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3 白昼、往来で女性が襲われている? 

「もうっ! なにやってるんだよ」


 僕は公園で初音に説教をしていた。


「召喚儀式中に僕に触れたら巻き込まれるに決まってるじゃないか!大臣さんたち、絶望的な顔をしてたよ!?」

「ごめんごめん」

「僕にあやまっても……」

「ううう。テヘペロ」


しかし、内心ちょっぴり嬉しいと感じている自分がいた。


「まったくなんでそんなに嬉しそうなんだか……」


──絶対やだ!離さない!


「……そういえば初音、逆召喚される時、僕とえらく離れたくなさそうだったけど」

「え、なんのこと?」


何事も無かったかのようにすっとぼける初音。


「いや……なんでもない」


なにやら突っ込まれたくないようなので、黙っておこう。


「なにはともあれどうしたものか……まあ、転移魔法の魔力が溜まったらイリースの人がまた召喚してくれるか」

「異世界人召喚って、地球の中でもとびきりハイスペックな人をサーチして召喚したらしいから無理だと思うよ」

「ええっ? そうなのか」


てことは、清田並みにスペックが高くないと召喚されないということか。

なんという無理ゲー。


「あ~、アキラが清田くんぐらい強かったらなあ」


 楽しそうに言う初音にあきれる。


「人のせいするなよ。どうすんの? イリースの人困ってるよ?」

「清田君、たった一週間の凄く強くなったから、一人でも大丈夫だよ」

「確かに。別れる時はもう勇者の風格だったもんな」

「そうそう」


 アイツなら魔王もどうにかしてしまうかもしれない。

 きっと魔王を倒したらちゃっかり帰ってくるのだろう。それで初音も気楽なのかも。

 ちなみに死霊術の師匠になってくれたオババは、姿は20代のままで不老になった400百歳の美人さんだった。

イケメン好きだったから清田が食われないことを祈ろう。

 なぜか僕ですら微妙に食われそうになったし。

 このことは初音には内緒にしておこう。


「ともかく、これで僕と初音の剣と魔法のファンタジーは終わったみたいだへ」

「そうね。なんかゲームみたいだったわ」

「ゲームだったらまだいいよ。死んでもリセットできるんだからさ」


 あるのは高校生活という現実だけだが、帰って来れてほっとしている自分がいた。

 それと比べれば、毎日学校に行き、美人でちょっとドジな初音の笑顔を少し離れたところから眺める日常が、なによりもかけがえのないものに感じられる。

 やっぱ普通が一番だよね。

そんなことを考えていると、初音が遠くの空を指差していた。

 

「ねえねえ。向こうに白煙が上がってるよ」

「え? 誰か焚き火でもやってるんじゃないの?」

「でも、あっちでもこっちでも焚き火する?」


見ると、街のいたるところで煙が上がっているのが見えた。


「本当だ。確かに……変だな?」


 といいつつも、焚き火なんかより一週間も行方知れずになった理由をどうすればいいのか頭が痛かった。

 僕は父子家庭で、オヤジはいつも家を開けっ放しにするいい加減な人だから、こっちは詮索もされないかもしれない。

 でも、学校はどうすればいい。


「うーん。記憶がないって言い張るしかないか?」


 女の子の初音が一緒だったという問題もある。ニュースになったら初音が色々と有る事無い事を興味本位で書かれてしまうかもしれない。

 もっと良い言い訳がないかなと考えていた時だった。


「きゃあああああああああーーーッッ!?」


 絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。


「な、なんだなんだ?」


 驚いていると、初音が僕のシャツの袖を引っ張っていた。


「アキラッ、あれ!!」

「ど、どうしたの……げえええええ!」


 白昼堂々、公園の前の道路で薄汚れた男性が女の人を押し倒して乗りかかっていた。

男性は中年に見える

いくらなんでも性欲を持て余し過ぎだろう!?


「ア、アキラ! 助けなきゃ!」

「あ、あぁ!」


 走って二人のほうによる。走りながら近づくにつれ、なにか違和感を覚える。

 上にのった男性が頭ばかりを動かしてるように見える。

普通、そういう行為であるなら腰が動くんじゃないだろうか?

 下の若い女性はなにかビクビクと痙攣しながら、ぐちゃ、ぐちゃりと、変な音を立てている。

 

そう、まるで。

肉と肉が引きちぎれるような……。


 ともかく止めなきゃ。


「お、おじさん! 止めてください!」


 僕が言ってもおじさんは女性の首元に顔を埋めるばかりだ。こちらに振り向く様子もない。

 おかしい。いくらなんでも僕の存在には気がついているだろう。

 大声をあげているんだぞ?

 女性のほうも、目と口を大きく開いて僕達のほうに顔を向けているが、その表情は助けを求めているというよりむしろ……。


「止めさせなきゃアキラッ!」


嫌な予感が頭をよぎったが、初音の声にハッとする。


 くそ! もう実力行使しかない。

 僕はおじさんのシャツの襟を掴んで力の限り引っ張って後ろに投げた。

 その時、女性の白い首元に真っ赤な花が咲いていたことに気がついて身体が強ばる。

 ちょうど、おじさんが顔を埋めていた箇所だ。


尋常じゃない量の血が、女性の首元からダラダラと流れ出ていた。


「……え?」

「……なに、これ?」


 女性は必死になにか訴えかけようとするが、ヒュッヒュッという声を出すばかりだった。

 首の皮膚をえぐり取られ、血肉の花がグロテスクに咲いている光景が現実のとのだと受け入れるまで、かなりの時間が必要だった。

 


「きゃあああああああッッ!?」


 初音が悲鳴をあげて僕に抱きつく。

 僕も、わけのわからない叫び声をあげた。

 女性は事切れていた。

 これはれっきとした殺人だぞ。


「お、おおおじさん。な、なんてことを……」


 震えた声でおじさんに声をかける。

 おじさんが、立ち上がってこちらを振り返った。


「ひいいいいいいいッッ!?」

「いやあああああッッ!!」


またもや僕と初音は声を上げた。

 おじさんは口からだらだらと血をしたらせ、虚ろな目をぎょろぎょろさせていた。

 そのうえ、身体中を怪我している。

 のろのろとこっちにやって来る。


「や、やめろ!!こっち来んな!!」


 もうダメだと諦める一方、全身で初音を抱きしめて守る。


僕がどうなろうとも、初音だけは──!!


 ……ところがおじさんは、悲しそうな声を上げて僕らを素通りした。


「あ”~う”~あ”~う”~」


 そして、息絶えてしまった女性の肉を貪りだした。


「ど、どうなってるのよ、コレ……」


 初音が震えた声を絞り出す

 なにがなにやら、わからないのだろう。

 だが僕は、おじさんが声をあげた瞬間、わかってしまった。


「あ”~う”~あ”~う”~(女の肉、肉喰いたい~)」


 そう。異世界でネクロマンサーになった僕は、おじさんの〝ゾンビ語〟を理解してしまったのだ。

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