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15 ゾンビパニックの理由

「うん。これで良し」


 伊藤が心配そうに聞く。


「本当にゾンビがいなくなったの?」

「うん。シャッターの向こうにいるゾンビを二階に下げたよ」

「私達が中にいると知っているのかたまにシャッターを叩くゾンビがいるのよ。集まってきてるんじゃないかな」

「個体差はあるけどゾンビにも僅かに知能があるんだ。頭の良いゾンビは人間のいそうな場所もわかる」

「今は死霊術でいないってわけね」


 俺が頷くと敦子がシャッターを上げ下げする紐を回しはじめた。


「あーしはアキラを信じるよ」


 敦子は僕らの方を見ながら、つまりシャッターの方に背を向けて上げ下げする紐を回している。

 くっくっく。

 本当に信じて良いのかな。


「ひっ」

「ちょっちょっと敦子!」

「げっ」


 敦子以外の皆が気づいたらしい。


「ん? どうしたの?」


 敦子はそう言いながらも紐を回していく。

 シャッターはどんどん上がっていった。

 シャッターの向こうには一匹の血だらけの男子ゾンビが立っていた。


「後ろ、後ろ、後ろ~」

「え?」


 皆は必死になって「後ろ」と言っている。

 敦子はそれでも気づかずにシャッターを上げていた。

 ゾンビが居ないと信じ切っているようだ。


「後ろぉっ!」


 高瀬が敦子の頬を両手で挟んで首をクイっと回した。


「きゃああああああああああ!」

「あ”~あ”~」


 敦子がやや大きな尻を廊下の床につく。


「い、いるじゃないっ!」


 立ち上がれないのかそのままM字開脚で後ろに逃げる。


「ア、アキラ、た、助けて!」


 良反応だが、ちょっと可愛そうになってきた。

 脚にしがみついた敦子の頭に手を置いて撫でる。


「大丈夫、大丈夫」

「な、なに言ってるのよ」

「実は一匹だけゾンビを使役たんだ」

「し、しえき? なんのことよ」


 いち早く逃げていた原田が足を止めた。


「ひょっとしてそのゾンビ、アキラが操作しているのか?」

「ああ。そうそう」


 伊藤と高瀬がため息をついた。


「なんか変だと思った」

「ぬぼーって立ってるだけだしね」


 敦子はまだ震えていた。


「ふざけんなし! はじめにちゃんと言っとけ!」


 そう言ってしがみついた俺の足を叩いてくる。


「いていてっ。まあ死霊術はこんなこともできるって見せたくてさ。ごめんな」

「許さない」


 まだ叩かれている。


「どうしたら許してくれるんだよ」

「皆で図書館と購買部に行くんだろ? あーしをおぶれっ!」

「な、なんでだよっ!?」」

「立てなくなっちゃったの!」


◆◆◆


 なぜか敦子をおぶって移動することになってしまった。

 ゾンビパニック前もこいつは日直の仕事とかなんだかんだ俺にやらせようとしてくる奴だった。

 まあ学校から帰る時に「アキラ。帰んの? じゃーねー」とかわざわざ挨拶してくれたり、可愛いところもあるんだど。

 今はひたすらに重かった。

 ゾンビパニックでだいぶ痩せたはずだろうにそれでも太ももはムチムチしている。


「アキラが脅すからいけないんだからな」

「わかったわかったよ」

「ゾンビが近いっ!」

「はいはい」


 一匹だけ使役したゾンビくんは少し先を歩いている。

 二階と三階をつなぐ階段のシャッター前まで来た。

 このシャッターを閉めると三階の東側はゾンビがいない区画となる。

 そのに東端には図書室と技術室もあった。


「ゾンビくん。先導ありがとう」

「あ”~う”~」

「シャッターを下ろすから向こう側に行ってくれ」

「あ”~う”~」


 原田に頼んでシャッターを下ろしはじめる。

 ゾンビくんはシャッターの向こうにのろのろと歩いていった。

 シャッターが閉じられる。


「さ。敦子。もう歩けるだろ?」

「むーりー。図書室まで運んで」

「マジかよ……」


 伊藤と高瀬が笑った。

 軽く跳ねて敦子を背負い直す。

 胸の感触が結構ダイレクトに俺の背中に伝わってるけどいいんだろうか? 短パンだから思いっきり太ももをじかで触って抱えちゃってるし。

 そんなことを考えながら歩きだすと原田が言った。


「死霊術ってしょぼいんだな。俺なら火や水が出てくる魔法のほうがいいな。派手だしよ。実際そっちのほうが強いだろ」

「いや死霊術はある意味、最強の魔法職なんだ」


 俺は師匠から、そう教わっていて、今まさにそれを確認している。


