初めて見たときから。君が、ギルドの問題児たちを吹っ飛ばした時から」
「君はいつかここまで来るだろうとは思っていた。それがまさか3日間だとはね」
「君なら信頼できる。だからこそ、この任務を依頼したい」
「壊滅まで行かなくてもいい。情報を得るだけでもいい。引き受けてくれないだろうか」
俺は、その言葉を聞いて少しの間考えた。
ギルドマスターからの直接依頼。
受ける価値は十分にある。
どうする?
『道中で人間どもを殺せれば珍しいスキルも入手できる。利益も十分にある話じゃ』
『決めよ、ユウ。わしはお主に決断を託す』
俺は数秒の間目をつむり、考え直した。
そして、答えは出た。
「わかった。受けよう」
それを聞いたフレッグは目を見開いた。
「感謝する、ユウ………」
「俺はどこに行けばいい?」
「王都だ。まずは王都のギルドに向かい、白騎士連合の奴らを調べてくれ。きっと教団と接触するはずだ」
「了解。王都で情報を集めればいいんだな」
「失敗しても構わない。前金として300銀貨ほど君の銀行に振り込んでおく」
300銀貨……
日本円にして30万円だ。
こちらの世界では10枚の硬貨で中硬貨、100枚で大硬貨とするらしい。
つまり三枚の大銀貨だ。
前金としてはかなり大きな部類に入る。
「良いのか? そんなにもらって」
「危険な依頼だ。それぐらい用意しないとな」
彼に感謝すべきだろう。
危険な任務であるかわりに、莫大な前金を振り込んでくれるとは。
さうがギルドマスターといったところか。
「じゃあ、俺はもう行くよ」
「試験後だというのにいいのか? 一日くらい休んでいっても問題は無いだろう」
俺は一撃もブラストにもらっていないからな。
けがは勿論疲労もない。
「なら、止める必要はないな。幸運を」
俺はフレッグを背にして部屋を出ていった。
そして、フレッグはだれもいない会談室で一人つぶやく。
「彼だったらきっとやってくれるだろう」
「この世界の命運を握っているのは彼かもしれない………」
◇
王都に来るのはこれで二回目だ。
一回目が王都のダンジョンに挑んだ時。
二回目が今日だ。
ブロガルドのギルドからエルトブラス王国の王都まで走ってきた。
このレベルになってくると5キロ程度だったら余裕で走ることが出来る。
僅か15分ほどで走り抜け、王都の宿屋までやってきた。
さすがに王都の宿屋の方が品質が良い。
値段は少し高めだがゆっくり休むことが出来ていい。
『さて、どうするかの』
夜に行動した方が良いだろう。
夜に奴らは会うはずだ。
その方が怪しまれないしな。
そこを俺は尾行する。
そのために迷彩服のような物を買ってきた。
少し値段は張ったが魔法の効果でカモフラージュすることが出来る。
王都のオークションで手に入れてきた。
一枚中銀貨を使ってしまったが、すでに効果は確認済み。
昼間でも人には殆ど気づかれない。
目の前で手を振っても反応が無いのには驚いた。
このコートは持ち主の魔力を吸って持ち主を全て透明化できる。
文字通り、完全に透明になるのだ。
『いいものを買ったのう』
ああ、本当にいいものだ。
フレッグから聞いたオークションの情報を覚えていてよかった。
そうでなければ今日ここでは使えていなかっただろう。
夜までしばし待つこと9時間ほど。
午後9時、この世界では人々が寝静まって人気が少なくなる時間帯だ。
俺は宿屋からこっそりと出て街路に入った。
