38 初音とクラスメイト
家に向かう途中のバスの中で、高瀬に初音のことを話した。
実は初音も異世界から一緒に帰ってきたということ。
こっちの世界で初音がゾンビに噛まれてしまったこと。
その際、とっさに死霊術をかけ、なんとか完全なゾンビ化は免れたこと。
そして今まで、自宅で一緒に暮らしていること。
一通り、俺は説明した。
高瀬は初音がゾンビになってしまったことにショックを受けていた。
「そんな……初音ちゃんが……」
高瀬は目尻に涙を浮かべてた。
彼女は初音と仲が良かった。
だからこそ、その衝撃は大きいのだろう。
「隠していて悪かった。なかなか言うに言えなくて……」
俺がすまなさそうに返すと、高瀬は涙を拭って言った。
「ううん、大丈夫。むしろ、アキラくんには感謝してる」
「感謝?」
「うん。死霊術で、初音が完全にゾンビ化するのを防いでくれたんでしょ?」
「ああ、あれしか方法は……なかった」
「なら、それで十分よ。初音を助けてくれて、ありがとう」
「……そう言ってくれると助かる」
高瀬と結衣を連れて家に帰って来た。
玄関のドアを開けると。
「(おかえりアキラ! 今日は早かったね!)」
いつものごとく初音が飛びついてきた。
その光景を目にした2人は絶句した。
無理もない。
よく見知った人物が、ゾンビになった状態で俺に抱きついて来たのだから。
しかも2人には、初音の声は「あ”~」とか、「う”~」とかにしか聞こえていない。
なにを言っているのかわからない分、戸惑いも大きいだろう。
「ただいま初音。今日はお前の友達を連れてきたぞ」
「(友達?)」
初音が顔を上げ、高瀬の姿を捉える。
「(わ~、夏美ちゃんだ~。久しぶり~)」
初音は高瀬に近づいて笑顔を浮かべた。
「えっと、アキラくん。初音ちゃんはなんて?」
「夏美ちゃん、久しぶりだってさ」
「そ、そうなんだ」
高瀬は一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに深呼吸して言った。
「初音ちゃん、こちらこそ久しぶり。元気……じゃ、ないわよね?」
「(ううん、元気だよー!)」
「元気だってさ」
「ならよかった」
ホッと、高瀬は胸を撫で下ろした。
「(結衣ちゃんもいる! 久しぶりだね~!)」
初音は次に妹の結衣に話しかけた。
「久しぶりだとさ」
「お、お久しぶりです、初音さん!」
結衣は緊張気味に初音に挨拶した。
「(わ〜、結衣ちゃん、大きくなったねぇ〜)」
優しく微笑むは常に、結衣は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
予想とは違って微笑ましい雰囲気だ。
「2人は怖くないのか、その……」
一応、初音はゾンビなんだけどと言おうとする俺を高瀬が遮った。
「思ってた姿より全然怖くないよ。言葉が通じないのと、ちょっと顔色悪いかなーってくらい」
「うん、やっぱりすごい美人さんだよ! お兄ちゃんの素早い対応のおかげだね!」
どうやら初音は、第三者からすると思った以上に外見が変化していないみたいだ。
「えっと、それじゃあ、2人に相談なんだけど……」
俺は初音が、ショッピングモールで皆と一緒に暮らすことができないか尋ねた。
高瀬と結衣は、少し考えるそぶりをしたが、なんでもない口調で言った。
「別にいいんじゃないかな? その方がアキラくんも楽だろうし」
「初音さんのその外見なら、大丈夫と思うよ。ゾンビっていうほどゾンビじゃないし」
2人とも肯定的だった。
「え……大丈夫、なのか?」
結構シビアな返答が来ると思っていただけに、俺は呆気にとられた。
「だって初音ちゃん……ゾンビ化してるって言ってもほとんど人間じゃない。これくらいのビジュアルなら、怖がる人もほとんどいないと思うよ」
「なるほど……」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
「それに、初音ちゃんに害はないんでしょ? アキラくんとのやりとりを見てたらわかるわよ」
「うんうん。大丈夫だと思うよ、お兄ちゃん」
2人の反応から考えるに、案外大丈夫なのかもしれない。
「わかった。じゃあ、連れて行くことにするよ。2人とも、もしもの際には説得を頼む」
「もちろん」
「任せて!」
2人の心強い頷きに、俺は安堵の息を漏らした。
「よかったな初音、これからは一緒に暮らせるぞ!」
「(ほんと!? やった! わーいわーい!)」
というわけで、初音をショッピングモールに連れて行くことが決定した。
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