22 大量輸送
ブロロロロ。
俺はバスを運転している。
ブロロロロ。
もう一度言う。
俺は、バスを、運転している!
「想像以上に楽しいな!」
バスセンターで練習すること3時間。
俺は普通にバスを運転できるほどまで上達していた。
下手したら丸一日かかるかもしれないと思っていたが、思った以上に早く感覚をつかむことができた。
ただ走らせたり止まったり、バックすることは簡単だった。
難しいのは交通ルールや他の車両との距離感だとか、そういうのだ。
ゾンビで溢れかえって車の走っていないこの世界では何の意味のないことだった。
というものの、横転した車や放置された車がそこらじゅうにあるため、スピードは出せない。
なるべく大きな道を走ってはいるが、安全運転を心がけていこう。
ゆっくりと車と車の間を縫って走る。
道が車で塞がれている時だけ、ゆっくり接触し、バスという巨体を生かして押し退けていた。
さすがの馬力だ。
「えーと、ホームセンターは……こっちか」
少女たちに持たせる武器を調達しなければならない。
のそのそと安全運転でバスを走らせる。
いつものホームセンターが見えてきた。
「車だと楽ちんだな」
誰かが言っていた。
車を持つと世界が変わるぞと。
まさしく今、それを実感している。
まあ、その前にゾンビによって悪い方向に世界は変わっちゃってるんだけど。
ホームセンターについた。
入り口にバスを停め、降りて鍵を閉める。
中に入り、カートをついて刃物コーナーにいく。
ハサミやカッターなどの小さなものから、ノコギリやチェーンソーなどゴツいものまで揃っていた。
「あんまり重たくなくて、それなりに武器っぽいものといえば…とりあえず包丁やノコギリかな?」
包丁、ノコギリ、サバイバルナイフなどを次々にカートへ入れていく。
平常時の世界でやったら不審な目で見られること間違いなしだ。
「こんなもんでいっか」
カートから溢れ出た刃物たちを見て一息つく。
まるで剣山だ。
「チェーンソーとかも欲しいけど……無闇に重いもの増やす必要もないか」
ゾンビものの映画といえばチェーンソーが鉄板みたいなところはある。
しかし現実的には重いし、扱いづらいし、一歩ミスったら自分が怪我するしで、あまり有用性は感じられなかった。
今回は見送らせてもらおう。
「おっ」
カートをついて出口に向かっていると、園芸コーナーにたてかけられた背丈の半分ほどあるショベルを見つけた
「そういえば、某ゾンビアニメではこいつが大活躍だったな」
ショベルでゾンビたちをバッタバッタとなぎ倒すツインテール美少女のシルエットが脳裏をかすめる。
あのアニメも物語っているが、やはり学校という場所はゾンビに対して強固な砦になるようだ。
まあ、世界がゾンビに溢れかえっていても、じっかぐらし! している俺には関係ないが。
「さて、入れていくものも必要だな」
レジのビニール袋では破れてしまうかもなので、大きなボストンバッグを見つけ、その中に刃物を入れることにした。
36個の刃物が入ったボストンバッグを肩にかけ、ガチャガチャと音を鳴らしながらバスに帰ってくる。
「あ、そうだ」
せっかくなんでも運べるんだし、結衣や中川たちにも白いご飯を食べてもらおう。
というわけで、キャンプ用品コーナーから飯盒をやカセットコンロ、大きめの鍋も失敬し、バスに乗せる。
あとついでに、物資を運搬するためのリヤカーも乗せておいた。
エンジンをかけ、再び俺はバスを走らせた。
「結構遅くなっちゃったな」
時刻は午後四時過ぎ。
日暮れまで残り3時間弱ってところか。
結衣たちをショッピングモールに連れていくための本格的な行動は明日にすることにした。
今日は中川たちと女子中学生たちに物資を届けるまでをミッションとしよう。
ゆっくりとバスを走らせ、スーパーに到着する。
今日は大量に物資を運べるぞ。
「えーと、とりあえず2リットルの水を50本くらいと、あと、ジュースもたくさん持って行ってあげよう」
大きめなカートいっぱいに飲み物を入れ、バスへ持っていく。
「次は米だな……くっ、重い」
三十キロと五キロの米をカートに乗せ、バスに持っていく。
「あとはなんか適当に持っていくか……そうだっ」
せっかくカセットコンロや鍋があるんだし、湯煎で食べれるレトルトカレーやハヤシライスを持っていこう。
最近ロクなもの食べてないだろうし。
「あとは湯煎用の水を追加して、タオルとか、歯ブラシとか持って行ってあげるか」
やっぱり、運搬手段があるのは素晴らしいね。
持っていくものを選ばなくて済むし。
バスの力は偉大なり、だ。
一通り物資を積み込み、再びバスを走らせる。
結衣のいる中学校に到着した。
一旦、周りのゾンビを死霊術で排除したあと、スライド式の門扉を開ける。
バスで校庭に侵入したあと、扉を再び閉じた。
屋上を伺うと、女子中学生たちが何事かとこちらを身を乗り出しているのが見えた。
「食料を持ってきた! 今、そっちに持っていく!」
屋上に向けて叫ぶと、疑問の声が返ってきた。
「そのバスはなに!?」
「バスセンターから持ってきたんだ! 今日はたくさん飯が食えるぞ!」
言うと、屋上で喜びの声が上がった。
彼女たちの精神状態も限界に近かったのだろう。
ありがとうございます! とお礼を言う声が聞こえてきて、俺は頑張った甲斐があったと胸がいっぱいになる思いだった。
「まあ、ここからが本当の頑張りどころなんだけども」
物資の量も量だし、最低5回は往復しなければならないだろう。
気合いを入れ、俺はバスから物資を降ろす作業に取り掛かるのであった。




