23 移住計画進行中
当初予想していた往復回数を大幅に超えたが、無事、中学生たちに物資を届け切ることができた。
感謝の声を受けて、俺はほっと胸をなでおろした。
だいぶ、中学生たちからの信頼を得たような気がする。
俺は高校に向かった。
バスで高校に乗り付け、例のごとくリヤカーに物資を乗せて構内へ。
「くっ……リヤカーを階段の上まで持っていくのは流石に骨が折れるな……」
中川たちのいる図書室は構内東側の三階であるため、物資を届けるには地味に骨が折れる作業だった。
なんとか二階と三階を繋ぐ階段のシャッターまでたどり着く。
固く閉ざされたシャッターを拳で何度か叩くと、シャッターの奥から慌てた様子の足音が聞こえてきた。
「誰!?」
中川の声だ。
「俺だ! 物資を届けにきた!」
「ア、アキラ!? 待ってて、すぐ開けるから!」
ガラガラとシャッターが開かれる。
そこには、少し涙ぐんだ中川が立っていた。
「よっ、よう、昨日ぶり」
「ア、アキラぁ……」
ぐしゅっと鼻水を啜ったかと思うと、中川はガバッと俺に抱きついてきた。
「おおうっ!? どうしたどうした。腹減ってんのか?」
鼻をつく甘い匂いが俺を動揺させる。
「ち、違うし! ちょっと心配して……いやこれも違う!」
ハッと我に返ったように中川は俺から距離をとった。
口を尖らせ、目を横に流している。
まるでいたずらがバレた子供のようだ。
「いや、今心配って言ったよね?」
「言ってないし! とにかく、これは一日ぶりにご飯が食べられることが嬉しくて……」
「やっぱ腹減ってんじゃねえか」
「うっさい!」
小腹を小突かれた。
地味に痛い。
「と、とにかく! 無事だったのはなによりだし……その、ありがとう」
頰を赤らめ、つぶやくように言う中川。
ふっと、俺の口元が緩んだ。
「どういたしまして。じゃあ、他のみんなのところに行こうか」
「ああ! みんな、腹ペコだからな!」
中川と一緒に図書室に向かった。
◆◆◆
「わああ……カレーを白いご飯と食べられるなんて夢みたいだよ……」
伊藤が目を輝かせながら言う。
「すごい、ハヤシライスもある……久しぶりの文明的な食事ね。本当にありがとう、アキラ」
高瀬も、ハヤシライスのパッケージを眺めながらゴクリと生唾を飲む。
「ジュースもあるなんて気が効くじゃねえか、アキラ」
原田はカルプスをグビグビ飲んでいた。
「ちょっと! なに勝手に一人で飲んでんだし!」
中川が原田に怒る。
「い、いいじゃねえかちょっとくらい……」
「ダメ! アキラの苦労して持ってきたジュースなんだから! あと、口つけんなし!」
バッと、中川が原田からカルプスを奪い取る。
「なにすんだ、返せよ!」
原田が反発して奪い返そうとする。
「はいはい、余計な事でカロリーを使うんじゃない。お腹空いてるだろ? 早く食べようぜ!」
俺が言うと、中川と原田が言い争いをやめて頷いた。
二人ともお腹ペコペコのようだ。
まずは飯盒に米を投入し、水を入れた後、カセットコンロで加熱する。
いい感じに蒸らし、そろそろ出来上がるというタイミングでもう一つのほうのカセットコンロで湯を沸かし、そこにレトルトカレーのパウチを入れる。
「あれ、アキラくんは食べないの?」
高瀬が4つしか入っていないレトルトカレーを見て尋ねる。
「わるい。ここに来る前に腹減って食べちまったんだ」
本当は家で初音とゆっくり夕食をとる予定だからなのだが、もちろんそんなことは言えまい。
「こんなに頑張ってくれたらすぐにお腹空いちゃうよね……本当にありがとう、アキラくん」
なんか勘違いされたっぽいけどまあいいか。
レーパウチを五分ほど煮込んで鍋から取り出す。
お皿にご飯を盛ってカレーを投入すると、胃をきゅっと刺激する良い匂いが漂ってきた。
俺は昨日食べたばかりだが、実際腹が減ってるのでお腹がなりそうだ。
「美味しそう……思わずよだれが……」
