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24 帰宅

 ブロロロッ、キッ。


 家の前にバスを停車させ、フラフラと降車する。

 もうすっかり夜になっていた。


「つかれ、た……」


 こぼすように呟かれたその言葉は、今の俺の状態そのものを表していた。

 端的に言うと、超疲れた。


「いやー、我ながらに濃密な一日だった」


 朝、早起きしてバスセンターに向かい運転の練習をした。

 半日の練習で公道に出られるようになり、ホームセンターで36人+4人分の物資を一人で調達した。

 その後、中学校に向かい、屋上に籠城する36人の女子中学生の元へ物資を届け、すぐさま高校へ。

 中川たちにも食料を届け、明日の予定を話した後、ようやく帰路につけた。


 ああ、本当に疲れた。

 今にも倒れてしまいそうだ。


 最後の力を振り絞って、家の玄関を開ける。


「ただい……」

「(おかえりアキラ!!)」


 いつものごとく、玄関スタンバイしていた初音がスタートダッシュをかまして俺に抱きついて来た。

 だが、今日の俺は初音を抱きとめて踏ん張る力がなく、そのまま玄関に押し倒されてしまう。


「(アキラ!? 大丈夫!?)」

「ご、ごめん。ちょっと疲れちゃってて……」


 初音に抱き起こされる。

 そして、心配そうに顔を覗き込まれた。

 

「(ごめんね、アキラ……痛かったよね?)」


 しょんぼりした顔で謝罪する初音の頭を撫でてやる。


「ううん、全然! むしろ、初音のパワーでちょっとエネルギーが充電されたよ」

「(ほんとっ? わーい!)」


 実際のところ、帰るなり元気に抱きついて来た初音のおかげで少し元気を取り戻せれた。

 やっぱり、疲れて帰ったら愛する人が迎えてくれるというのはどんなエナジードリンクよりも効果があるな。


「俺も遅くなってごめんよ。お腹減ってる?」

「(うん! 減ってる!)」

「よし、じゃあ飯にするか」」

「(わーい! 今日はなにかなー?」

「今日はすごいぞ! なんとハンバーグだ!」

「(ハンバーグ!? やったー! やったー!)」


 もちろん、真空パックに入ってるタイプのやつだ。

 商品名は『洋食屋さんのガーリックハンバーグ』。

 常温でも一年ほどもつみたいなので、今後も重宝していくだろう。

 

 しかし、こうも喜んでくれるのはありがたい。

 疲れていても作ろうという気になれる。


 というわけで玄関からキッチンへ移動する。


 いつもの要領で白飯の準備から開始。

 今日のスープはコンソメにしよう。

 それらの準備が終わったと、早速、水を張った鍋をカセットコンロで火にかけた。


 沸騰するまで待ってから、真空パックハンバーグを投入。

 5分ほどでグツグツした後、封を切ってお皿に乗せた。


「おお……まさにハンバーグだ」

「(わー! 美味しそー!)」


 ほかほかと湯気を立ち上らせる茶色い肉の塊に、俺は思わずゴクリと喉を鳴らした。


 食欲をそそるガーリックな匂いが意をダイレクトに刺激する。

 ハンバークはおろか、久々の肉である。

 ビジュアルはまさに本格的なハンバーグそのもの。

 商品名に恥じぬクオリティだった。


 炊き上がったご飯をよそい、インスタントのコンソメスープもつける。


 今日はなかなかに豪勢だ。


「じゃあ、食うか」

「(うん!)」


 初音といただきますをし、ハンバーグをかっ食らい始めるのであった。



◆◆◆



「いや、マジでうまかった。やっぱ肉はすげーわ」

「(ねー! すごく美味しかったねー!)」


 ハンバーグディナーを終えた後、俺と初音はランタンで灯された自室でくつろいでいた。

 二人でベッドに腰掛け、ハンバーグの感想を言い合う。


「やっぱりニンニクが効いてるってのが良かったね。ご飯とめちゃくちゃあう」

「(ね! 中はジューシーで柔らかかった! また食べたいなー!)」

「今度は別の味付けのものを買って来てあげるから。楽しみにしといて」

「(ほんと!? やったーやったー! 大好きアキラ!)」


 初音がぎゅっーっと抱きついてくる。

 こんなに喜んでくれるのなら、調達し甲斐があるというものだ。


 とは言うものの、ゾンビだらけになったこの世界で肉は貴重品だ。

 あまり頻繁に食べられるものではないだろう。


 そうだ、食料問題について早めに考えないといけないな。

 既存の保存食も、いつまでも食べられると言うわけではない。

 持って一年、二年もすればほとんどの保存食は食べられなくなるだろう。


 核戦争だか地震とかで文明が崩壊した後、生き残ったわずかな人々は畑を開拓し、自給自足の生活に戻るというのがパニック漫画やアニメの鉄板だ。

 その選択も真面目に考えなければならないだろう。


 そんなことを考えていると、


「(あ、そうだ!)」


 初音が俺の後ろ側に回ってきた。

 そして、俺の肩を親指で押し始めた。


「初音?」

「(今日は疲れてるみたいだから、マッサージしてあげる!)」

「お、ありがとう。助かる」

 

 言葉の通り、初音のマッサージは上手だった。

 それに結構力強くて、凝り固まった筋肉にかなりの刺激を与えてくれる。

 女の子だから力的に物足りないかと思われていたが……そうか。

 そういえば初音はゾンビ化しているのでパワーが倍増しているんだ。

 思わぬゾンビ化の恩恵だった。


「(気持ちいい?)」

「ああ、気持ちいいよ」

「(うふふ、よかった! それじゃもっと張り切っちゃうぞー!)」

「ちょ!? それ以上パワーアップしたら流石にいでででで!?」


 こうして夜は更けていった。

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