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33 ゾンビくんと原田

 自家発電機も、なにもせず発電できるものではない。

 発電にはガスやガソリンなど、なにかしらの燃料が必要なのだ。

 

「えーと、この自家発電機の燃料は……ガソリンか」


 説明書を読みながら呟く。

 というわけで、まずはガソリンを調達することにした。


「あ”~う”~」


 一体のゾンビを引き連れ、灯油タンクと、ガソリンを汲み上げるための給油用ポンプを持って、駐車場へ向かう。

 駐車場には、手つかずの車両がたくさん放置されていた。

 ガソリンの宝庫である。


「えーと、ガソリンタンクってどうやって開けるんだ?」


 窓が割れている一台の車両の中をゴソゴソして調べる。


「えーと、このレバーか? 違うな。こっちか?」


 3分ほど弄っていると、パコンと音がしてガソリンの給油口が開いた。


「よし」


 給油口に給油ポンプの一方を差し込み、もう一方は灯油タンクに差し込んだ。

 ポンプ部分をペコペコさせていると、ジョボジョボと車の中にあったガソリンがタンクに注がれていった。

 

 5分ほどで、18リットルの灯油缶二つに満タンのガソリンが注がれた。

 

「とりあえず二つでいいかな。よしゾンビくん。これを中に運んでいってくれ」

「あ”う”」


 使役したゾンビくんが、合計36キロの灯油タンクを軽々と持ち上げてくれる。

 彼を先導して発電機のあるエリアに向かわせた後、俺はキッズコーナーに向かった。


「えーと、子供用プールはこれか」


 複数のプールに張った水を保温ヒーターで沸かすより、大きな一つのプールで沸かした方が電気の節約になる。

 というわけで、一番大きなサイズのものを持っていくことにした。

 流石に40人一気に入るのは厳しいだろうが、交代で入ってもらうことにしよう。

 子供用のプールだが、一番大きなものとなると空気が入ってない状態でもかなりの重量になる。

 だが、使役ゾンビくんを使えば問題ないだろう。


「よしゾンビくん、こいつを運んでくれ!」

「う”あ”」


 ここの従業員と思われるゾンビに死霊術をかけて命ずる。

 死霊術にかかったゾンビくんがひょいと、プールの入った段ボールを持ち上げた。

 

「おお、さすが」


 腐っているとはいえ、そのパワーはいまだ健在だ。

 一体、何キロくらいまでだったら持ち上げられるんだろう。

 今度試してみよう。

 

 そんなことを考えながらプールも発電機のあるエリアへと持っていってもらう。

 

