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20 移動の方法

 スーパーで食料を調達したあと、高瀬を学校まで送り、俺は家に帰宅した。

 もうすっかり日は暮れてしまっている。

 初音も心配しているだろう。


「ただいま~」

「(アキラ! おかえり!)」

「おわっと……」


 家に入るやいなや初音に飛びつかれた。

 抱きつかれるなり、胸に顔を埋めてくる。


「もしかして、ずっと玄関で待ってたのか?」

「(ずっとじゃないよ! ほんの2時間ぐらい!)」

「け、結構待ってたじゃないか」

「(だって……アキラに一秒でも早く会いたかったんだもん)」


 初音が目をうるうるさせている。

 どうやら寂しい思いをさせてしまったようだ。


「(迷惑だった……?)」


 初音が上目遣いで尋ねて来る。


「そんなことな……」


 初音が急に飛びついてくる。


「ちょちょっ!?」


 そのまま押し倒されてしまった。おそるべし、幼児退行。


◆◆◆


「いただきます」

「(いただきまーす!)」


 夕飯メはレトルトカレーライスとインスタントコーンスープにした。

 こういうパウチに入った系のレトルトは常温でも何ヶ月も持つので、今後も重宝しそうだ。

 元値も結構するやつを取って来たので、味も期待できる。


「おお、美味い。さすが、洋食屋さんの本格カレーと謳っているだけある」

「(ねー! 美味しいねー!)」


 カレーなんて代物は異世界に飛ばされる前に家で食べた時以来だ。

 この独特のスパイスは地球でしか作れない。

 レトルトといえど、数週間ぶりのカレーは胃袋を十分に幸福にしてくれた。


「それにしても、どうしたもんか……」

「(どうしたの、アキラー?)」


 初音が首を傾げて聞いて来る。

 知らず知らずのうちに呟いていたみたいだ。


「あ、いや、ちょっと悩んでることがあって」

「(悩み!? 聞かせて聞かせて!)」


 予想以上に初音が食いついて来た。


「え……でも、結構難しい問題だし……」


 俺は躊躇った。

 話したところで幼児退行している初音に理解してもらえるか怪しいし、なにより余計な心配をさせてしまうからだ。


 しかし、


「(やだやだ聞くのー! アキラの力になりたいのー!)」

「初音……」


 ここで隠し事をするのは良くないと思った。

 俺は話すことにした。 


「結衣は生きてたんだけどさ、36人の同級生と一緒に屋上に籠城してて……」


 順序立てて全てを話した。

 話をしている最中、初音は黙って俺の話に耳を傾けてうんうんと頷いててくれた。


「……と、いうわけなんわっぷ!?」


 話し終えるやいなや、初音に抱きしめられた。

 

「ちょ……初音っ……もがっ!?」


 強い力で抱きしめられて息ができない。

 なんなんだ。


「(私の知らないところで頑張ってたんだね、アキラ!)」


 活発な声が上から降って来る。

 褒めてくれるのは素直に嬉しい。


「……結衣や、クラスメイトのためにやっただけだよ」

「(うん、わかってる。でもそういうところが大好き!)」


 ぎゅううううううっ。

 く、苦しい……けど……柔らかい……気持ちい……。


「(あ、ごめんっ、アキラ)」

 

 初音が解放してくれた。

 息が詰まりそうだったけど、正直もう少し堪能していたかった。

 そんな気持ちを押し込め、初音に尋ねる。


「それでだ。屋上にいる36人の女子中学生たちを説得したいんだけど、なかなかいい案が浮かばなくって」


 移動手段はバスなり大きめのワンボックスカーを使うなりでなんとかなりそうな気がする。

 問題は彼女たちの説得だ。

 高瀬に聞いたところによると、彼女たちはよっぽど怖い思いをしたようだ。

 これまで信頼を寄せていた教師に襲われたのだから当然か。

 彼女たちが心に受けたトラウマは想像以上に深いことだろう。


 初音は少しの間、んー、と考えて言った。


「(ようするに、アキラが、先生と同じように自分たちを襲うんじゃないかって恐れてるってことよね)」

「うん、そういうことだね」

「(でもアキラが、襲ったりしないって言っても、信用してくれないと)」

「そうそう。よっぽど、男に対して不信感を抱いているみたい」

「(女の子の方が男の子より力が弱いからね〜。せめて力が同じだったらね〜)」

「だったら話は早いんだけ……」


 ……ん?


 まてよ。

物理的な力関係を同じくらいに。

いや、むしろ女の子の方を強くすること、できるんじゃね?


「そうか!」


 初音の言葉で、俺は閃いた。


 俺が襲わないことを証明するのは難しい。

 なら、襲われても平気な状態=男よりも強い状態にすればいいんだ!


 そう、例えば、女の子たち全員に刃物などの武器を渡すとか。

 36人全員が武装していれば、俺が仮に襲おうとしても撃退できるという安心感を得てくれるはずだ。

襲わないけど。


「すごいぞ、初音! おかげでなんとかなりそうだ!」

「(やったー! アキラに褒められたー! もっと褒めて褒めてー!)」


 はしゃぐ初音の頭を撫でる。

 時々、実はゾンビ化なんかしてないんじゃないかと思う。

 ただの願望なんだろうだけど。


「(ん~、わかんない。ただ、アキラのためを思って考えたら、閃いたの!)」


 本当にいい子だ、初音は。

 絶対に人間に戻さないとなと、俺は再び固く誓った。


 なにはともあれ打開策は見つかった。

 

 明日、早速行動に移すとしよう。


◆◆◆


「(アキラ、一緒に寝よ!)」

「はいはい」


 食事のあと、例の公園で水浴びをし、家に戻ってくるなり初音が誘ってきた。

一緒に布団に入り、ランタンを消す。


すると、初音の方からもぞもぞと擦り寄ってきた。


「(アキラ)」

「ん?」

「(無理は、しないでね?)」


 その声は、とても心配そうだった。


「(アキラまでゾンビになっちゃ、やだよ)」

「大丈夫だ、俺は異世界帰りのネクロマンサーだ。絶対に、ゾンビにならない」


 なってたまるか。

 なんとしてでも初音を人間に戻すんだ。


「(えへへ……そうだったね」」


 俺の言葉に安心したのか、初音は静かに眠りに落ちていった。

 俺も、今日一日の疲れがどっと吹き出したのか、夢の世界に誘われていった。


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