13 防災対策 イズ ゾンビ対策
問題は山積みだったが、とりあえず初音とご飯を食べることにした。
お茶で米を軽く研いで、貴重な水を米にひたす。
「(ひょっとしてご飯?)」
「そうだよ」
「(やったー! 嬉しい!)」
炊飯器でなくても上手く作れるだろうか。
飯ごうでご飯を炊いたことはある。
今は鍋で炊いてるけどこんな感じだと思う。
その間に鯖缶を缶からではなく紙の器に盛ることにした。
白いご飯が炊けたらきっと鯖缶のありがたみも倍増することになるだろう。
◆◆◆
「ご飯と鯖缶とインスタント味噌汁がこんなに美味しいとは」
「(本当……美味しかった)」
白いご飯は本当に久しぶりだ。
カセットコンロを手に入れたことで食事はかなり普通の生活に近いものができた。
さらにLEDランタンという電池式の非常灯も使ってみる。
「おお。さして蛍光灯と変わらん」
「(凄いね)」
「かなり普通の生活って感じだね」
「(うん。楽しいね)」
楽しいというのはちょっとアレだけどゾンビは思考低下とネクロマンサーには本当のことしか話せないしばりがある。
それに初音とこうやって身を寄せ合って少しづつ普通の生活を取り戻すのは確かに楽しくも感じる。
「(でも私臭くない……?)」
「ん? 超初期ゾンビで進行は止まってるから新陳代謝もしてるし大丈夫だよ」
「(そ、そうじゃなくて……お風呂入ってないから……)」
「あっ」
そういうことか。確かに地球に帰還してからお風呂に入れていない。
むしろこっちのほうが汗をかいている。
言われると気になってきた。
「(私アキラに嫌われたくな)」
「そんなことで嫌わないよ。俺だってお風呂入ってないし……お風呂か」
シャワーぐらいなら水があればできるかな。
ペットボトルの飲料水もかなり集めたが、これを使うのは妹やクラスメートのことを考えるとかなり気が引けた。
「水があればな」
ここは地方都市で川はかなり離れている。
「(水なら公園に行けばあるよ)」
「いや公園も水道だからさ」
「(使える水があるもん)」
「水道局がやられてるんだと思うよ」
「(ある~)」
初音は公園には使える水があると主張する。
水道局が電気がダメになって家庭だろうが公園だろうがダメだと思うけど。
でも初音は「ある」と主張している。
ひょっとしたらあるのかも。LEDランタンを手に取った。
「今から公園に行ってみようか?」
「(うん! 行こう!)」
外に出て二人で例の召喚公園を目指す。
「(アキラまたゾンビ~だよ~)」
「大丈夫。心配すんなって」
道路にゾンビがぬぼーっと立っていた。初音が抱きついてきた。
初音……お前もゾンビだぞ……。
幸か不幸か俺はネクロマンサー、初音はゾンビだから俺達は襲われない。
でも暗い中でのゾンビは結構気色悪い。
公園に着いた。
「(こっちこっち!)」
「転ぶなよ~」
そういや最近は公園にはそんなに来ていない。
初音はそうでもないのかもしれない。
「(これこれ!)」
「やっぱりタダの水道じゃんか。え?」
見ると普通の水道とは全く形が違う。
郵便ポストのような形に握れる棒が飛び出ている金属の物があった。
「この棒、ひょっとして給水ポンプなのか?」
「(押すと水が出てくるんだよ)」
説明があった。
――◯◯市◯◯公園防災用井戸 災害によって水道や電気が止まっても生活用水を得ることが出来ます。こちらの防災用井戸は飲料水としての安全基準も満たしています。
「やった! 初音! これでお風呂に入れるぞ!」
「(ホント!?)」
初音は昔から結構外で遊ぶのが好きだったからな。
知っていたんだろう。
「そのうちここにドラム缶のようなものを用意してドラム缶風呂なんかも作れるかもしれない。もちろん布で囲ってさ」
「(楽しみ!)」
「まあ今日のところはビニール袋にお湯を入れて穴をあけてシャワーを浴びようか」
「(うん。でもさ。お湯をたくさん作るのは大変だよね?)」
「え、うん。まあそうかな」
「(そしたら一緒に浴びよ)」
「ええ?」
初音は本当に知能低下しているのだろうか。
行政もなかなか良い仕事をする。
自治体によっては防災用井戸があります。
ゾンビ災害が起きた時のために場所を確認しておきましょう。