「嘘つくなよ」

「嘘じゃない。現に地球の人類は滅びかけているだろ。どんな火魔法でも水魔法でもこれだけの被害を出すことはできないんだよ」

「あ……」


 全員がゾッとした顔をする。


「異世界なら聖女や僧侶が、神聖魔法という魔法を使えて対アンデッドの魂を天に召せるんだけど、それでもネクロマンサーはとても危険視されている」

「どうして?」

「戦場や人口密集地帯のゾンビは死体が死体を呼んで一瞬で広がってしうまう。高位のネクロマンサーはさらにそれを指揮できる。俺みたいに一人がせいぜいじゃない」


 原田の声が震えていた。


「ひょひょっとしてお前が地球をゾンビだらけにしたんじゃないだろうな?」

「な? するわけないだろ」

「だって地球をゾンビだらけにしたら、ネクロマンサーのお前は好き勝手出来るじゃないか!」

「!」


 言われてみて気がついた。確かに盲点だった。

 地球がゾンビだらけになる。それはネクロマンサーにとっては都合の良い王国を作れるといえなくもない。


「そんなことするか」


 そのせいでおじさん、おばさんも死んで、妹は危険な状態だ。

 親父の行方は知れない。

 初音は超初期とはいえ……ゾンビになってしまった。


「どうだか」


 原田の言葉に敦子が怒る。


「お前なら死霊術使えたらわかんないけど、アキラがそんなことするか!」


 持ちにくいし、人の背中で暴れないで欲しい。


「そ、そうは言うけどよ。それならどうして地球がゾンビだらけになったんだ?」


 そうなのだ。原田の言う通りだ。一体どうしてなのか?

 一応の回答はある。


「ゾンビは自然発生的にも生まれるんだ」

「は、はあ?」

「ゾンビはウィルスじゃない。一種の呪いなんだ。だから環境のひどい、もっと端的にいうと拷問がおこなわれるような収容所とか。そういうところなら自然発生的に生まれる可能性はある」


 だが、あくまで理論上なのだ。

 地球の人の歴史も長いのにゾンビが生まれたなどという話は創作以外で聞いたことが無い。

 というか異世界のネクロマンサーもそういった非人道的な実験をしてオリジナルゾンビを作るという。

 もし、自然発生的にゾンビが生まれたなら相当なことが起きていたことになる。


「本当かよ」

「ああ」


 今度は伊藤が聞いてきた。


「ね、ねえ? アキラくんの他に異世界からネクロマンサーが来たってことはないの?」

「実はそれも考えたんだ。でも異世界と地球は凄く離れていて召喚術も難しいらしいんだ」


 俺と初音は巻き込まれで、本来は清田だけが召喚できたらしい。

 俺を送り返すのはその際の座標を利用した。

 つまり王国が誇る召喚士を何人も使って、準備をしてやっと出来るかどうかなのだ。


「それに魔術は異世界で使ったほうが効果が大きいんだ。地球だと威力が小さくなってしまう。わざわざ高位のネクロマンサーは来たいと思うかな」


 それは人の心情としてしないのではないだろうか。

 地球でゾンビパニックが起きた、これだという原因はやはり無かった。


「あ~やっと図書室に着いたぜ」

「あーしを下ろすのは図書室に入ってからねっ」

「はいはい。原田、念のため中にゾンビが居ないか確認してくれ。居ないと思うけど」


 原田が文句を言いながら見に行く。


「居ないみたいだぞ」

「よし。入ろう」


 図書室に入って椅子に敦子をおろす。


「ふい~。重かった」

「ご苦労様」


 おろす瞬間、敦子が耳元で言った。


「あーしはアキラを信じてるよ」


 うちの高校の図書室には背もたれのないソファー席というかクッションのある長椅子もあった。

 高瀬が横になる。


「これ最高のベッドになるよー」


 伊藤は優等生だけあって本を物色していた。娯楽なんかなかっただろうしね。

 敦子は机に身を乗り上げていた。


「学習机を4つ並べてテーブルにしてもガタガタしてたから、ここで御飯食べれるのは最高だなあ」


 原田が言った。


「よーし次は購買部だ。購買部まで安全地帯を確保できれば、相当持つぜ。新品の体操着とかジャージも置いてあるしな」


 皆も嬉しそうに頷いている。


「あ、すまん。購買部は明日にしてくれないか。実は伊藤か高瀬か敦子に頼みたいことがあって」

「え?」


 三人がなんだろうと言う顔をする。

 俺は三人の誰かに妹を助けるために協力してもらおうと考えていた。

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