27 ネクロマンサーの妹編
屋上ではアキラから送られてきたボストンバッグを取り囲むようにクラスメイトたちが輪を作っていた。
アキラの妹である田中結衣は、率先してボストンバッグのそばに歩み寄った。
ボストンバッグの中身がなんなのか、結衣には想像がつかなかった。
これまでのように食料じゃないことは雰囲気からわかる。
けどきっと、なにかしらの救援物資に違いないと結衣は思った。
「いいね? 開けるよ?」
結衣がボストンバッグに手をかけ、意を決してチャックを開ける。
「これ、は……?」
結衣は首を傾げた。
「なになに、何が入ってるの?」
クラスメイトたちが一斉にバッグを覗き込む。
「なにこれ……ノコギリ?」
「これは、包丁……?」
「いったいどういうこと?」
ボストンバッグの中には、大小様々な刃物が入っていた。
それも、ここにいる人数分だ。
「これでゾンビと戦えってこと?」
誰かが呟く。
そんな、無理だよと他のクラスメイトが首を振る。
動揺がクラスメイトたちの間に広がるなか、バッグの中に一枚の紙切れが入っていることに結衣は気づいた。
手にとって見てみると、結衣の見たことある字で、こう書かれていた。
『これだけ武器があれば、俺が襲ってきても撃退できるだろ?』
「……そういうことね、お兄ちゃん」
兄妹という似通った思考の一致か。
結衣は、合点がいった笑みを漏らした。
「これでゾンビと戦う……? まさか、嘘でしょ?」
クラスメイトのひとり、明美がこぼした。
金髪ツインテールが似合う可愛らしい子だ。
彼女こそ、アキラの提案を拒否し続けていたクラスメイトの中心人物で、二週間前、男性教師に貞操を奪われそうになった子だ。
あの事件以来、彼女は心から男性を信じられなくなっている。
アキラに対しては、彼による献身的な食料援助によって警戒を解いているようだが、まだまだ男に対する不信感は抱いていた。
結衣には、そんな明美の気持ちが痛いほどわかった。
けどこれ以上、彼女を含めた少数の意見でここに留まるのはダメだと思った。
このままじゃ近いうちに皆、全滅することを結衣は察していた。
意を決して、結衣は声をあげた。
「みんな、違うよ!」
明美を含めたクラスメイトたちが一斉に、結衣に視線を注ぐ。
いきなりどうしたと言っているような目線だった。
一瞬、怯みそうになる。
結衣もアキラと同様、クラスの中ではどちらかというと地味な部類だった。
友人たちもどちらかというと内向的で、オシャレよりも読書の方が好きなタイプ。
しかし結衣はクラスメイトたちに言葉を投げかけた。
大好きな兄が頑張っているのだから、自分も頑張りたいという、その一心だった。
「お兄ちゃんは、私たちに武器を持たせて安心させようとしてくれてるんだよ!」
何人かのクラスメイトたちが気づいたように目を見開いた。
よし、ちゃんと伝わってると、結衣は胸をなでおろした。
もっと伝わるよう、必死に言語化する。
「つまり、その、みんなが武器を持ってたら、お兄ちゃん1人だけじゃ到底太刀打ちできないでしょ? そういう状況を意図的に作ることによってみんなを安心させて、屋上から連れ出そうとしてくれてるんだよ!」
自分の推測は間違っていない事に、結衣は自信があった。
なぜなら兄はそういう人だということを、ここにいる誰よりも知っているからだ。
「たしかに、私たち全員が武器を持っていたら、あの男に襲われても心配はない……」
「私たちでも、36人もいれば男の一人や二人くらいは……」
「つまりやっと、この屋上から脱出できるのね」
クラスメイトたちが、結衣の言葉によってアキラの意図を汲み取ってくれたようだ。
明美も、なにかと葛藤している様子だが、結衣に反論する気配はない。
結衣がみんなに頭を下げて言った。
「みんな、お願い。一回だけでいいから、私のお兄ちゃんを、信じてくれないかな?」
結衣が言うと同じタイミングで、屋上の外からアキラの声がしてきた。
「おーい! みんな! 見ての通り、その武器があれば、俺が襲ってきても大丈夫だろ?!」
よかった。
どうやら私の言ったことは間違っていなかったようだと、結衣は安堵した。
「ねえみんな。お兄ちゃんを屋上に、連れてきてもいいかな?」
結衣の問いかけに女子中学生たちはようやく首を縦に振っった。




