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29 一喝

 予想外の事態が起こった。

 俺のことが信用できないと反発した園田に対し、中川が真っ向からメンチを切ったのだ。


「な、なんですか?」


 園田も中川が噛み付いてくるとは予想外だったのか、軽く狼狽えている。


「お前はアキラを信用できない、絶対に一緒に付いていかないと、そう言うんだな?」

「ち、ちがっ……ア、アキラさんは、今まで食料とかいろいろ届けてくれて……とても感謝はしているんです、だけど、男はまだ、怖くて……」


 ダンッッ!!


 園田の言葉を遮るように、中川が足を踏み鳴らした。

 

 しん、と場の空気が凍る。 

 園田がゴクリと生唾を飲む音が聞こえたような気がした。

 一気に気温が氷点下にまで下がったかのような緊張感の中、中川は口を開いた。


「じゃあ、アンタだけここに残ればいいじゃん?」


 にこっと、背筋の凍るような笑顔を中川は浮かべて言った。


「……へ?」


 園田が、理解できないといった声を漏らす。


「だから、一緒に脱出したい奴は一緒に来て、残りたい奴は残ればいいじゃん、というだけの話。単純明快でしょ?」

「ちょ、ちょっと待って! そんなの……」

 

 どもる園田に、中川が大きくため息をついて言った。


「いいか金髪ツイン、よく聞けよ? 世界がゾンビまみれになって1ヶ月。自衛隊はおろか、警察の影すら見えねえ。そんな状況下で救助を待つ? はっ、平和ボケも大概にしたらどうだ?」


 園田が押し黙る。

 返す言葉が見つからないようだ。

 

 中川は続ける。


「お前が男を信用できなくなったてのはそりゃ、お前の都合だろうし。だけどな、そんな理由は命に比べれば小せえもんだと思わねえのか?」


 中川の言葉に、園田はハッとしたように顔を上げる。


「今生きてるだけでお前は超ラッキーなんだってこと、わかってんのか? それで、生き延びていられてるのは誰のおかげだ?」


 中川の言葉に、皆の視線が俺へと集中する。

 そんな崇めるような目を向けられても困るんだが。


「そういうことだ。お前ら、散々アキラに助けられただろう? 私もその一人だし。だから、アキラの気持ちを無下にするのは、この私が許さねえし」


 園田の胸ぐらを中川が掴み、ほぼゼロ距離にまで顔を近づける。


 ひいっと、園田が小さく叫び声を漏らした。


「これが最後のチャンス。ここに残って死ぬか、アキラと一緒に来るか、どっちか選びやがれ。ただし、ここに残る場合は他の子を巻き込むことは許さない」


 中川の気迫のこもった二択に、園田は足をガクガクさせている。

 

「お兄ちゃん……」


 結衣が不安そうな表情で俺を見上げてくる。

 流石に可哀想になってきたのだろう。


 やれやれとため息をついて、俺は中川に歩み寄った。


「おい、中川。その辺にしておいたらどうだ?」


 中川に声をかける。

 彼女はハッとして園田から手を離した。


「ご、ごめん、アキラ。つい血が上って……」

「いや、謝る必要はないよ。むしろ、言ってくれて感謝してる。中川が言ってくれなかったら、またチャンスを逃してた」



 実際その通りで、中川のおかげでクラスの雰囲気は一気に脱出派に傾いたといっても過言ではないだろう。

 やはり皆、考えないようにしていただけで、1ヶ月経っても救助の気配のない現状に疑問を抱いていたのだ。


 おそらく、園田以外のほぼ全員が一緒に来てくれるだろう。


 ここで、来たい子は来る、残りたい子は残るという提案をしてあげるのも一つの手ではある。


 が、俺はそれはしないことにした。


 屋上で篭っていても死ぬのは時間の問題だ。

 どうせ脱出するなら、全員一緒の方がいいに決まってる。


 園田のもとに歩み寄る。

 中腰になり彼女と目線を合わせて問いかけた。


「俺と一緒に来るのは、そんなに嫌かい?」


 園田は俯いき、ぷるぷると震えている。

 中川の剣幕があまりに怖かったのか、それとも……。


「だって……だってだって!! ほんとうに怖かったんだもん!」


 急に、園田が泣き出した。

 どうやら、今まで溜まりに溜まっていたなにかが爆発したようだ。

 先程までの強気は何処へやら。

 親とはぐれた子供のようにわんわん泣き始めた。


「ひっく……救助が来ないってことくらいっ、えっく……とっくに気づいてるわよっ! でも、でも……」

「うん、うん、わかるよ。トラウマはそう簡単に取り除けないからね」


 でも、と前置きし、園田を諭すように言う。


「俺は、君を襲った男とは違うよ。絶対、君には手を出さない。だから俺と一緒に、ついて来てほしい」


 心の底からの気持ちを園田に伝えると、彼女は手で涙を拭いながら尋ねた。


「……なんでここまで言ってまだ、私を連れ出そうとしてくれるの?」

「ここに残れば死ぬとわかってる女の子を放っておけない、ただそれだけだよ」


 ありのままの思いを口にすると、園田は驚いたように目を見開いた。

 

「あ、アンタッ、バカじゃないのっ。よくそんな恥ずかしいこと、躊躇いもなく言えるわねっ……!?」

「俺は思ってることを言っただけなんだが……」


 園田がわたわたし始めた。

 先程、お礼を言って来た女の子と同様、顔を真っ赤にしている。

 大丈夫だろうかと心配していると、後ろで高瀬と中川が大きくため息をつく気配がした。


「アキラ、あんたマジもんね」

「マジもんって、なにが?」

「……もういいわ」


 なんかめちゃくちゃ呆れられている気がする。

 解せないなと思っていると、園田がつぶやくように言った。

 

「……わかった。あなたを、信じてみる」

「一緒に、来てくれるか?」

「うん。ただし、クラスのみんなに変なことしたら……」

「ためらわずぶっ刺してくれ」

「そこまではしないけどっ……でも、私にだったらちょっとくらいなら……」

「え、どゆこと?」

「~~~~!!! なんでもないわっ!」


 なんか怒らすようなことを言っただろうか、俺。

 なぜか隣で妹が「ダメだこりゃ」といわんばかり肩を落としている。


 まあいいや。

 なにはともあれ、妹のクラスメイト36人、全員を連れ出すことができるようだ。

 やれやれ相当疲れたが、これにて一件落着である。

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