36 ただいま
「ただいまー」
「(おかえりアキラ!)」
帰宅するなり初音が出迎えてくれた。
帰ってきたという実感が湧いてくる。
「(今日は帰ってくるの遅かったね?)」
初音が心配そうな表情を浮かべた。
「ああ、今日はいろんなことがあったからさ。あとでゆっくり話すよ」
「(うん、わかった)」
初音は素直だ。事情を察してくれているように。
「お腹空いたろ? 早く飯にしようぜ」
「(やった、ご飯! もう私、お腹ペコペコ!)」
「待たしてごめんなさい」
俺たちは台所へと向かった。
「(今日のご飯はなにー?)」
「ふっふっふ、今日はごちそうだぞ」
俺はショッピングモールで漁ってきた食料をテーブルに広げて見せた。
「(わー! なにこれ!?)」
今まで食べてきたものとは違う、リッチなパッケージに初音が興奮している。
「美味しさを重視した長期保存食だ」
持って来たのは、豚汁の素と、すき焼きの缶詰、豚角煮大根の缶詰。
缶詰の一つ一つは、今まで食べてきた普通の缶詰よりもふた回りほど大きく、白ご飯と食べたら満腹になれそうだ。
最近、栄養素が偏った食事しか摂っていなかったから、なにかバランスが良いものはないかと探していたところ、災害非常食を売っているコーナーにて発見したのだ。
普通の缶詰よりも味の質が高く、栄養もたっぷり含まれている。
平常時の値段はかなりのものだが、社会機能が終了しているので今更ながらタダである。
「(すごいすごい! 美味しそう!)」
「だろ? 早速温めて食べよう!」
「(うん!)」
いつもの要領でご飯を炊き、缶詰を湯煎で温めた後、豚汁の素を入れたお椀にお湯を注ぐ。
缶詰を開けると、香ばしく食欲をそそる匂いが漂って来た。
ショッピングモールでシーフードカップ麺を食べたのに、胃がキュッと引き締まる。
「(わああ、すごい!)」
「今日は一段と豪勢だな」
二人でいただきますをした後、早速すき焼きの缶詰からつつく。
「うまい!」
「(すごく美味しい!)」
俺と初音は声をあげた。
普通にすき焼きをするとの遜色ないクオリティだ。
牛肉が甘辛いタレと絡んでご飯とよくあう。
ネギや白菜など、野菜が入っているのもありがたい。
世界がゾンビだらけになって物流が止まった中でこんなに美味いものが食べられるとは夢にも思わなかった。
「角煮のほうも美味いぞ」
「(ほんと? もぐもぐ……美味しいー!)」
久しぶりに家でちゃんと作るようなおかずを食べられて、初音はご満悦だ。
「(いつも美味しいご飯を持って帰ってくれてありがとうね、アキラ)」
「ううん、こちらこそ。いつも家で待っててくれてありがとう」
「(私はアキラと少しでも一緒にいたいから待ってるだけだよっ)」
「初音……」
屈託のない笑顔でそう言う初音に、思わず頰が綻ぶ。
「ごめんな、明日はなるべく早く帰ってくるようにするよ」
俺がそう言うと、初音はぶんぶんと首を横に振った。
「(気にしないでよ! アキラは他の人を助けてあげてるんでしょ? そんなアキラも大好きだから、大丈夫だよ!)」
面と向かってそんなこと言われると恥ずかしいな……。
「あ、ありがとう、初音」
「(ううん、どういたしまして!)」
しかし、やっぱりこれからはこうやって毎日夜、家に帰るのも難しくなる。
ショッピングモールで40人と少女たちと共同生活を送るとなっては、毎晩抜け出すのは不自然に思われるだろう。
でも、初音とは毎日顔を合わせたい。
初音も少女たちと一緒に過ごせたら御の字なのだが……そこらへんも合わせて、あとで相談するとしよう。
そんなことを考えつつ、俺と初音は遅めの夕食を楽しんだ。
◆◆◆
夕食が終わった、自室のベッドに二人で寝転んだ。
「いや~、美味しかったな」
「(ねー! 美味しかったね!)」
今日食べたような缶詰はショッピングモールにまだまだたくさんある。
明日は中学生たちにも振る舞うとしよう。
しばらくまったりしてから、俺は話を切り出した。
「そうそう、今日、なんでこんなに遅くなったというとな……」
俺は、高校の同級生4人と、36人の中学生を連れ出し、バスでショッピングモールに連れて行ったことを話した。
初音が心配すると思い、屋上での一悶着のことなどは伏せておいた。
「(すごいねー! 本当に、40人も助けちゃうなんて!)」
「いや、こうやって助けられたのは初音のおかげだよ。ありがとう」
事実、昨晩の初音の助言がなかったらなし得なかったことだと俺は思う。
「(私は何もしてないよ! 頑張ったのはアキラだよ! 本当にお疲れ様!)」
初音はそう言って、ポンポンと背中を叩いてくれた。
「ありがとう。それでだ初音、ここからが本題なんだけど……」
俺は、40人とショッピングモールで共同生活を始めたため、毎晩のように抜け出すのは厳しいということ。
でも、初音とは毎日会いたいから、どうしようか悩んでいると言うことを明かした。
すると。
「(じゃあ、私もみんなと一緒に暮らすのはどう?)」
初音のほうから、提案をしてくれるとは。
なんの抵抗もない様子で言うもんだから、俺は少々びっくりした。
「そ、そうなれば俺は願ったり叶ったりだけど……いいのか、初音?」
「(むしろそのほうがいい! そうしたら、大好きなアキラとお昼も一緒に居られるし!)」
とても嬉しいことを言ってくれるが、だからこそ俺は問い返した。
「で、でも、他のみんなにどう見られるかとか、そういうの考えたら辛かったりしないか? 他のみんなが人間のなか、自分だけは……その……」
幼児退行してしまった初音は、そこらへんのことをちゃんと加味しているのだろうかと不安になった。
40人もいるだけで自分だけが違う存在となれば、疎外感も大きいだろう。
もしかしたら、初音のことを怖がる子や目の敵として見る子もいるかもしれない。
だけど。
「(そんなことはわかってるよー。でもね)」
初音は笑って、こう言った。
「(アキラは、ちゃんと私のことを私として見てくれるでしょ?)」
初音の言葉に、俺はハッとする。
「(大好きなアキラだけ、私のことを理解してくれてたらそれで十分だよ!)」
ゾンビとなった初音は嘘がつけない。
つまりこの言葉は、初音の心からの本心だ。
なんだか恥ずかしくなった。
「よ、よし、じゃあ初音、皆と一緒に暮らすか!」
「(うん! 暮らそ!)」
そう宣言したものの、いきなりショッピングモールに連れていくのは流石にまずいだろう。
妹は初音のことを知っているが、後何人かは理解者が欲しいと思った。
さて、どうしたものかと考えながら、俺は初音と夜を過ごすのであった。
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