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昇格試験

 ギルド昇格試験の日は今日である。

 俺は、この日の為にも自らの技量を保つことを怠らなかったつもりである。


 正直、不安だ。

 俺のレベルは既に70を超えている。

 ファイリアの言うとおりであれば俺が戦うはずのAランク冒険者とも並ぶレベルにある。

 

 しかし、彼女の知識は少し古いようで、最近の事については余り知らないようだ。

 正確に言えば、直近10年ほどの話はあまり知らないようだ。

 

 彼女は力を失っている間、魂自体でしか物質界に干渉できなかったらしい。

 ここでいう物質界とはこの世界の事だ。

 魂自体で接触していたために俺に呼び掛けたときは体を構成できなかったという。

 

 そのため、彼女は今も身体を取り戻せてはいない。

 最低でも俺のレベルが100ほどに到達すれば断続的に体を再構成することが出来るらしい。 

 それでも本来の力の1パーセントも出せないそうだが。

 

 彼女が言っていることが今の世界でも通じるのであれば、俺が負ける心配はない。

 しかし、万が一彼女の情報が古かった場合。 

 その時は俺の方が窮地に立たされることとなる。

 これからの生活を楽にするために昇格試験に合格することは実質的に必須となるのだ。


 ここで必ず勝っておきたいところである。

 

 『憶することは無い、わしが付いておる』


 いや、付いていると言われても心配なものは心配だ。

 あんたはまだこっちに殆ど干渉できないからな。

 俺がピンチな時は俺だけの力で何とかしなければならないさ。


 『わしが物質界に具現化できれば即座に焼き払ってやるのじゃが………』


 やめてくれ、そんなことしたら俺がギルドから追放される。

 というかあんたはいつも物騒すぎるんだよ………


 『そうじゃろうか………』


 ああ、十分に物騒だ。

 頼むから力が戻ってもそんなことはしないでくれよ。

 

 『わかっとる、わかっとる』


 実際どうなんだろうな。


 さて、昇格試験はギルド内の闘技場で行われるらしい。

 時刻は午後の一時から。

 その時間帯まで今はゆっくりとしていられる。

 

 まあ、既に正午になりかけているのだが。

 あと少しで出発しなければならないが、俺にとっては問題ない。

 

 特に気にしていなかったが、この世界でも地球と同じ時刻表記が行われている。

 違和感がないのはいいことだが、こんなに同じように発達するものなのだろうか。


 『時刻の表し方はかつてこの世界に訪れた転移者が残していったものじゃ』

 

 なるほど、その転移者はきっと地球人だな。

 地球の技術が転用されているのであれば日付の表し方や時刻の表し方が同じなのも頷ける。

 

 『転移者や転生者が残していったものは数多くあるのじゃ。そのうちの一つが”銃”じゃ』


 そうだよな。

 前にも少し考えたことがあるが、俺が初めて入った武器屋に置いてあったリボルバーは転移者が残した技術だろう。


 『うむ、その考え方で間違えではないのじゃ。ただ、強力な武器故かその技術は秘匿されているようじゃな』


 やっぱりそうか。

 銃はこの世界の剣などと言った武器の数倍の威力を誇る武器だ。

 遠距離から狙えるという時点で弓の存在価値がなくなるほどに強力だ。 

 

 技術を隠そうとするのも当たり前だ。

 店員が俺を殺そうとしたのもそれが理由だろう。

 俺が武器の知識を持っていればそれが脅威ともなりえるからな。

 

 俺が見た銃はリボルバーだけだが、もし短機関銃サブマシンガン突撃小銃アサルトライフル狙撃銃スナイパーライフルが存在していれば、それだけで戦法そのものが変わるだろう。

 

 ただ、その技術は広く普及しているわけではないようだ。

 俺自身、あのリボルバー以外の銃をこの世界では見ていないのだ。

 

