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30 いざ、楽園(ショッピングモール)へ

 バスの中には原田がいるんだった。


 女子中学生たちを屋上から連れて来ることに成功し、校庭を歩いてる途中に思い出した。

 俺一人でさえこんなにも苦労したのに、その上原田もいるとなると、中学生たちが悪い反応を起こしてしまうかもしれない。


 それに、俺の見立てでは原田は女性にとって危険人物な気がする。


 中川がぶたれた経緯もあるし……。


「ね、バスに原田いるけど、大丈夫なの?」


 高瀬も懸念事項に気付いたのか、俺に耳打ちしてきた。


「うーん、たしかに。そうだよな」


 原田が根っからの女好きであることは確かだ。

 中学生とはいえ、36人の女の子と同じ空間を共有するとなると……前もって対策を打つのが吉だろう。


 俺は二人に耳打ちした。


「中川、高瀬、なるべくゆっくりと中学生たちを連れてきてくれ。俺は先にバスに帰って原田が暴走しないようにしとく」

「おっけ! まかせろし」

「わかったわ」


 俺は中学生たちの周りにゾンビよけの死霊術を施した後、「ちょっとバスが散らかってるから先に片付けとく」と言ってバスへと駆け出した。


 バスに入ると、案の定、原田が興奮気味に俺に駆け寄って言った。


「おいおいアキラ! なんだよあの女子たちの大群は! ひゅ~、紛うことなきハーレムじゃねえかムグッ……!?」


 俺は原田の口を押さえ、なるべく低い声で告げた。


「あの女の子たちは俺は死ぬほど苦労してやっと連れてこれた子達だ。さっきみたいなこともう一度言ったら、迷わずお前をゾンビの餌にする」


 コクコクと原田は首を縦に振った。


「いいか、原田。お前は外面だけはいいんだ。なるべく真面目な好青年風を装うんだ、わかったな?」

「あ、ああ。わかったよ」

「よし、ならいいんだ」


 手を離すと同時に、女の子たちがバスの中に入ってきた。


「お、男がもう一人っ!?」

「ちょっと、聞いてないっ!」


 予想通りの反応である。

 俺は穏やかな声で言った。


「ああ、彼は俺のクラスメイトの原田くんだ。見ての通り、真面目な好青年だから、君たちを襲うようなことはしないよ」

「は、原田だ、じゃない、原田です。どうぞ、よろしく」


 早速猫を被った原田がぎこちなく頭を下げる。

 後ろで伊藤が口元を押さえて震えていた。

 こらそこ、笑うんじゃない。


「なんかあのお兄さん、一見真面目そだけど、なにか危険な匂いがするわ……」


 最後まで俺に行きたくないと駄々をこねていた中学生、園田が後ずさりしながら言った。

 なかなかに鋭い。

 女の勘っていうやつだろうか。


「大丈夫。万が一原田くんが変な動きをしたら」


 いまだに疑いの目を向ける女子中学生たちに向けて、俺は言った。


「君たちの持っている武器で、彼を迷わず八つ裂きにしていいから」

「それもそうね」


 と、少女たちは懐から様々な刃物をチラつかせて原田を見やった。


「ひっ!?」


 36人の刃物を持った女子中学生たちに一斉に睨みを効かされるなんてなかなかにレアな経験ではないか。


「しないしない! 絶対お前た……ちがう、君たちに変なこととか、しないから!」


 だからその物騒なもの仕舞ってーっと絶叫する原田。

 中川と高瀬と伊藤が口元を押さえて震えている。

 だからそこ、笑うんじゃない。


「……まあ、いいわ」


 園田たちが武器を下ろす。

 どうやら納得してくれたようだ。


 とりあえず高校生は、原田の監視も兼ねて一番前の列に配置して、中学生たちはその後ろに座ってもらった。

 全員揃ったことを確認した後、俺は声を張って言った。


「よし、それじゃ出発!」

 

 あばよ学校編!


 ブロロロロッ。


「おー、動いたっ」

「わあ、すごい!」

「やっと、やっと学校から離れられる……」


 少女たちが中学生らしくきゃっきゃとはしゃいでいる。

 


「お兄ちゃん凄い! いつの間に免許を?」


 妹が寄ってきて目を輝かせている。


「妹よ、安心しろ、俺は無免許だ」

「一気に不安になっちゃったよ?」


 俺は妹に、バスセンターで一人で練習した経緯を説明した。


「なるほど、そんなことを……いろいろと器用な人だとは思ってたけど、ここまでくるとさすがとしか言いようがないね」

「珍しいじゃないか、お前が俺をここまで褒めてくれるなんて」

「そりゃあ、まあ。みんなを学校からみんなを救い出してくれたし……一応、感謝してるのよ?」


 そんな兄妹のやりとりを見ていた中川が、「仲良くて羨ましいし」と言う。


「中川は兄妹とかいないのか?」

「いないし、一人っ子だし」

「なるほど、だからそんなわがままに」

「おう? なんか言ったか?」

「いえなにも」


 危ない、窓から放り投げられるところだった。


「あ、そういえばちゃんと言い忘れてたけど」

「なに?」

「ありがとうな」

「え?」


 今回の件、中川が園田にふっかけなければもっと苦労したことだろう。

 中川にはかなり助けられた。

 ちゃんと礼を言っておかなければならない。


「中川のおかげで助かった。ありがとう」


 俺がそう言うと。


「は、はあっ!? 私はその、なんか腹立って言っただけだし! 別にアキラのためにやったわけじゃないかんな!」

「そ、そうなのか?」

「……ちょっとは」


 なるほど、じゃあそう言うことにしておこう。


「けど、やっぱりアキラの方がいい仕事してるし」

「え、なにが?」

「私は、大声で脅すことしかできなくて、返って中坊どもを怖がらせちまった。けどアキラは、中坊どもを優しく諭して、結果こうやってみんな無事にバス乗ってる」

「あんなの偶然だ。今回はたまたまうまくいっただけだ」

「……どうだか」


 俺は凄くなんかない。

 ただ、結衣たちを助けたい一心で行動した結果、たまたま物事がいい方向に向かっただけだ。


「まあ、さっきの一件で中川、相当中学生たちに恐怖心持たれてると思うから、ショッピングモールでは優しくするんだぞ?」

「そ、そんなことわかってるし!」


 

 明るい雰囲気でバスはショッピングモールへと向かった。

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