28 中川、女子中学生に……
ついに……ついに俺は、屋上に行くことを許された。
達成感と充実感を感じながら校舎内を歩く。
こまめにゾンビを排除しつつ、高瀬と中川とともに屋上へ向かった。
屋上への扉は固く閉ざされているため、今回も縄はしごを使うことにした。
三階まで縄はしごが垂らされていたため、そっから登ることにする。
「じゃあ、高瀬と中川が先に登ってくれ」
「ちょっと、アキラ! 男なのにあーしたちを先に行かせる気?」
中川はぷんすかと怒っている。
「いや、俺が先に登ったら中川たちが落ちた時、誰が下で受け止めるんだよ」
そう返すと、中川は恥ずかしそうに目を逸らして言った。
「……そういうことなら先に言いなさいよ」
「すまんすまん。説明不足だった」
「じゃあ、私から先に登るね?」
高瀬が先陣を切った。
高瀬なら前にも登ったことがあるので大丈夫だろう。
宣言どおり、高瀬はするすると縄はしごを登っていった。
さすが、キックボクシングも心得ているスポーツ女子。
そのメンタルの強さは素直に感嘆ものだ。
念のため下で待機していたが、高瀬は楽々と屋上まで登り切った。
「よし、じゃあ次は中川だな」
「あーしのパンツ見たら承知しないから」
「見ねーよ」
犯罪者じゃあるまいし。
「アキラ、いま絶対かがわしいこと考えてるでしょ?」
「考えてない! さあ、結衣たちが待ってるし、早く登るぞ!」
中川が縄はしごを登りはじめる。
落ちた時のことも考えて下でスタンバイしていたが、意外にも中川は怖がることなく縄はしごを登り切った。
あとは俺だけだ。
「よし、いくか」
俺も後に続く。
初めての縄はしごで若干緊張したが、上で待つ妹のことを思うと自然とパワーが湧いてきた。
案外すんなり登りきり、フェンスを乗り越え屋上に降り立つ。
「お疲れ。見張り役ありがとうね、アキラくん」
先に待っていた高瀬が声をかけてきてくれる。
「いや、高瀬こそお疲れ。相変わらず肝が座ってるな」
「無免許でバスを運転するアキラくんほどじゃないよ」
言われてみればそうか。
すると。
「お兄ちゃん!」
聞き覚えのある声に弾かれたように振り向くと、そこには1ヶ月半ぶりに見る妹の姿があった。
「結衣!」
「お兄ちゃん! 会いたかった!」
結衣がパタパタと駆け寄ってきた。
「おおっと」
胸に飛び込んできた結衣を抱きとめてやる。
「……うぅ、お兄ちゃん、こわかったよぉ……」
「よしよし。よく頑張ったな。もう大丈夫だ」
震える結衣の頭を撫でる。
よかった、かなり消耗しているがちゃんと生きてる。
それだけで、今は十分だった。
視線を上げると、そこには妹のクラスメイト、35人の女子中学生たちがこちらを伺っていた。
彼女たちの状態は様々だった。
安心しきった表情で胸を撫で下ろす子。
疲れ切って地面に座り込んでいる子。
心、ここにあらずといった風にどこか虚空を眺めている子。
一目で疲労困憊ということが伺えるが、とりあえず全員、無事ではあるようだ。
「んじゃ、改めて自己紹介からするか。俺は田中アキラ。結衣の兄であり、異世界帰りのネクロマンサーだ。高瀬は……前来たからわかるな。んで、彼女は」
「中川翔子。これの友達よ」
「友達をこれ呼ばわりするのはどうかと思うぞ」
「うっさい。アンタなんか代名詞で十分だし」
中川とそんなやりとりをしていると、一人の少女が「あのっ……」と声をあげた。
目がくりっとした小動物を思わせるような、小柄で可愛らしい女の子だ。
「その……今まで、食料とか、水とかいろいろ届けてくれて、ありがとうございました、のです……」
少女が言うと、ほかの子達も「あ、ありがとう」「おかげで、助かりました」と、口々に礼を言い、頭を下げた。
最初、歓迎の石を投げつけられていた頃と比べたら雲泥の差だ。
頑張った甲斐があったと思った。
「ん?」
なにやら少女の頰が赤くなっていることに気づいた。
どことなくもじもじしていて、落ち着きがない様子。
熱でもあるのかもしれない。
「どういたしまして。とりあえず、みんな無事でよかった。けど、君のように体調を崩して熱を出しているような子もいるみたいだから、早く脱出しないとな」
「は、はうっ!? ……熱じゃ、ないのですっ」
そうは言うが、みるみるうちに顔が真っ赤になっている。
どう見ても発熱しているではないか。
風邪薬とかどっかで調達しないとな。
そんなことを思っていると、なぜか中川と高瀬に肘で小突かれた。
「いてっ。なにすんだよ」
「アキラくんは相変わらずだな、って思って」
くすくすと笑う高瀬。
「ほんっと鈍感。もう知らないし」
なぜか不機嫌になる中川。
「異世界召喚されてもお兄ちゃんはお兄ちゃんね……」
妹に関しては、俺を女の敵とでもいうような目で見てくる
なんだってんだ一体。
まあいいや。
とりあえず、中学生たちを連れ出さないと。
「よし、とりあえずみんな、これからバスで脱出しよう! 校内のゾンビを排除しながら俺が先導するから、みんな、安心してついてきて……」
「ちょっと待って!」
俺の言葉を、一人の少女が遮った。
見ると、金髪ツインテの少女が腕を組んで俺を見ていた。
「園田さん……」
隣で、結衣が呟く。
「ごめん、結衣にはわるいけど、やっぱり私は、まだ男を信用するのが怖い……」
怒りと、どこか怯えを含んだ声で少女は言った。
自身の体を両手で抱き、わずかに震えている。
世界がゾンビだらけになった際、男性教師に襲われてしまった子がいると高瀬から聞いている。
もしかてこの子なのだろうか?
とりあえず、この園田さんとやらは、これまでの俺の提案を拒否してきた勢力の親玉的な存在に違いなかった。
さあ、弱った。
武器を渡してもダメとなると、どうしたものか。
なにかいい方法はないかと頭を回転させていると。
「おい中坊。お前アキラが信用出来ないってんのか?」
思わぬところから助け舟が飛び出した。
中川が、園田にドスの効いた声を浴びせたのだった。