 『うむ、少なくとも十年前の時点では銃の類は出回っていないのじゃ』

 『わしも見たことがあるのじゃが、片手で扱うものしか見たことはないのう』


 ハンドガン、か。

 それだけならまだ安心だ。

 しかし、ハンドガンが存在するということはそれを解析して別のモノが作られている可能性は否定できない。

 銃の構造は単純だ。

 しかもこの世界は魔法の技術も組み合わさっている。

 簡単に複製を造れる可能性もゼロではないのが怖い所だ。

 

 まあ、そんなことを考えていても何も進まない。

 俺は目の前の事にとりあえず集中することにしよう。


 「さて、そろそろ12時半だな。出発するか」


 俺の足ならこの距離を走るのに長い時間はかからない。

 歩いたとしても同じだろう。


 『ちゃんと剣はもったかの? ギルドカードは?』


 あんたは母さんか何かか。

 ちゃんと持ってるよ。


 『それならいいのじゃが』


 俺はいつも通り宿を飛び出してギルドへと走った。


 すっかり道は覚えてしまった。

 まだ来て短いが、俺もようやくこの世界になじんできたという事か。


 「あっというまについたな」

 

 いつもの事だ。

 しかし、日に日に自分の速さが上がっているように感じる。

 これもステータスが上がったことの効果の一つだろうか。

 

 『そうじゃな。お主ももうすぐで”壁”に到達するのじゃ』


 そういえば、壁ってなんだ?

 たびたび聞くんだが、俺には全く分からない代物なんだ。


 『普通にレベルを上げても99で止まるのじゃよ。それ以降に行くには”壁”を超える必要がある』


 だから、その壁の事を聞いているんだ。


 『ある種の条件じゃよ。それを達成しなければそれ以降には進めん』

 『また、人によってその条件は変わるのじゃ。しかも、その条件は本人にも見えない物なのじゃ』


 困ったことだな。

 あんたの”壁”は何だったんだ?


 『さあのう、忘れてしまったのじゃ。何せかなり昔の事じゃからな』


 そうか。

 まあ、いずれ俺も壁を超える日が来るのかもしれないな。

 

 『そうしないとわしも顕現出来ないのじゃからな。超えるのじゃぞ』


 分かったよ。

 どっちみち超えなくちゃいけない壁なんだからな。


 「さて、闘技場はどっちだったかな」

 

 俺が迷っているとなぜかフレッグが現れる。

 いつもギルドに来た時には彼と会うが、そういう運命なのだろうか。

 せっかくだから聞いてみることにするか。


 「ああ、来てくれたんだな。闘技場ならあっちだ、期待しているよ」


 俺は頷いてから指さされた方向へと向かった。


 少し広めの階段を下り、ギルドの地下のような場所に出た。

 

 天井はガラス張りで、外が見えている。

 単純に高さを確保するための構造のようだ。


 形は円形で、観客席と中央の闘技場に分かれている。

 俺が出たのは観客席の方だ。

 ここの通路から中心へと向かうことが出来る。


 『先に行っておいた方が良いじゃろう』


 そうだな。

 あとから迷うよりは、先に待機していつでも中心に行けるようにしておきたいところだ。


 俺は外周からさらに階段を下りて通路へと向かった。

 少し長めの通路を通り、出たのは待機室のような広場だった。


 スペースは結構広めで、今日昇格試験を受けに来たのであろう冒険者たちが集まっている。

 ほとんどが若い冒険者だ。

 俺と同じような年の子供までいる。

 

 『この世界では15になれば冒険者になれるからの。ほとんどの子供は冒険者になっていくのじゃ』


 まあ、そうか。

 子供が多いのも頷ける。

 まあ、年齢的には高校に入ったぐらいの奴らばかりで、決して子供とは言えないのではあるが。


 受付で登録しなければ昇格試験は受けられないようだ。

 早速受付に行ってみることにしよう。


 まあ、特に変わったことはなく受付は終了した。


 しかし、まだ時間がある。

 昇格試験は登録した順番で行われるらしい。

 一番最初に受ける冒険者は他の冒険者からみられる機会が一番多いということだ。

 