夜の冷たい風がコート越しに伝わってくる。
今着ているのは勿論隠蔽コート。
このコートはコート自体が透明なわけではないので安心できる。
それに、着た時点で着用者自身が透明になるのだから何も問題はない。
俺の魔力が尽きない限り心配は無いだろう。
俺の魔力はレベルアップによってかなり上昇している。
このコートを着たまま6時間は透明になっていることが可能だ。
今の俺は剣も着用している。
もし尾行しているときに気付かれたら応戦するためだ。
今夜で見つけられればラッキーと言ったところか。
そう甘くないはずではあるが。
『とりあえず、白騎士連合の王都支部までいってみるかの』
ああ、その通りだ。
白騎士連合の本拠点はここでは無いだろうが、奴らがここに滞在していることは知っている。
俺は事前に用意しておいた地図を頼りに走り出した。
この地図は王都のギルド支部から拝借したものだ。
地図によると、白騎士連合の拠点はここから北。
王都の北側、国の中枢と呼ぶべき城の近くにある。
徐々に城に近づいてくるにつれてその威容が見えてくる。
白く塗られたレンガで作られた城だ。
恐らく、内部は金属でおおわれているのだろう。
そうでなければ簡単に破壊されてしまう。
白騎士連合の拠点近くまで来た。
城の近くは色々なギルドの拠点が集まっているため、かなり入り組んでいる。
ほとんどのギルド拠点は石で作られた小さなマンションのような外観をしている。
白騎士連合の拠点もその例にもれず白い石で固められた豆腐のような建物だった。
取り敢えず上から見ることは出来ないだろうか。
この近くは入り組みすぎて見渡しがきかない。
『そうじゃな。少し魔力の消費はするが、わしが飛ばしてやろう』
ああ、足裏から魔力を解放すれば大ジャンプができるな。
俺は近くの拠点の壁近くに立ってジャンプする。
と同時に、ファイリアが足裏から魔力を解放して屋上まで飛ばす。
「おお、ここなら見渡しがきくな」
幸いこのギルドの屋上は階段などで内部とはつながっていないようだ。
石で作られているので音も殆ど聞こえていないだろう。
『さて、少しばかり周りを探すかの』
そうだな。
まずは怪しいやつを探すのが先決だ。
少ない人数で行動しているだろう。
一人である可能性もある。
今は人が全くいない状態だ。
こんな時間帯に外に出ている奴は怪しいと思っていい。
俺は拠点たちの屋上を跳びまわって探す。
「みるからに怪しい奴がいるな」
十分ほど探したところで怪しい人間を見つけた。
マントを付けた上からフードで顔を隠している。
俺を襲った暗殺者もあんな服装をしていたな。
それにしても、俺のように透明コートをつければいいのにどうして付けないのか。
つければ圧倒的に気づかれにくくなるはずなのに。
『透明化の魔道具は消費する魔力が非常に多いのじゃ。お主が6時間も着用できるのはお主のレベルの高さと素の魔力の多さからじゃよ』
なるほどな。
魔力が多くてよかったよ。
さて、奴を追うか。
奴が白騎士連合の人間でなかった場合はそれまでだが、白騎士連合のメンバーだったら幸運だ。
フード人間は街の外側に向かって歩いていく。
今の時間帯は街の門が閉まっている時間帯だ。
誰かと落ち合うのであれば町の中だろう。
どんどん町の外へと向かっていく。
おいおい、これじゃあもうすぐ外門だぞ?
街から出るつもりなのか?
