表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

7 ただいまネクロマンサー

「あ”~う”~あ”~う”~※以下略ゾンビ発音(あははは。いや~私もゾンビになっちゃったね~)」 

「あははは。じゃないよ。初音のおじさんとおばさんにどう言ったら良いのさ」

「(でもアキラ、死霊術でゾンビの呪いの進行を止めてくれたんでしょ? これなら思考も保てるし)」 


 微妙に顔色が悪い程度の少女、初音が楽しそうに僕に抱きついてくる。

 そう。僕は死霊術で初音のゾンビ化を超初期段階で止めることに成功したのだ。

 お師匠から話だけは聞いている程度の一種の禁呪だから成功するとは思わなかった。


「(アキラ。好き好き好き)」

「ちょっ、やめっ」


 初音が抱きついてくる。

 文句を言いそうになって止めた。

 どうして初音がこんな状況で明るいのかというとゾンビ化が影響しているのだ。

 ゾンビになると超初期段階でも知能が低下するためか、感情を隠すのが難しくなる。

 嬉しければ嬉しい。悲しければ悲しいと……。

 嘘もつけない。本当のことを答えてしまう。



――つまり、ゾンビになっても先程の僕の言動が嬉しかったというが初音の本音らしい。



 そしてこの状態では、ゾンビの感染力は低いので少なくともネクロマンサーである僕には感染しない。

 ゾンビに作用する絶対領域もない。

 人肉が食べたくなるということもない。


「やめーい」

「(なんでなんで。いいじゃんいいじゃん。近づくこともできるみたいだしー)」


 初音が僕の頬に唇を近づけてくる。

 あの時キスをしても僕に感染などしはしなかったのだ。

 さらに言えば、ネクロマンサーはゾンビを使役もできる。

 この術が禁呪法にされている最大の所以(ゆえん)だ。

 簡単に言うと術者のことが好きでも嫌いでも命令を聞かせられる操り人形が作れるのだ。

 普通のゾンビでは噛まれれば感染の危険があるのでそうはいかない。


「嫌がるゾンビに、無理やり命令するってネクロマンサーのほうが多いんだろうな」


 そういう暗い欲望は……正直、わからんでもない。

 もちろん、そのようなことをするつもりはないけれど。


「(ん? なにそれ?)」

「ああ、いや。こっちの話」


 ともかく初音はゾンビには噛まれたけど、超初期段階でゾンビ化を止めることができた。

 聖魔法か、異世界の神高級治療薬があれば人間に戻せるし、僕の知らない死霊術もあるかもしれない。

 清田が魔王を倒してこちらに戻って来れば、向こうの世界にまた行く方法もあるかもしれない。

 あるいはゾンビ化しても賢者の初音が神聖魔法を覚えるか。

 いずれにしても人間に戻すチャンスはきっとまだあるはずだ。


 でも大きな問題が……ある。



「あ”~う”~あ”~う”~(アキラ大好き!)」


 恥ずかしいな。僕のことを好きだというのはわかったよ。

 問題はゾンビ語しか話せない初音が普通の人にあったらゾンビだと攻撃されたり、恐れられてしてしまうということだ。

 学校に行ったり、初音の家に行って、ゾンビになっていない人間に会うことはできないだろう。

 ということで、この方法しかないな。


「初音、僕の家で暮らさないか?」


 誰かを助けに行くときは、初音には僕の家で待っていてもらうのだ。


「(え?)」

「僕と一緒に暮らすんだよ」


 ネクロマンサーはゾンビに強制もできてしまう。

 初音が隠そうとしていることでも正直に答えさせてしまうから質問もあまりしたくないのだが、仕方ない。


「(ホント? 暮らす! 暮らす! やったー!)」


 僕も嬉しいよ。だから涙は見せない。初音はこんなに明るいのだから。

 彼女から顔を隠す。


「じゃあ、僕の家に戻ろう」

「(うん!)」


 ゾンビだらけの街を二人で歩く。


「(ゾンビになっちゃったけど最高だな~嬉しいな~! アキラと一緒に暮らせるんだもん)」

「大丈夫、必ず戻すから」

「(ゾンビだからアキラと暮らせるならゾンビのままのほうがいい!」


 視界が歪んで前がよく見えん。

 ゾンビだからこそ、僕がそう言っていると思っているようだ。

 違う。すぐ一緒に暮らすのはともかく、いずれそうなることは望んでいたんだ。

 それどころか望外の喜びかもしれない。


「ゾンビを治しても一緒に住むよ。でも……ゾンビは治そう」

「(ホント? やったーやったーやったー!)」


 くっ。初音の前では笑わないと。


「(ごめんね。アキラが悲しいはわかってるんだけど、嬉しすぎて喜んじゃうんだ。わーい! わーい!)」


 え? 僕は涙顔を隠すのを忘れて初音に振り向く。

 初音も涙を流しながら心底嬉しそうな顔をしていた。

 僕だって嬉しいさ。初音と一緒に暮らすのだから。

 そうこうしているうちに僕の家に戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