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21 はじめての運転がバスってハードゲーすぎない?

 翌朝。

 初音のおかげで打開策を思いつき、俺は頭の中でやるべきことの順序を組み立てながら街を歩いていた。

 相変わらず街はいたるところがゾンビで溢れかえっているが、俺はネクロマンサーなので襲われない。

 それにしても、ゾンビのパンデミックが始まって10日ほど経っているはずなのだが、未だに警察や自衛隊といった政府の救助活動が見られないのはなぜだろうか。


 俺の住んでいるこの街が、首都圏から離れた地方都市だから救助が遅れているのだろうか。

 それとも警察はおろか、自衛隊も全滅していて政府機能は壊滅……。

 

「ええい、悪い方向に考えるな」


 きっと、大丈夫だ。

 前読んだゾンビ漫画では、政府機能を輸送艦に移動させて人命救助の拠点にしていた。

 流石に海の上まではゾンビは追ってこれないからね。

 

 なんてことを考えている間に最初の目的地に着いた。


「ここか」


 やってきたのは路線バスセンター。

 街中を走る路線バスが待機している施設だ。


 36人の女子生徒+クラスメイト4人を移動させる手段として、一番最適なのはバスだろうと思いやってきたのだ。

 

 敷地内をトコトコ歩いてみる。

ゾンビがちらほら見られるだけで、生存者はいなさそうだ。

 駐車場には10台ほどの路線バスが放置されていた。


 当然、バスには鍵がかかっていた。


「たぶん、鍵は……」


 バスセンターの建物の中に入る。

 事務室に行くと、壁に取り付けられたキーケースを発見。


 おそらくこの中に、バスの鍵が入っているに違いない。

 当然、これも開けるには鍵が必要なわけだが。


「この鍵は探しても見つからないような気がする」


 ならば破壊するしかあるまい。

 室内にあった椅子で何度か思い切りぶっ叩いてみる。

 ガンッガンッと大きな音を立てるが、少しへこむ程度で開く気配はない。


「もっと重くて硬いものじゃないとダメか」


 一旦外に出て、敷地内を見回す。

 一抱えもあるコンクリートブロックを発見。

 これならばと、ブロックを担いで再び事務室へ。


 キーケースめがけてブロックをぶん投げる。


「うっらあっ!!」


 ドゴンッと鈍い音を立てて直撃。

 さっきと違い、かなりへこんだ。


「よし、これなら!」


 加えて一撃、二撃とブロックをぶつける。

 三撃目で、ちょっとへばった。


「ふぅー、結構きついな、これ」


 どんどんへこんでいるとはいえ、まだまだ時間がかかりそうだ。


 清田なら連続で10回くらいぶん投げられただろうか。

生憎俺はひ弱なインドア人間ゆえ、一投一投かなりの負担になる。


ああ、くそ。

ゾンビの手も借りたいぜ。


「いや、借りればいいじゃん!」


そういえば俺はネクロマンサーで、ゾンビを使役することができるんだった。

それに確かゾンビは、普段人間が身体にかけてる力のリミッターが外れているため、かなりの力を発揮できるとか。

 

というわけで、外にいた警備員らしきゾンビに死霊術をかけて使役した。

異様にガタイが良い。

アーノルドシュワ○ツネッガー並だ。


「あ゛〜う゛〜」

「よし、シュワちゃん! このブロックでキーケースを破壊してくれ!」

「あ゛う゛!!」


ガゴンッッ!!


「……は?」


 シュワちゃんゾンビはブロックを使わず、肘打ち一発でキーケースを破壊した。

肘部分の肉がごっそりえぐれてしまっている。

なんだか申し訳ない気持ちになった。

 

「……よし、よくやったシュワちゃん! もうどっか行っていいぞ!」

「う゛〜」

 

 シュワちゃんゾンビは一仕事終えたぞという風に遠ざかっていった。


「あの人、生前は未来からやってきた殺人マシーンだったに違いない」


 遠ざかっていくシュワちゃんゾンビの大きな背中を見送りながらふと呟いた。


 なにはともあれ目標達成だ。

 破壊されたキーケースの中からバスの鍵をありったけ手に取る。

 駐車場に向かい、バスを選ぶ。


「これにしよう」


 10台ほど駐車しているバスの中から、比較的傷や汚れが少なく、新しい型だと思われるものに決めた。

 手持ちの鍵をひとつひとつ試す。

 3つ目くらいで無事、アタリを引いた。


「よし」


 ぷしゅーと、気の抜けた炭酸のような音とともバスの扉が空く。

 乗車し、お金を入れるボックスの脇をくぐって運転席に座った。

 

「さて、問題は運転だ」


 もちろん、高校生である俺は免許なんて持ってないし、運転もしたことがない。

 ゲーセンでは数え切れないほど運転席に乗ったが、所詮はゲーム。

 レーシングゲームでの操作方法なんて、現実のそれとは比べならないほど簡単だろう。

 乗りこなせる自信なんてこれっぽっちもなかった。


「たしか車には、オートマとミッションがあるんだよな……」


 大抵のレーシングゲームでは、レース直前にオートマかマニュアルかを選択できる。

 操作方法が簡単なのはオートマ、複雑なのはマニュアルという印象だ。

 たしかバスとかトラックって、ほとんどマニュアルじゃなかったっけ。

 その程度の知識だ。


「おお? このバス、オートマくさいぞ」


 選んだバスが新型だったからか、運転席の装備を見る限りどうやらオートマっぽかった。


 アクセルとブレーキ。

 左手でモードチェンジ? するためのレバーみたいなのもある。

 ハンドル脇から飛び出している棒は……ワイパー作動装置だろうか?


「なにはともあれ、まずはエンジンをかけないとな」


 たしか、キーを差して、右に回し……あれ、回んない。


 ガチャガチャやっているうちに、奥に一度深く差し込んで回さないといけないことに気づいた。

 なるほど、誤作動を防ぐ仕組みってことか。


 エンジンがかかる。

 バスが大きな唸り声をあげた。


「おおお。なんかすげー」


 初めての感覚に、俺は思わず興奮する。

 しかし、人生で初めて運転する車両がバスとは。

 日本の学生の中では俺が初めてかもしれないな。


「えっと、こっからどうすりゃいいんだ?」


 たしか親父とかは、左のこのレバーを下に引いてたような気がする。


「しかし、無闇に弄るのは怖いな」


 突然急発進して壁に激突。

アーメン、なんてことになったら目も当てられない。

 かといって、今から自動車学校とかに行ってマニュアルを漁ったりしてては何日もかかってしまう。

 今この瞬間にも、結衣を含め、屋上の少女たちは衰弱していってるのだ。

 なるべく無駄な時間は避けたい。


「……ブレーキいっぱい踏んでたら、とりあえず暴走はしないだろう」


 ブレーキを思い切り踏み込み、よしっと意気込む。


 というわけで、その場で練習を開始した

 教官もおらず、マニュアルもない、加えて一発目の教習車はバスときたもんだが、なんとかなるだろう。


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