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8 ゾンビでも美少女を部屋に入れる時は気をつけよう

「今日からここが初音の家だからね」

「(うん。アキラと暮らせて嬉しいな~新婚さんみたいだね)」


 少し顔色が悪いだけで初音の見た目は人間と変わらない。

 ただ、ゾンビ語は如何(いかん)ともしがたい。

 ネクロマンサーである僕は普通に会話が出てきているけど、他の人が聞けば「あ”~う”~」と言っているようにしか聞こえない。

 ゾンビは人間の脅威だ。

 生きている人間にとっては、初音を殺そうとするか、逃げるかの二択しかないだろう。

 「私悪いゾンビじゃないよ」とスライムのように言えたとしても信じてもらえないと思う。


「僕の部屋に行こうか?」

「(うん!)」


 だから、僕が生きている人間を探しに行くときは、初音にはここで待っていて貰うしかない。

 二階にあがって右手が僕の部屋、左手が結衣の部屋だ。

 さきほどは初音の着替えのために結衣の部屋に入ったが、今度は僕の部屋のドアを開ける。

 目に入ってきたのはフィギア、薄い本、漫画、ラノベの特典タペストリー。

 とても女の子を入れられないことに気がついた。


「ご、ごめん。片付けるから廊下で待ってて」

「(なんで! やだ! 入りたい! 片付け手伝う!)」


 ゾンビ化している初音は本音しか言えない。

 それでもネクロマンサーである僕の意見は絶対だ。

 やだと言いながら決して入っては来ない。

 なんだか無理矢理に強制しているような気がして申し訳なくなり、入れることにした。


「どうぞ。散らかっているけど」

「(やったー! アキラの部屋ってどんな部屋なんだろー! わっ……エッチなものがたくさんだ……)」


 すいません。その通りです。


「エッチでごめんなさい」

「(どうして他の女の子のエッチなものばっかりなのっ!)」


 初音が涙目になっている。


「他の女の子?」

「(どうして私のエッチなものがないの!?)」


 そ、そういうことか。

 ゾンビは本心しか言えないし、思考力が低下している。


「そりゃ初音のエッチなものがあれば……」


 い、いや違うか。初音のエッチなものなんかあるわけがない。


「初音にエッチなことができないから持っていたんだ」


 もちろん、漫画とかラノベのタペストリーとか必ずしもエッチな目的で所有しているわけでもないのだけど初音が悲しむなら、そういうしかない。


「(え……私にエッチなことができるなら他の女の子のエッチなものはいらない?)」

「う、うん。もちろんだよ」

「(ならエッチなことして!)」


 こ、困ったな。

 初音が僕のことを好きなことはわかっている。

 今の発が本音だということも。

 でもそれを隠せるという選択肢のない本音であっても、本物じゃない気もする。

 僕は初音を頬にキスをした。


「あ~初音にエッチなことをして満足したなあ。エッチなグッズなんかいらないや!」

「(嬉しい。でも……もっとして欲しいなぁ……もっと……)」


 僕は聞こえないふりをしてダンボールにグッズをせっせと詰め込んでクローゼットに放り込んだ。

 初音はコルクボートを見て固まっている。

 まだエッチなグッズがなにか貼ってあっただろうか。

 コルクボードには一枚の色あせた写真が貼ってあった。


「(写真……)」

「ご、ごめん。すぐ剥がすよ。あっ」


 それはまだ僕と初音が仲良く遊んでいた頃の小学生時代の写真だ。


「(なんで? 写真……)」


 初音はもう無意識に本当のことを話すしかないのだ。

 僕もできるだけ本当のことを話すべきだろう。


「このちょっと後に……初音のことが好きだったことに気がついて……気楽に遊べていた時代の写真を貼っ……ぶはっ!?」

「(アキラ! アキラ! アキラ!)」


 初音に飛びかかられて二人でベッドに押し倒れてしまった。

 必ず初音を人間に戻すぞ!


◆◆◆


 二人で一階に降りて台所に行く。

 冷蔵庫の電源は落ちていて中の肉は腐っていた。電気はもう通っていないようだ。

 米はすこしあるがすぐになくなってしまうだろう。

 超初期のゾンビは新陳代謝もしている。つまり食事も必要だ。

 僕もお腹が減っている。


「初音。お腹へってる?」

「(へってる)」


 初音を生きている人間に見つからないよう、この家で生活させないといけないので食料や水を確保しておくべきか。

 人探しは明日以降にするしかない。

 暗くなる前に食料や水を確保して家に戻るべきだろう。

 すぐ近くにコンビニがある。

 そこならば色々あるはずだ。


「よし! 初音! コンビニ行ってご飯を買ってこよう」

「うん!」


 僕達は再び外に出た。

 無数のゾンビが徘徊しているけど、もう初期ゾンビになって襲われない初音と腕を組む必要はない。

 普通に歩こうとしたが、初音が悲しそうに僕の腕を取る。

 やはり腕を組んで歩くことにした。


「ゾンビに気をつけろよ」

「(うん! 気をつける!)」


 コンビニに到着した。

 入口のガラスは割れ、中の商品は散らかり、血痕が付着していた。

 僕らはゾンビよりも足元に気をつけたほうが良いだろう。

 制服を着たゾンビが身体をゆらゆらさせながら店番をしていた。

 バイクのフルファイスメットに金属バットを持ったゾンビもいた。

 きっと食料を取りに来たんだろうが、ミイラ取りがミイラになって、今じゃ仲良く店番だ。


「お、缶詰が結構残ってるな。サバの味噌缶、イワシの醤油煮缶、すげえカニ缶まである」

「(おいしそー)」


 インスタント味噌汁もある。米は全て無くなっているようだが、バックヤードにチンするご飯を8パックも見つけた。カップ麺もパスタもある。

 後は飲料水か。水は2リットルが一本しか無かったけどお茶が残っていた。電気がないからロウソクも使うかもな。


「結構な量あるな」

「(台車をつかおー)」


 思考力が低下しても台車を使うぐらいの発想はできるみたいだ。

 ゾンビが徘徊するなか食料と水を詰め込んだコンビニかごを台車に乗せて家に帰った。


「ただいまー」

「(ただいまー)」


 初音と一緒に帰る。


「さて夕食を作りますかね」

「(なに作るの?)」

「チンするご飯とインスタント味噌汁と鯖缶」

「(ううう。楽しみ)」


 質素に思えるかもしれないが、異世界料理には飽き飽きしてたからね。

 初音も楽しみのようだ。

 しかし……僕はすぐに問題に気がついた。


「よく考えたらチンするご飯はレンジがないとダメじゃないか。インスタント味噌汁のお湯はどうやって沸かせばいい? ガスもケトルも使えないぞ」


 結局カップラーメンを食べることにした。

 狭い庭で古新聞の焚き火をしてヤカンのお湯をわかす。

 お湯一つ沸かすのも大変だ。スーパーに行けばカセットコンロがあるかもしれない。

 近いうちに行く必要があるだろう。

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