6.前世のことは話せない。だけどセリカとお話がしたい
わたしは、前世の自分の名前を思い出すことがどうしてもできなかった。
記憶のその部分だけが切り取られたようになっているのだ。
これは多分、前世のことをわたしが誰かに話したりしないように女神が意図的にそうしたんだと思っている。
本当はさっさとセリカに前世のことを話してしまいたいし、名前がわからなくても無理に話をすることもできないことはないんだけど、なんとなく嫌な予感がしたからそれはやめておいた。
もしもそのことでセリカに迷惑がかかったりしたらやだからね。
だけど、なんとかセリカとはちゃんと話をできるようになりたい・・・。
どうせ今日はもう暇なんだし、それに明日のバトルで勇者の力を奪われてしまったら、私は消滅しちゃうのだ。
それも正直言って、あのメンバーの中で一番弱いわたしが勝ち残るなんてことは万に一つだってありえないと思う。
だから、わたしがいなくなってしまう前にセリカがどれだけ成長して立派になったのか、自分自身の目で見ておきたいっていう気持ちがあった。
でも、どうやって話しかけるのが一番いいだろう。
わたしが頑張って考えて出した答えは『一番チビで弱いわたしが、頼りになりそうなセリカに話しかけた』という感じで話すことだった。
そうそう、今さらながら呼び捨てはマズイよね。
今のわたしは1年生だから、6年生に対してはさん付けで呼ぶ方がいいよね。
そこまで気持ちを固めてから、わたしはセリカのお部屋を訪ねた。
扉をノックして、出てきたセリカと顔を合わせて、・・・ちょっと緊張。
あれ、何で緊張してるんだろう。
前世では平気で気軽に話してたのになあ・・・。
あ、でもあのときは、逆にセリカの方が気軽じゃなくって、緊張しちゃってたのかも。
特に最初に会った頃はね。
「あの・・・セリカさん、かっこいいですね。やっぱり勇者に相応しいのはセリカさんだと思います。わたしはどうせ無理だから、わたしはセリカさんを応援したいと思います」
ああ、なんかぎこちない感じになっちゃったけど、なんとかうまく切り出せた。
「ももちゃん・・・だっけ?さっきみんなの前でそう言ってくれたときはとっても嬉しかったよ。だけど、私はまだまだだよ。私には凄く憧れた勇者様がいて・・・いつかあんな風になれたらいいなって思うけど、今はまだ全然ダメ。せめて格好だけは勇者様らしくって思ってこんな装備は整えたけど、中身が伴ってないからね」
今のセリカが『中身が伴ってない』って言うのなら、わたしなんかどうなっちゃうんだろう。
あと、こんな風にわたしの前世の話をされるとなんか、泣きたくなっちゃう。
セリカは半泣きになったわたしの顔を心配そうに除き込んだ。
ダメだ、こんなことで心配かけちゃ。
そう思うんだけど、涙が止まらなかった。