 さて、何をしていようか、と俺は壁に寄り掛かった。


 『特に何もすることはないのう。実に暇じゃ』


 あと少しで試験開始だからな。

 少しの辛抱だ。


 「へっ、お前みたいなガキが昇格試験に合格できるのか?」


 案の定絡まれたか。

 自分でも思っていたが、中三で身長が163しかないのは男としては少し身長が低いと思う。

 周りが高いのかもしれないが、そのせいでよく実年齢よりも幼く見られるのだ。

 それに、体格も少し、な。


 『無視するのじゃ、そんな奴に構っても意味は無いじゃろう』


 そうだな。

 相手は俺よりも身長は高いが、どうみても大人ではない。

 まだ16ほどに見える。


 そうなのであれば、俺とはレベル差が大きくついているはずだ。

 たとえ殴りかかってこられても何も問題は無いだろう。


 「無視してんじゃねえ!」


 高校生ぐらいの男子が俺に怒鳴りつけてくる。

 全く持って怖くない。

 

 魔物が狼ならば、こんな奴なんか犬のようなものだ。


 「おい、そこまでにしておけって」


 俺に怒鳴っていた男にもう一人が言って止めさせる。


 「ここで殴っちまったら処罰されるのは俺らだぞ」

 「ちっ……… くそったれ校則め」


 おや、今校則という言葉が聞こえたぞ。

 もしかして奴らはどこかの学校の生徒なのかもしれないな。


 『そういえば、近くの国に学院があったのう。そこの生徒かもしれん』


 この世界にも学校ってあるんだな。

 初めて知ったよ。

 

 ただ、俺は冒険者としての稼ぎでやっていけそうだから学校には入ることはないかな。

 しかも、この世界に来てまで学校に入る必要性は無いしな。


 「昇格試験十分前です。参加者は闘技場内部に入ってください」


 受付が言うのと同時に俺たちは中に入っていった。


 昇格試験は試験官との模擬試合を通して行われる。

 ほかの受験者が模擬試合をしている間、俺たちは闘技場内部で観戦することになる。


 闘技場内部なので、すぐそばで試験官と受験者が戦っているのだが、十分に距離があるので問題は無いようだ。


 そして、いよいよ昇格試験が始まった。

 最初の受験者が闘技場の中心で試験官と向き合う。


 そして、少しの時間戦った末に決着がつき、合否が下されるのだ。


 受験者の中には俺に絡んできた生徒らしき男もいた。

 彼は両手剣を使い、試験官と互角の勝負を繰り広げている。


 『流石じゃな。あの年であの大きさの大剣を軽々と振っておる』


 ちなみに、俺があいつと戦ったら勝てそうか?


 『議論の余地もあるまい。お主の圧勝じゃ』


 だろうな。

 あいつもレベル自体は低そうだ。

 ただ、年齢の割には筋力が優れているという事か。


 『さて、お主の番じゃぞ』


 俺の前に戦っていた冒険者が去ってから俺は闘技場の中心に立った。


 そして、俺と向かい合ったのは一人の男だった。

 年は35ほどだろうか。

 無精ひげを蓄え、片手剣を携えている。


 「お前が飛び級するっている子供か。楽しみにしていたぞ」


 男は気さくに話しかけてくる。


 「俺はブラスト。お前は?」

 「ユウだ」

 「そうか、ユウか。覚えたぞ」


 「言っておくが、俺は手加減しないからな。ユウ、お前も本気で来い」


 その言葉と同時に試験官ブラストの気迫が大きく増した。

 これがAランク冒険者のパワー。

 互角に近い相手との闘いだ。

 決して油断は出来ない。


 「行くぞ、ユウ!」

 「こちらこそだッ!」


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