『この世界には跳躍の魔道具もあるのじゃ。外周を囲む壁など容易に飛び越せるじゃろう』
彼女の読みは当たってしまった。
フードを被った何者かは門の前で足に力をためるしぐさをした。
その直後、奴の履いているブーツが一瞬光ったような気がした。
同時に奴が門を飛び越える。
俺も追って王都の外周壁の上まで来た。
フード人間は壁の外周を伝って歩いていく。
それを俺は足音を殺しながら追っていく。
出来れば靴も新調したいところだ。
ここまでずっと同じ運動靴だからな。
『見よ。奴め、誰かと落ち合ったようじゃ』
フードが会っているのは黒装束に身を包んだ得体のしれない人間。
身長的にどちらも男だ。
175はあるだろうか。
最低でも年は20を超えているだろう。
「ああ、それで?」
奴らが話している。
俺は耳を澄まして奴らの言っていることを把握しようとする。
「で、本当にその勇者たちは言うことを聞くんだろうな?」
「ああ。我らが神に魂をささげさせれば、我々が勇者を言いなりにできる」
奴らの話を聞いて、ファイリアが言う。
『どうやら、こいつらじゃな』
いきなり当たりだ。
こいつらこそ白騎士連合と邪神の教団のメンバーだ。
本当に幸運だ。
一日目にして探していた奴らを突き止めることが出来るとは。
「へえ。あんたらも結構やるもんじゃないか」
「そっちはどうなんだ? 本当に勇者たちを用意できるのか?」
「ああ、出来るさ。こっちの魔術師が20人がかりで、50人ほど連れてこられる」
「じゃあ、そいつらは全員白騎士連合のメンバーにして魂を捧げさせるとしよう」
「こっちとしてもうれしい話だ。ギルドのメンバーが増えれば戦力は大幅アップだ」
彼らの話を聞いて、ファイリアが唸った。
『ううむ、こやつら。人を兵器として扱うつもりじゃな』
前に言っていた奴か。
勇者はその性質故に強大な戦力になる。
帝国が吸収してしまえば大変なことになる………
『しかも異世界人はこちらにいきなり連れてこられるからの。恐怖で言いなりになる例も少なくはない』
なるほどな。
だが、異世界召喚術は完成したばかりだそうじゃないか。
なんであんたがその結果を知っているんだ?
『異世界召喚術はこの世に三回生まれたのじゃ。そのうち最初の物はわしが生み出し、封印した』
『二回目に召喚術が生まれたときは、呼び出した異世界人に魔術師たちが殺され、再び召喚術は封印された』
『三回目は今回じゃな』
へえ、異世界召喚術の研究をしていたのか。
それならあんたがそれだけ知識を持っている事にも疑問は生まれない。
人間ではないそうだし、長い年を生きているのだろう。
『召喚術は封印されても、他の者が一から作り直せば再び生まれてしまうのじゃ。技術を知る者にその技術を忘れさせるだけじゃからな』
だから、何回も研究されては生み出されるのか。
『その通りじゃ』
「で、どこで落ち合えばいい? キッカロンか?」
「ああ、そうだ。キッカロンの我らが拠点で次なる実験を行おうと思う。お前たちも来て記録しろ」
「分かった。リーダーに伝えておく」
「そういえば、お前たち教団の研究が完成して魂を捧げさせていいなりに出来るようになったら報酬として、5金貨払うらしいぞ」
「5金貨! 素晴らしい、流石は帝王だ。我らも頑張るとしよう」
5金貨………
日本円にして約5億円だ。
莫大な金額だが、それだけの価値があるという事なのだろう。
「いつ実験を行う? 我らにも準備がある」
「次の水曜日だ」
「おいおい、三日後じゃないか! もう少し考えてくれよ」
「しかし、三日後でなければならない。その日は満月だ」
「―――――ああ、わかったよ。三日後だな」
キッカロンで三日後。
確かに覚えた。
そこを襲撃すれば、少しは混乱させれるかもしれない。
あわよくば、混乱に乗じて壊滅させてやりたいところだ。
「では同士よ、さらばだ」
「ああ、我らが神のご加護を」
そう言って奴らは去っていく。
どうやら白騎士のほうはまた壁を超えるようだ。
一応身を隠して気づかれにくくする。
まだ透明化は解除されていない。
まだ追っていける。
追うのは黒装束の教団の方だ。
白騎士が去るのを確認してから、黒装束の方を追う。
『うむ、壁沿いに移動しておるの。この方角はキッカロンじゃ』
キッカロンのどこが拠点化までは聞き出せなかった。
尋問してみるか?
『いや、するだけ無駄じゃ。余計に警戒させてしまうじゃろう』
では、拠点を探すのは明日以降にしておこう。
目標は三日後までに教団の拠点の位置を突き止めることだ。




