魔王軍戦譚
「魔王様、申し上げます!!」
スライムの青年が叫んだ。
「どうしたスライム族族長伊村!?」
魔王が返す。その言葉は確かな焦りを孕んでいた。
「我がスライム族のパーティーが…全滅致しました!!」
「なに!?防御力と逃げ足が特徴の鋼の一族はどうなった!?」
「『経験値が多いぜえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』などと叫んだ勇者共に全滅させられました!!」
伊村が悔しそうに叫ぶ。
「3人1組で戦う『塔の一族』も、八人で王を生み出す禁忌の秘術までも使ったのですが…全く歯が立ちませんでした…私は…」
「もういい、伊村!今いるものを連れて逃げよ!!」
「しかし、魔王様それでは!!」
「良いのだ。我はこれ以上部下が死ぬのを見ておれん。」
その時、新たに二人が報告に上がる。
「魔王様!!申し上げます!」
「どうした一角獣族長角!?飛翔ゴブリン飛車!?」
「右翼艦隊、左翼艦隊が…全滅いたしました!!」
「何故だ!?1対多数戦闘で行けと言ったであろう!?」
「奴ら…全体殲滅魔法を使ってきました!!」
「『古代の神秘』か!?バカな、神の時代のものでは無かったというのか!?」
「我ら、この目でしかと見ました。アレは…アレはもう人ではございませぬ!!」
「勇者め…我々の生活圏を奪うだけでは飽き足らず、我らを根絶やしにしようと言うのか!?恥を知れ!!」
魔王は憤った。
そんな魔王に声をかけるものが一人。
「僭越ながら魔王様。」
そこに居たのはいかにも剣士といった出で立ちの鬼。
「何だ克彰?」
「ここは、私が出るしか無いかと。」
「お前が!?撤退を我は視野に入れていたのだが。」
「いえ、これは私事なのですが、この克彰、もう我慢できませぬ。我らが人間と結んだ協定を先に破ったのは奴らで、我々は危害を加えていないというのに滅ぼされるこの状況、我らは黙っていて良いのですか!?私はそのような事はできませぬ!!必ずや、敗れた者達の仇、討ってやりましょうぞ!!」
「…分かった。克彰、お前に任せる。」
「ハッ!!この克彰、命に変えてでも勇者を討って参ります!!」
そう言って克彰は出ていった。
「克彰…死ぬなよ。我はまたお前と盃を交わしたい。」
そう呟いた直後、部屋に青年が入ってきて、叫んだ。
「魔王様!!申し上げます!!克彰殿が…克彰殿が封印されました!!」
「なにぃ!?」
「勇者は、克彰殿の覚悟を嘲笑うかのように女神から貰った道具で克彰殿を…」
「もういい、」
魔王は呟いた。静かな怒気を孕んでいた。
「我が出る。」
「しかしっ…」
「我が出るしかなかろう!?もう我は我慢ができぬ!!禁忌を破り、攻勢に出たのは奴らだ!!我が出る!!」
そして魔王は続けた。
「お前らは避難せよ。我の居なくなった世界のことは、伊村、お前に任せる。」
魔王は言い放った。伊村が叫ぶ。それは、悲痛な叫びだった。
「しかし魔王様っ…!!」
「我が居なくなった世が、今よりも良いものだといいな。」
魔王はそう言って、去って行った。
魔王が勇者と相対する。
「やっと見つけたぞ、魔王め。よくも民を傷つけてくれたな。」
「『民を傷つけた』?それはこちらのセリフだ…それはこちらのセリフだ!!」
魔王は激昂した。
「貴様らが我らの生活圏を犯し、我らを見て驚き、石を投げ、迫害し、有りもしない話を作った!!それを…それを自らの被害とするか!!勇者よ!!ならば良い。我はここで貴様を…」
魔王は、刺された。
勇者の剣が心臓に深く突き刺さっていた。
「魔王を倒したぞ!!今夜は祝賀会だ!!みんな!!早く帰って報告だ!!」
『おう!!』
そう言って勇者一行は帰っていった。
「魔王様…魔王様っ!!」
伊村が叫んだ。
傍らには角、飛車、避難を準備していた者達がいた。
魔王が呟く。
まだ、息はあった。
「なんだ…お前ら……まだいたのか…」
「魔王様!!おい、回復班を…」
「もう良い。我はここで滅びる運命なのだ。新たな世界を…お前達が作るのだ。」
頼んだぞ。と言い残し、魔王は息絶える。
「魔王様…魔王様!!」
伊村は叫んだ。
そして呟く。確かな決意を瞳にともして、呟く。
「俺は…お前達に復讐する。何年かかろうが必ずなぁ!!勇者ァ!!」




