16 高瀬夏美
「と言うわけなんだ」
妹の学校のことを皆に話す。
「36人も助かったのね」
「女子中なのがよかったかもね」
「確かにお嬢様中学だし壁高いしねえ」
「んで、それが逆にゾンビよりタチの悪い性獣を呼び寄せちゃったのか」
最後の原田の発言に女子陣がお前が言うなという顔をした。
俺もしていただろう。
「まあ、そうみたいなんだ。詳しく状況を聞けたわけじゃないんだけど。それで女子の誰かが一緒に俺と付いてきて欲しいんだ」
原田がいぶかしげな目を俺を見る。
「本当にお前の周りにいればゾンビに襲われないんだろうな?」
「そうだけど」
「まあ、死霊術は見せてもらったから信用する」
そう言う割には未だにいぶかしい顔をしている。
「じゃあ、なんなんだよ?」
「実は妹の話は嘘で、誰か外に連れてって変なことをするつもりなんじゃないだろうな?」
なにを言ってるんだと思ったが、先に敦子と高瀬が抗議した。
「なに言ってるの? アンタじゃないんだからアキラがそんな事する訳ないでしょ!」
「ホント原田馬鹿じゃないの?」
「な、なに言ってるんだよ。俺はお前らを心配して」
「なにがあっし達を心配してよ! お前がいるのが心配なんだよ!」
「コイツもう無視しよう」
敦子と高瀬は俺の腹立ちを代弁するように、いやそれ以上に原田に怒っていたが、伊藤は意見が少し違うようだった。
「それって私が行くことになるんでしょ……アキラくんのことは信用できるけどゾンビはやっぱり怖いな」
「え? あーしが行くよ」
確かになんで伊藤が行かなくちゃ行けないんだろう。
「だって敦子が行ったら怖がっている女の子がさらに怖がっちゃうじゃない」
「うっ……大丈夫だよ~」
なるほど。ギャルの敦子が行ったらそんなこともあるかもしれない。
女子中の女の子なら尚更だろう。
確かに大丈夫と主張する敦子自体が、気がかりに思っているようだ。
その点、伊藤なら見た目からして真面目なメガネっ娘だし、適当かもしれない。
「伊藤来てくれないか?」
「ゾンビが怖くて……ごめん……」
「そうか」
敦子が小さく手をあげる。
「あ、あーしはやっぱりダメかな」
「あの女子中はちょっとしたお嬢様学校だから敦子はなあ」
「む~」
「敦子は金に近い茶髪だろ?」
「ううう」
もちろんあの女子中には黒髪しかいない。
「優等生っぽくなくてもいいから黒髪で怖く無さそうな……」
皆、同時に同じ方向を見た。
「わ、私?」
◆◆◆
高瀬が俺に身を寄せるように歩いていた。
「とりあえず、途中にある物資を手に入れにスーパーに寄るよ」
「うん。36人分だからね。私も手伝うよ」
「助かるよ」
良い意味で体育会系の高瀬はなんでも快活だった。
全国大会に出れるほどの陸上選手らしくてジャージがよく似合っている。
「キャッ」
高瀬が小さな悲鳴をあげて俺の腕を掴む。
「どうした?」
「またゾンビが……」
高瀬でもゾンビは恐れる。
俺はネクロマンサーとして帰ってきたし、初音はすぐにゾンビになったので襲われなくなってしまった。
しかし、高瀬も含めて多くの人にとってゾンビは大切な人を奪い、社会生活を奪ったモンスターなのだ。
「俺の傍なら大丈夫だよ」
「う、うん」
それでも高瀬はアキラくんの妹さんを助けなきゃと快く協力してくれた。
「高瀬、ありがとな」
「なにが?」
「俺の妹のためにさ」
「当たり前じゃん。アキラくんにはすっっっごくお世話になってるんだしさ」
「それにこうやってさ。また外を歩きたかったんだよね」
「こうやってって?」
快活な高瀬が答えにくそうに口ごもる。
「……だ、男子の腕を掴んでさ」
「え?」
え? と聞いても返事はなかった。
「でも俺でいいのか?」
「なんでそんなこと言うの~いいよ。ってかアキラくんとじゃなきゃ外歩けないし。ひゃっ」
ゾンビが目の前を通る。
「あははは。ゾンビもいるけどね」
スポーティな高瀬は学校に閉じこもりきりは辛かったのかもしれない。本当に楽しそうだ。
だからちょっと引っかかっていた原田が言ったことを聞いてみた。
「俺がさ」
「ん?」
「死霊術で世界をゾンビだらけにしたとか、妹がどうとかって嘘ついてお前に変なことするとか……高瀬は心配しないのか?」
「原田のあれ気にしてたの?」
「少し……」
「もうアキラくんがそんなことするわけないじゃん。原田の奴!」
高瀬はまた原田に怒っていた。
「どうしてそんなに信用してくれるんだ?」
「見れば分かるじゃん。苦労して色んな物を持ってきてくれたり」
「苦労してるってわかってくれるのか。ゾンビに襲われないなら簡単かもしれないだろ?」
「わかるよ。言葉遣いとか変わっちゃったのだってなんか色々あったんでしょ?」
「ああ」
確かに色々あった。
初音がゾンビになってしまったり、おじさんも死んでしまった。
「大変な時に皆を考えられる人と原田みたいに自分勝手になっちゃう人がいると思うんだ」
高瀬は俺のことを大変な時に皆を考えられる人だと思ってくれているのか。
「そんなつもりもないんだけど」
初音や結衣を優先したいと思っている。
「でも女子中学生たちも助けたいと思ってるんでしょ」
「出来ればね。彼女たちに罪はないんだし」
「私だったら、そんな我儘な子たち助けないかも」
「そうは言ってもな。なんかあったみたいなんだよ。妹も皆を助けて欲しいって言うし」
「うん。そんなアキラくんだから信用できるんだよ」
「ありがとな」
高瀬が少しだけ俺の腕を強く握り直す。
スーパーに着いた。
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