26 俺の妹の友達がこんなに素直なわけがない
なぜこうなったし。
高瀬と、予想外に駄々をこねて付いてきた中川ともに校舎に向かう。
「なに。私がついていくことに文句あるの?」
ムスッとした顔でそう言う中川。
ちなみになんで付いてきたいのかと理由を聞くと、
『アキラは女心がわかってないから、変な事言って中坊共を怒らしたら大変。あーしがいたほうが、余計な争いをさけられるし!』
とのことだった。
一理あるような無いような。
とりあえず、さっさと中学生たちを救助したかったので連れてきたが、大丈夫だろうか。
人手はあった方がありがたいが、中川の姿に中学生たちがビビらないか心配だ。
「安心して!もしアキラを怪我させようとする中坊がいたら、1発でシメてやっかんよ!」
「いや、だからシメるな」
「くすくす、仲いいわね、二人とも」
「「どこが?」」
高瀬にツッコミを入れている間に校舎にたどり着いた。
屋上に向け、声を張る。
「おーい! 俺だ! アキラだ!」
ひょこひょこと、太陽を背に何人かの影が身を乗り出してきた。
「隣の女は誰!?」
もっともな問いが降ってきた。
「前来た高瀬と、友達の中川だ!」
ざわざわと、中学生たちがどよめく雰囲気が感じられる。
やはり、イケイケギャルの風貌は中学生たちにとって刺激が強いのかもしれない。
不安を募らせる前に、俺は仕掛けた。
「脱出用のバスを持ってきた! 今から皆で乗って、ショッピングモールに移動しないか!?」
まずは一応、今までの要求と同じような内容を投げかけてみる。
しばらく経ち、屋上から告げられた答えは、「NO」だった。
まだだめかと若干落胆したが、ここまでは想定通り。
「大丈夫なの、アキラくん?」
事情を知っている高瀬が心配そうに尋ねてくる。
「ああ、大丈夫だ」
次の案を投げようとすると、屋上から丸められた紙が落ちてきた。
広げると、結衣の字体でこう書かれていた。
『みんなのほとんどは、屋上での生活に限界を感じている。後もう一押しすれば、一気にみんなの気持ちは傾くと思う』
と。
なるほど。
これは嬉しい情報だ。
事前の作戦通り、俺はボストンバッグを掲げ、叫んだ。
「今からお前らに渡したいものがある!結構重いから、何人かで引き上げてくれ!」
この要望に対しては反論はなかった。
屋上からロープが垂れてくる。
無事、了承してくれたようだ。
ここ最近の頑張りにより、ある程度信頼は獲得できているのだろう。
ほっと胸をなでおろしながら、ボストンバッグをロープにしっかりと繋ぐ。
「よし! あげてくれ!」
ちょっとずつ、ボストンバッグが屋上へと上がっていく。
「お、重いっ……」
「ちょっとっ。いったい何が入ってるのよ!?」
そう言いながらも、ボストンバッグは屋上に到達した。
こちらを覗き込んでいた影たちが引っ込む。
「さあ、上手くいってくれよ……」
俺が祈るように手をあわせると、
「安全しなって!アキラがここまでしてまたま駄々こねるってんなら、私がシメ」
「いやだから、シメんなって」
さて、無駄話をしている暇はない。
反応次第では、新しい案を考えなければならない。
俺は祈るように屋上を見上げた。
「そういえば私たちは武器とか何ももって来てないけど、大丈夫なの?」
高瀬が尋ねて来る。
「まあ、なるべくこっちが無防備の方が向こうも安心するからな。いざとなったら逃げるまで」
「安心しろし! アキラに危険が迫ったら、あーしがアンタを守るから!」
「それは心強い。ありがとうな、中川」
礼を言うと、中川は照れたように顔を赤らめた。
「べ、別に褒められるようなことじゃないし! アンタが死んだら私たちがショッピングモールに行けなくなるから! ただそのためだけだし!」
「わかった、わかった」
なにはともあれ、こちらの準備は整った。
あとは彼女たち次第かと、俺は心臓をドキドキさせながら屋上を見やった。




