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34 風呂

「はあぁ~……幸せだった……」

「ほんと、やっと生き返ったって感じだわ」

「うう……今までで一番気持ちいいお風呂だったよ~……」


 お風呂上がりの少女たちが口々に感想を言い合う。

 久しぶりのお風呂を皆、十分に満喫して満足そうだ。


「うえっ、でももう一回制服着なくちゃいけないのね……」

「うう……やだよう……」


 少女たちのそんな声が聞こえてくる。

 確かに、1ヶ月以上も着ていた服を再び着るのは衛生上良くない。

 不快指数もうなぎ上りで、せっかくお風呂に入ったのに台無しになるだろう。

 

 けどその展開は予想していて、もう手は打っておいた。


「さっきすぐそこのアパレルショップを安全地帯にして来たから、好きなだけ服をとっていいぞ!」


 物陰越しからそう叫ぶと。


「え!? ほんとうですか!?」

「やった! これ私の好きなブランドじゃん!」

「わああ嬉しい! ありがとうございます!」


 少女たちが歓喜の声をあげてアパレルショップへと殺到していった。

 今頃、水着姿で服を選ぶというなんともシュールな光景が繰り広げられているだろう。


 少女たちの服選びの時間はおそらくとても長い。

 この間に、俺も風呂をいただくとするか。

 

「なあ、アキラ。俺もそろそろこの服着替えたいんだが」


 風呂に行こうとする俺を、原田が呼び止めた。


「お前はユニ○ロでいいか?」

「なんか悪意のある物言いだな……まあぶっちゃけ、もう新しい服ってだけで十分だ」

「だよな」


 というわけでユニ○ロから上下一式を持って来てやった。


「おお! サンキューアキラ!」

「どういたしまして」


 原田と二人で風呂に入る。

 

「ああ〜、気持ちい……」


 温かいお風呂はいつぶりだろうか。

 そんなことを考えながら、俺はぼんやりと物思いにふける。


(とりあえずショッピングモールに籠ることだできた。これでしばらくは生活できる。でも問題は、いつまでここに留まるかだな……)


