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37 睡眠って大事

 翌日、いつもより朝早くに家を出た。

 昨晩いなくなったことで不審に思われていないか心配しながらも、ショッピングモールに帰ってくる。


 安全地帯に足を踏み入れると、何人か起きている少女たちが俺に気づくなり駆け寄ってきた。

 彼女たちは皆、曇りのない笑顔を浮かべていた。

 昨日の、死にそうになっていた暗い表情から想像もつかない笑顔だ。

 やはり睡眠は効果絶大である。

 と、そんなことを考えていると。


「おかえりなさい、アキラさん!」


 元気のいい挨拶とともに出迎えられた。


「た、ただいま。よく眠れたか?」

「はいっ! おかげさまで!」


 なんだろう。

 不審に思われているどころか、好感度が昨日よりアップしているような気がする。

 瞳には、俺に対する尊敬の念が溢れているように見えた。

 

「ど、どうしたんだみんな? なんか昨日と様子が違うぞ……?」


 それとなく尋ねてみると、少女達は興奮した様子で言った。

 

「結衣ちゃんから聞きました! アキラさん、すごいです!」

「本当に、感謝しても仕切れないです!」

「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」


 少女達が次々に頭を下げてきた。

 な、なんなんだこれは。

 状況が読み込めず固まっていると、高瀬がやってきて言った。

 

「アキラくん、私たちが寝た後すぐ、他に食料がある店がいないか探しに行ってくれてたみたいね。本当、あなたには何度お礼を言えばいいのか……」


 本当にありがとうと、高瀬にも頭を下げられた。


 結衣が寝ているベッドを見つけ、目をやる。

 彼女は騒ぎで目を覚ましたのか、寝ぼけ眼をこすっていた。


 これ、どういうことだ?

 という意味を込めた視線を結衣に送ると、彼女は親指をグッと立てた。

 まるで、お兄ちゃんのために頑張りましたと言わんばかりに。


 なるほど、状況は理解した。

 おそらく俺は、結衣の伝言により皆が寝静まった後に夜の街を散策して、食料や水がある店を探しに行ったことになっているのだろう。


 いい感じにしておくとは言われたが、まさかこんな事になっているとは。

 

「それで、他に食べ物がある店は見つかったんですか?」


 少女の1人が、期待に満ちた表情で尋ねてきた。

 俺は少し考えて言った。


「あ、ああ。ちょっと先にあるスーパーにも、保存の効く食料とかあったぞ」


 一応、本当のことだ。

 以前、高瀬と行ったスーパーである。


 俺の言葉に、少女たちは喜んだ。

 重ね重ね感謝の言葉を受け、頭を下げられる

 とはいえ、やってもいない事を褒められるのも心苦しい。

 今度ちゃんと、食料が残っているスーパーを新しく開拓しよう。

 

 そんなことを考えていると、高瀬が俺の腕を掴んでいた。


「アキラくんには感謝してるけど、流石に昨日から無理しすぎよ。さあ、今からちゃんと寝なさい」

「え、いや、俺は……」


 大丈夫だと言おうとしたら、いつの間にか少女たちに囲まれていた。


「アキラさん、疲れてますよね?」

「いくらアキラさんとはいえ、寝てないと体調崩しちゃいます……」

「さあ、早くベッドへ行きましょう!」

 

 俺は夜から朝まで外をうろついていた事になっている。

 なので、少女達は俺の寝不足を心配しているのだろう。

 ここで平気と言うより、素直に疲れている事にした方が良さそうだ。


 少女達に担がれるように連れていかれ、俺は家具コーナーの一番良さげなベッドに寝かされた。

 今まで触れたことのない上質な肌触りと質感に一気に眠気が呼び起こされる。

 

「みんな、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて少し休むとするよ」


 昨日は色々活動した上に、今朝も早めに起きたからまだまだ寝られる。

 なにかあったらすぐ起こしてと言い残した後、俺は布団に潜り込んで二度寝するのであった。


♦︎♦︎♦︎


 結局昼くらいまで寝てしまった。

 おそるべし、高級ベッド。

 

 体力は全回復して快調そのものだったが、少女達からはまだ足りないんじゃないかと心配された。


「大丈夫。ベッドが良かったおかげでこの通り、元気になったよ」


 そう返すと、少女達は驚いた表情を浮かべた。


「すごい……アキラさん、どれだけ体力があるの……」

「ほんと超人ね……」


 そんな言葉とともに憧れの視線を注がれる。


「いやいや超人なんて……本当、普通の高校生だよ、俺は。……ちょっとゾンビ弄れるけど」


 なにはともあれ状況確認だ。

 少女のひとりに聞いたところ、中学生たちの何人かと、中川と原田がまだ寝ているようだった。

 昨日まで怒涛の日々を過ごしたのだ。

 無理もない。


 というわけで、起きている子達に先に昼食を作った。

 昨日と趣向を変えて白ごはんとおかず系の缶詰にしたが、皆、美味しそうに食べてくれた。

 昼食を終えた後、二階へ行き、伊藤がご所望の本屋を安全地帯にする。

 これで当面の間は暇を潰せるだろう。


 そのことを少女たちに伝えると、皆、一目散に本屋へと駆け出した。

 皆、娯楽に飢えていたのだろう。


「本当にありがとうございます、アキラくん! すごく嬉しいです!」


 伊藤が本を胸に抱えて感謝してきた。

 目がこれまでにないくらいキラキラしている。


「本、好きなんだな」

「はい! これくらいしか私、趣味がないので……」


 頰を掻きながら伊藤は照れ臭そうに言った。

 喜んでくれたようでなによりだ。


 皆が本を漁っている間、俺は家電コーナーに行ってラジオを取ってきて、皆のところに設置した。

 電池を入れて起動する。

 

「ふむ……流石に雑音しか聞こえないか……」

「ふわぁ……アキラ、なによそれ」


 ついさっき起きてきた様子の中川が、眠気まなこを擦りながら尋ねてきた。


「見ての通り、ラジオだ。今はどこの電波も繋がらないけど、そのうちなにかしら拾うかもしれない」


 そう返すと、中川は一瞬で目覚めたように目を見開いた。


「なるほど! さすがアキラ、頭いい!」


 いや、これくらい誰でも思いつくと思うんだが。

 そんな心のつぶやきは心にしまっておく。


 さて、ラジオも設置した。

 あとやることといえば、ショッピングモールの他のエリアを安全地帯にすることだが。


 ……先に、初音の件に取り掛かる事にした。

 

「結衣、高瀬、ちょっと来てくれ」

「なになに兄ちゃん?」

「どうしたの、アキラくん?」


 怪訝な表情を浮かべる2人に、俺はこっそりと耳打ちした。


「ちょっと会って欲しい人がいる。ついて来てくれないか?」


 昨晩、初音のことを伝えておいた結衣はなにかを察したようで、コクリと頷いた。

 

「え? なになに、どういうこと?」


 高瀬は状況を飲み込めない様子だ。


「来ればわかる」


 真面目な口調でそう言うと、高瀬はわかったと了承してくれた。

 皆に、バスで生存者の捜索と、役に立ちそうなものがないか探してくると言って、俺は結衣と高瀬を連れてショッピングモールを後にした。

毎日更新で駆け抜けています。


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