「は、早く食おうぜ!」
原田が急かす。
皆でテーブルを囲み、椅子に座る。
全員にスプーンが行き渡った後、皆で手を合わせた。
「「「「いただきます!!」」」」
飢えた肉食動物のように、皆一斉にカレーをかき込む。
「う、うめえ!」
「ほんとう! レトルトカレーがこんなに美味しいなんて!」
「ううっ……わたし、生きててよかったぁ……!!」
皆、感激しながらレトルトカレーを頬張っている。
こんなに喜んでくれると嬉しいものだなやっぱ。
10分もすると、皆綺麗にカレーを食べ終えた。
皆、よっぽどお腹が空いていたんだろう。
「うう……本当にありがとう、アキラくん」
「本当、アキラくんには感謝しても仕切れないわね」
「ま、まあ、アキラにしてはやるじゃない、って感じ?」
「……ありがとよ」
皆、思い思いに例の言葉を口にする。
ぶっちゃけそこまで大したことはしてないんだが。
ゾンビだらけの世界において、食糧調達がいかに困難なのか身に染みてわかるな。
さて、飯も食い終わったことだし、皆にこの話をしておこう。
「みんな、聞いてくれ」
皿を片付け終えた後、俺は皆を集めて言った。
「校庭を見ればわかる通り、俺は今日、バスセンターからバスを持って来た」
言うと、驚きの声をあげた。
「うっそ!? マジ!?」
「本当だ! 校庭にバスが停まってる!」
「え、どれどれ!? あーしも見たい!」
皆、窓の外を見やって、バスの存在を確認する。
「あれ、アキラくんが運転して来たの?」
高瀬が聞いてくる。
「ああ、なんとか」
「アキラくん、免許持ってたっけ?」
「まさか。バッチリ無免許だよ」
「じゃ、じゃあ……」
「バスセンターの敷地内で練習してたら、なんとか走らせられるようになった」
「アキラくん……ほんとすごい」
中川、高瀬、伊藤が尊敬の眼差しで俺を見てくる。
なんだかむず痒い。
「ま、まあ、とありあえず。移動手段は確保できたから、明日、皆でショッピングモールに移動しようと思うんだ。ずっとここにいるわけにはいかないし」
「「「「ショッピングモール!?」」」」
皆一斉に身を乗り出した。
「そ、それはすごく魅力的な名案ね!」
「やっと……やっとこの生活から解放される……」
「ショッピングモールか……なんでも商品取り放題と来ちゃあ、最高だな」
四人とも、ここでの終わりのない生活に不安を抱いていただようで、心底嬉しそうだ。
「けどアキラ、なんでバスで来たんだ? 四人なら、普通車でよくないか?」
原田が尋ねてくる。
「妹のいる中学の女子生徒たちも乗せていくからだよ」
「ああ、あの子達ね……けどアキラ、彼女たちはちょっとやそっとじゃ屋上から動かないわよ?」
実際に屋上の惨状を目にした高瀬が俺に言う。
「ちょっとやそっとって、どういうことだし」
中川が高瀬に尋ねる。
「えっと、実はだな……」
俺が説明すると、中川はみるみるうちに顔を真っ赤にして、
「なにそれ、サイテー! 人間のクズじゃん!」
嫌悪感MAXの表情で怒ったように言う。
「けど、せっかくアキラが何度も食料を運んでくれてるのに、全く動こうとしない中坊共も腹たつな。一回シメとくか」
「いや、シメんなよ?」
昨日は中川を連れていかないで正解だったな。
「冗談だし」
中川は未だモヤモヤしたままといった風にそっぽを向いた。
「それで、アキラくん。彼女たちを屋上から連れ出すいい方法、あるの?」
高瀬が尋ねてくる。
「たぶん大丈夫だ。名案がある」
「名案?」
「それは明日になってからのお楽しみということで」
「アキラくんがそう言うのなら……」
高瀬も納得してくれたようだ。
「なにはともあれそういうことだから、持っていくものとか諸々、準備しておいてくれ。明日の朝、十時くらいに迎えにくるから」
そう締めくくった。
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