 いくら物資が豊富にあるとはいえ、資源は有限だ。

 水もいつまで出るかわからないし、食料だっていつかは尽きる。

 それなりに時間が経てばたちまち生活に行き詰まるだろう。


 そうなる前に自衛隊とかが助けに来きてくれたら万々歳だが、望みは薄い。


 助けは来ない前提で考えた方が無難だろう。


「まだ政府機能が生きてるかもしれない東京を目指すかどうなんだろう。……いや、人口密集地だから真っ先に全滅してるか」


 政府が生きているとしても、その機能は東京には無い気がする。

 どこかに移しているとしても、その場所を知る手段は無い。


「とりあえず、物資が尽きそうになったら隣町のショッピングモールとかに移動するか……」


 そうやって物資の多い大型商業施設を転々とするのも一つの案かもしれない。


 しかし、その方法も永久的には続けられない。

 移動するための車も、一年もしないうちにガソリンが劣化して使えなくなってしまうし、既存の食料だっていつかは食べられなくなってしまうからだ。


「やっぱ最終的には自給自足して暮らすのが現実的かなー」

「なに悩んでんだ、アキラ?」


 ぶつぶつ呟いていた俺に原田が話しかけてきた。


「いや、このショッピングモールもずっとは続けられないだろう? このショッピングモールを去った後はどうしようかなと」

「確かに。どうすんだよアキラ?」

「いやだから、それで悩んでるんだって」

「あ、いいことを思いついた」


 原田が良からぬ顔をして人差し指をピンと経てた。


「皆で船に乗って無人島を目指すんだ。ほら、結構有名なゾンビ映画のラストが確かそんな感じだっただろう?」

「無人島で俺のだけのハーレムを、とか考えてんじゃねえだろうな?」

「……そんなわけないじゃ無いか」

「俺から目をそらさずちゃんと言え」


 まったく。

 隙あらば欲望が漏れるやつめ。

 だが、人の少ない島を目指すというのはアリかもしれない。

 人が少ないということはゾンビも少ないということだから、安全確保も容易だろう。

 それに、自然もたくさんあるところだったら、最終的に自給自足もできるかも……。


「ま、今日くらいは考えなくていいか……」


 頭がよく回るときにじっくり考えよう。

 ショッピングモールでの生活は、まだ始まったばかりなのだから。


◆◆◆


 風呂を上がって服を着た後、皆の元に戻るなり中川と高瀬がパタパタと駆けてきた。

 二人とも、俺が開拓したアパレルショップの服を着ている。


「見てみてアキラ! あーし、センス超良くない!?」

「ど、どうかなアキラくん?」


 中川はギャルということで派手めだが、快活なイメージがぴったりの明るい色の服を着ていてよく似合ってる。

 高瀬はスポーツ少女なのでスタイルが良い。それに合わせた比較的大人っぽい服を着ていて、こちらもとても似合っていた。

 

「うん、可愛いと思うぞ」

「か、かわっ!? ばか! 不意打ちすぎるし!」


 中川が顔を真っ赤にして慌てふためく。


「そういうこと平気で言うあたりさすがだわ、アキラくん……」


 高瀬も、ちょっぴり照れくさそうに頰を指でかいていた。


「お兄ちゃんったらまったく……」

 

 妹に後ろから非難めいた視線を浴びせられる。

 俺、なんかしただろうか。


「なあアキラ、腹減ったし、そろそろ飯にしようぜ!」


 原田がお腹を押さえて催促してきた。

 確かに、そろそろ夕飯時だ。


「よし、じゃあ飯にするか」


 というわけで、早速皆を食品売り場のカップ麺コーナーに連れてきた。

 さすがは大型ショッピングモールとだけあって、有名なものから見たことないものまで豊富なラインナップを取り揃えていた。

 俺も後で初音へのお土産としていくつか持って帰ろう。


「ここにあるカップ麺、どれでも好きなの食べていいぞ」

「え!? なんでも食べていいの!?」


 中学生たちが目を見開く。

 信じられないといった表情だ。


「おう、いいぞ」


 言うと、少女たちは嬉しそうにカップ麺を物色し始めた。

 屋上でひどい食生活を送ってきた彼女たちにとっては、カップ麺でもご馳走に見えているに違いない。

 

 少女たちがカップ麺を選んでいる間、俺はいそいそとお湯の準備を始める。

 カセットコンロをセットし、鍋に水をジョボジョボ入れていると。


「アキラくんは、食べないの?」


 鍋に水を溜めていると、伊藤がやってきておずおずと尋ねてきた。

 彼女はいつものイメージ通り、暗めで地味な服をチョイスしていた。

 

「あ、ああ。俺はまだ、腹減ってないから大丈夫だ」


 本当は家で初音と一緒に夕食を食べようと思ってるからだけど、そんなことは言えない。

 なにも食べないのはさすがに怪しまれそうだから、あとでなんか軽く食べておこうか。


「伊藤こそ、食べないのか?」

「私は、みんなが取った後に選ぼうと思って」


 そう言って伊藤が笑う。

 そしてぺこりと、頭を下げて言った。


「なにからなにまで本当にありがとうね、アキラくん」


 伊藤は、クラスの端っこで読書をしているようなメガネ女子だ。

 だからこうして、面と向かってお礼を言ってきたことに俺は驚いた。


「珍しいな、伊藤の方からそんなことを言うなんて」

「あ、あんまりこうやって話せてないなと思って。この際だから、ちゃんとお礼しておこうかなーと……」

「なるほどね」


 確かに、ネクロマンサーとして異世界から帰ってきてからも、高瀬や中川と比べると言葉を交わした数も少ない。

 

「こちらこそ、どういたしまして。これからも、できる限りの事は頑張るよ」


 笑顔でそう返すと、伊藤はちょっぴり照れくさそうにする。


「じゃ、じゃあ私もカップ麺取ってくるっ」


 そう言って伊藤は踵を返し、皆のいるカップ麺コーナーへ駆けて行った。


 なんか逃げるように去られた気がする。

 俺、またなんかしただろうか。

 

「お湯、沸かすか……」


 湯沸かしの作業を再開し、少女たちが帰ってくるのを待つのであった。

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