「あと必要なのは水着とかタオルとかかな。あ、あと、シャンプーとかもいるな」


 これらはショッピングカートで運べばいい。


「40人分か……どれくらい必要なんだろう」


 あまり見当がつかないが、とりあえず持っていけるだけ持って行くとしよう。

 ショッピングカートをついて、俺は水着コーナーへと足を向けた。 


◆◆◆


 膨らませた子ども用のビニールプールにホースで水を入れたあと、ガソリンを入れた自家発電機を起動する。

 発電機にお風呂保温ヒーターをありったけ投げ入れ、湯を沸かした。


 結構時間がかかったが、無事、お風呂が出来上がった。

 お風呂のある一帯のエリアを死霊術でゾンビを退けて安全を確保し、すぐに少女たちを呼び寄せた。


「すごい! お風呂だ!」

「ゾンビだらけの世界でお湯に浸かれるなんて、夢みたい……」


 湯気が立ちのぼるお風呂を前に、少女たちが感動の声を上げている。


「本当に作っちゃうなんて……どこでこういうこと学んだの」


 高瀬が俺に尋ねる。


「んー、主にネット小説かな……」

「オタ知識も、たまには役に立つじゃない!」


 中川がバシバシ俺の肩をたたく。

 久しぶりにお風呂が入れるとあってテンション高めだ。


「水着も適当に持ってきたから、各自、好きに選んでくれ。タオルはもちろん、シャンプーやリンスもあるぞ」

「「「「シャンプーー!!」」」」」


 少女たちが喜びの声を上げる。

 お風呂が入れるとなって、彼女たちの気分もかなり上がったようだ。


「本当にありがとうございます、アキラさん!」

「このご恩は忘れません!」

「うう…アキラさんは…救世主です……」


 口々に礼を言う少女たち。

 彼女たちの喜びの声を聞くと、頑張ってよかったと思う。


「じゃあ俺と原田は見えないところに引っ込んでおくから、ごゆっくり」

「「「はーい」」」


 少女たちに背を向ける。

 俺は原田を連れて違うエリアに退散して息をついた。


「あー、疲れた……」

「俺も、めっちゃ疲れた」

「お前何もしてないだろ」

 

 原田に突っ込みつつ、座り込む。

 かなりのオーバーワークだ。

 身体のあちこちが悲鳴を上げている。

 早く帰って初音に会いたい。

 そんなことを考えていると、お風呂の方からきゃっきゃと少女たちがははしゃぐ声が聞こえてきた。

 楽しそうで何よりだ。


「な、なあ、アキラ」

「ん?」


 横に座る原田がペットボトルのオレンジジュースを一本差し出してきた。

 その表情はどこかぎこちない。


「冷えないけど、いるか?」

「此の期に及んでキンキンに冷えたジュースなんて望むわけないだろ」

「そ、それはそうだな」


 なにやら彼はそわそわしているように見えた。

 嫌な予感を覚えつつ、原田からジュースを受け取る。

 蓋を開け、一気に煽る。

 ああ、労働の後のジュースは身体に染みるな……。


 大きく息をついていると、原田が話しかけてきた。


「アキラ」

「覗きするとか言ったらゾンビの餌にするからな」

「頼む、俺と一緒に覗き……って、ゾンビの餌だけは勘弁してくれ!」

「お前まじで懲りねえやつだな……」


 呆れて肩を落とす。

 原田は相変わらず原田であった。


「だってよぉ、このすぐ裏には40人の女子たちの入浴シーンが広がってるんだぞ! しかも皆、レベルが高いときた! 男なら覗くだろフツー!?」

 

 たしかに原田の言う通り、いま入浴している女子たちのレベルは高い。

 だけど。


「いや、覗かんわ」

「お願いだ! さっきジュース持ってきてやっただろう?」

「ジュースと釣り合うか馬鹿!」


 たくさん苦労して、ようやく築き上げた信頼関係だ。

 覗きなんてくだらないことをして壊すなんて頭が悪いにもほどがある。

 

「アキラお前、なんでこの状況になって女の子に手を出さないんだよ」

「いや普通に俺は、自分のことを好きな人としかそういうことはしたくないだけだ。ここにいる皆は、俺のことを男として見てないだろう?」


 高瀬や中川や伊藤、女子中学生たち。 

 誰も、俺なんかを異性として見ている人はいないだろう。

 俺を異性としてみてくれる人は初音ただ一人だけだ。


「だから、必然的に手を出すという発想にならないというか」

「いや、お前それはさすがに冗談だよな?」


 原田が珍しい生き物を見るような目で俺を見てくる。


「ということはお前、なんの下心も見返りもなく、みんなを助けたってことか?」

「うん、そうだけど?」


 原田が、こいつありえんとでも言いたげな表情を浮かべた。

 

「お前のそういうところ、素直にすげーと思うわ」

「それはどうも」

 

 原田から褒めるなんて珍しいこともあるもんだ。

 もうすぐ死ぬんじゃないかこいつ。


「まあなんにせよ、覗きとかそういうのは絶対にするんじゃないぞ。せっかくの信頼関係がパーになる」

「ちっ、わかったよ」


 不満げだったが、原田は納得してくれたようだ。

 少女たちが風呂を終えるまで、俺は原田と黙って座り込んでいるのだった。

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