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31 到着

 ジャムコモール・ショッピングセンター。

 田舎の大型商業施設の代表格だ。

 俺の街にも、この地域で最も大きなショッピングモールとしてオープンした。

 とは言っても、街がゾンビに溢れかえった今では大きなゾンビの巣窟になってしまってるが。


「うわ……予想以上にひどい惨状だな、こりゃ」


 運転席から俺は、すっかり様変わりしてしまったショッピングモールを見やりながら呟く。

 ジャムコは子供の頃によく初音と遊びに来ていた。

 繁華街らしい繁華街のない地方都市民にとって、ジャムコは休日の遊び場としてよく重宝していた。

 初音と一緒に遊んだあのゲーセンも血まみれになっていると思うと、なんだかいたたまれない。


 駐車場内は、生人の血肉を求めて数多ものゾンビが徘徊している。

 家族連れが多いショッピングモールだからか、子供のゾンビも多かった。

 そんなゾンビたちの間を縫うように、41名の少年少女を乗せたバスがゆっくりと駐車場を走る。


 たっぷりと時間をかけて東端の入り口までたどり着いた後、エンジンを止め、俺が大きく息を吐いた。


「お疲れさま、アキラくん。運転ありがとう」


 高瀬が俺の肩にポンと手を置いて労いと感謝の言葉をかけてくれる。


「どういたしまして」


 席を立ち、バス内の少女たちを見渡す。


 彼女は皆、不安げな表情を浮かべていた。

 それも当然だ。実に1ヶ月ぶりに見た街がゾンビだらけの悲惨なゴーストタウンと化していたのだ。

 その上、彼女たちも遊び親しんだであろうジャムコもこの惨状だ。

 不安になるのも無理はない。


 そんな彼女たちに向けて俺は言った。


「みんな、お疲れ。ひとまず、しばらくここを寝ぐらにして、自衛隊の助けが来るのを待とうと思う。なに、心配しなくても助けはすぐ来るよ」


 そう声をかけて皆を励ますと、彼女たちの表情がわずかに和らいだ。

 続けて俺は言う。


「とりあえず、中はゾンビだらけだから一旦奴らを追いやってバリケードを作ってくる。それまでちょっと、待っていてくれ」

「ひ、ひとりでいくんですか!?」


 ひとりの少女が立って声をあげた。

 たしか、俺が屋上に降り立った時に礼儀正しくお礼を言ってくれた子だ。

 俺が、ひとりでゾンビだらけのショッピングモールの中に行くのが不安なのだろう。


「うん、とりあえず1区画分は俺だけでやってくるよ」

「でも、すごく危険じゃ……」


 少女がバス外のゾンビを見やりながら心配そうに呟く。


「大丈夫、俺は異世界帰りのネクロマンサーだ。安全地帯を確保するくらい、造作もない」


 現にこれまでそればかりやって来たわけだし。

 何度も死霊術を使うたびにレベルアップしているのか、だんだんとゾンビを排除できる範囲が広くなってもいる。

 おそらく、一時間くらいで済むだろう。


「本当に、ありがとうございます」


 少女が深々と頭を下げる。

 他の子達も続くように頭を下げた。


「どういたしまして。それじゃ、行って来る」

「なあアキラ」


 バスを降りようとすると、原田に呼び止められた。


「どうした」

「頼む、俺も連れて行ってくれないか?」


 原田が俺に小声で言ってきた。


「なぜに?」

「わかるだろ? さっきから中学生たちからの視線が痛いんだ。少しでもポイント上げとかねーと、そのうち刺されそうだ」


 額に汗をかきながら原田はそう言う。

 いつも人を見下して偉そうにしていた原田が必死で頼み込んでくる姿はどことなく哀れに感じた。


 けどまあ、確かに原田もいれば男手二つでよりスムーズにバリケードを構築できそうだ。

 一刻も早く少女たちに安心空間を提供するには、原田の手も借りたほうがいいだろう。


「わかった、仕方がない。一緒に行こう」

「おお、サンキューアキラ。恩に着る」


 原田は心底ホッとしたように胸をなでおろした。


「それじゃあ、原田も手伝いたいみたいだから一緒に行って来る。バスの周りにゾンビ除けの死霊術かけとくけど、絶対に降りないように」

 

 少女たちが頷く。


「頑張ってアキラ! ちゃっちゃとゾンビを追い出して、あーしの楽園を作ってきてよね!」

「お前だけの楽園じゃないからな?」


 中川に突っ込んだ後、俺と原田はバスを降り、ショッピングモールの中に繰り出した。

 

 バスで乗り付けた東端のエリアは、主に食品売り場や家具コーナーだ。

 とりあえず飯と、今晩寝る場所を考えてこの区画から安全を確保して行くことにしたのだ。


「よし、とりあえずこの区画は大丈夫かな」


 死霊術でこのエリアから外にゾンビを追い出した後、原田とともに家具コーナーのタンスや椅子を積み上げて出入り口を塞ぐ。

 やはり2人だと進行が早く、一時間ほどで食品売り場と家具コーナーは安全地帯となった。


「うおおおーっ! カップ麺にジュース、缶詰までいろいろ揃ってやがる!」


 原田が食品売り場に放置された食料を前に目を輝かせている。

 1ヶ月もの間、ロクな飯を食えなかったのだから当たり前か。


「ナマモノは流石に全部腐っちまってるだろうから、食いたくなっても我慢しろよ?」

「そこまで俺もバカじゃねーよ!」


 よし、とりあえず安全も確保できたし、少女たちを呼びに行くとするか。

 俺はバスへと向かった。

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