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32 快適に生活したい

「わああ!!」

「すごい! なんでもある!」

「やっと……やっとまともな生活が遅れるのね……」


 ゾンビを排除し、安全地帯となったエリアに皆を連れてきた。

 大量の物資を前に女子中学生たちはきゃっきゃとはしゃいでいる。

 満足にある食料や、家具コーナーにあるふっかふかのベッドを前に涙する子もいた。


「アキラ! あーし、化粧品売り場も行きたい!」

「わ、私も、できれば本屋さんとか行けたら嬉しいかなって……」


 高校女子たちはそんな要望を口にしている。

 ギャルの中川、読書少女の伊藤らしい頼みだ。


「わかった、化粧品売り場はすぐ隣だから今日のうちになんとかするよ。本屋は、確か二階だったな。悪いけど、これは明日になりそうだ」

「やった! さすがアキラ!」


 中川は、高級化粧品を根こそぎ我のものにするぞと言わんばかりに意気込んでいる。


「ありがとうございます。明日でも充分です……やっと、ゆっくり本が読める……」


 読書女子の伊藤は目を輝かせて嬉しそうだ。


「頑張った甲斐があったな、原田」

「なにがだよ」


 原田に話を振ると、彼はぶっきらぼうに返してきた。


「ほら、伊藤のやつも喜んでるぞ」

「原田くんも、ありがとう」


 伊藤が原田にそう言った。


「……別に、俺はほとんど何もしてない」


 原田はそれだけ言って、食品売り場へと去っていった。


「原田くんが人を褒めるなんて珍しいねー」


 伊藤が言う。


「あれは俺、褒められたのか」

「ベタ褒めだと思うよ」

「そうなのか」


 まあ確かに、異世界から帰ってきて最初会った頃に比べたら断然に当たり障りはよくなった気はするが。

 女子中学生たちが武器を持っていて、原田が下手な動きができなくなっているとはいえ、彼が注意人物であることは変わりない。


「ありがとう、アキラくん」

「なにがだ、伊藤」

「原田くんをフォローしてくれて」

「あー……」


 確かに、俺が根を回してなければ、とっくに原田は本性を漏らして中学生たちに八つ裂きにされていたかもしれない。

 原田の見境のない女好きが露呈した時には、流石の俺でもかばいきれん。


「特に俺は何もしてないと思うけどな」

「ふふ。謙虚なんだね」


 そう言って、伊藤が笑った。

 彼女のこんな笑顔を見るのは初めてかもしれない。

 やはり、余裕のある生活というのは大事だな。


「アキラくん、ちょっと」

「ん?」


 高瀬に手招きされる。


「どうした、高瀬?」

「えっと、その……安全を確保してくれて早々、申し訳ないんだけど……」


 そう言って、高瀬がもじもじしている。


「ん? トイレか?」

「ち、違うよもうっ! 水でもいいから、身体を綺麗にしたいというか……」

「なるほど、風呂か」


 言うと、高瀬は表情をパッと明るくさせて首をブンブンと縦に振った。


 確かに、彼女たちはもうずっと、ちゃんと身体を清められていないだろう。

 年頃の女の子たちだ。

 きっと全員の頭の中には入浴願望があるに違いない。


「よし、とりあえず女の子もたくさんいることだし、とりあえず風呂でも作ってみるか」

「「「「「お風呂ッッッ!?」」」」」


 皆に宣言すると、少女たちは一斉に声をあげた。

 皆、わかりやすいくらい目をキラキラさせている。

 

「おおう、めちゃくちゃ反応いいな……」


 やはり、皆入りたくて仕方がないんだろう。

 簡単にお風呂を作るかと口走ってしまったが、電気もガスも水道も止まってしまっている現状では、お風呂を貯めるのも一苦労だ。

 しかし、不可能ではないと思う。


「頑張ってみるけど、お湯は厳しいかもしれないからその時は水で我慢してくれ」

「み、水でも十分だわ!」

「身体が洗えるだけでもありがたいです……」


 少女たちが口々に言う。

 これは頑張らないとという気持ちが湧いてくる。

 よし、とりあえず最初はちゃんとした風呂を沸かすことを目標に頑張ろう。


「わかった、じゃあちょっと行ってくる」


 俺は安全地帯を抜け出し、家電エリアへ向かった。



◆◆◆



 お湯を沸かすのに必要なのはなにか。


 水と、火である。


 水に関しては調べたところ、幸運なことに大型商業施設のため貯水槽があるのか、水道が生きていた。


 問題は火である。


 電気もガスも通ってないとなると、ボタン一つで湯を沸かすというわけにはいかない。

 しかし、電気を作れないからといって諦めるには早い。


 電気が通ってないなら、自分で作ればいいのだ。


「見つけた……」


 電化製品エリアに、”それ”はあった。


「思った以上にコンパクトだな。これなら皆のところに運べるぞ」


 家庭用自家発電機を前に、俺はよっしゃと拳を握った。


 自家発電機。

 ガスやガソリンなどの燃料を使い、電力を生産する機械だ。

 パニック映画とかでよく活躍するのを目にしていたので、もしかしたら使えるかもしれないと思ったのだ。

 発電機に付属している説明書を手にとって、読む。


「えーと、なになに。この発電機を使うと、家庭用のコンセントと同様、様々な電化製品を動かすことができます」


 これはいい。

 電力の確保はできた。

 あとは。


「お湯をどうやって沸かすかだよな……」


 いちいちカセットコンロやIHででお湯を沸かしてたら膨大な時間が必要になるだろう。

 たしか、以前、災害特集かなにかのテレビ番組で簡単にお風呂を沸かせる商品が紹介されていたような……。

おぼろげな記憶を頼りに店内をウロウロしていると。


「お、これか!」


 日用雑貨コーナーで俺は声をあげた。

 手に取ったそれは、お風呂保温ヒーターというもの。

 一見、銀の棒のように見えるそれは、コンセントに繋いで水を張った風呂桶に投入するだけでお風呂が沸かせるという便利な代物だ。

 銀の棒の部分が熱を発して、水をお湯に帰るという仕組みである。 


「へええ……こんな商品があったのか……」


 これを水を張った子供用のビニールプールとかに何個か投入すれば。


「よし、いける!」


 手段は確立できた。

 問題は人手だ。

 ざっと40人分のビニールプールを用意し、水を支度するとなると、俺一人じゃかなり時間がかかってしまう。


「かくなる上は……」

 

 俺は周囲を見渡し、あたりを徘徊しているゾンビたちを見やった。


「うん、人手問題も解消!」


 ネクロマンサーで良かったと心底思った。

 とりあえず、力仕事はゾンビくんに手伝ってもらおう。

 

「さて、やるか……」


 力持ちそうなゾンビに目をつけ、俺は死霊術の呪文を唱えた。

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