1 巻き込まれ転生でネクロマンサーでした
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「ねえアキラ」
下校中。
声をかけられて振り返ると天音初音がいた。
彼女は学年一の美少女と言わている。
幼馴染である僕ですらそう思う。
身長は高めでスタイルは抜群。
長い黒髪は艶やかで、人形のような顔立ちをしていた。
「前に相談してた、清田くんと私が遊ぶ約束、一緒に来てよ」
清田とはクラスメイトで、学年トップ10に入る成績の持ち主である。
イケメンだし、スポーツも万能。
いいやつではあると思う。
事実、クラスメイトからの信頼も厚い。
「えー……お前らのデートになんで僕が付いていかないといけないの?」
「デートじゃないっ、ただ遊ぶだけだよ! 場所も、アンタの好きなゲームセンターにしたから来てよ!」
「な、なんでそんなに怒ってるんだ?」
「怒ってなんかない! とにかく来て!」
「うー、仕方ないな」
初音の勢いに押され、要求を飲んだことが全ての始まりだった。
後日。
デート……じゃなかった、遊び自体はなんの問題もなく終わろうとしていた。
「楽しかった~。ねっ? アキラ、清田くん」
「あ、あぁ……」
清田のやつは明らかに微妙な返事をした。
そりゃそうだ。
ゲーム好きでもない清田との初デートにゲームセンターをチョイスしたのだ。
清田が楽しめるはずがない。
なぜ好意の対象である清田ではなく、僕が楽しめる場所を選んだろう。
僕をゲームセンターで釣らなければいけないほど、清田くんと二人きりが恥ずかしかったのだろうか?
「ここからは帰り道もバラバラになるし、解散しようか?」
僕が提案する。
清田の家は遠いが、僕と初音の家はすぐそこだ
ただ、方向的にはここから別れることになる。
小学生の時は遠回りして初音を送って帰ったりしたものだが、これからはその役目を清田が負うのかもしれないと考えると、ちょっぴり胸が痛かった。
「いや、もうちょっとだけ、そこの公園で話さないか?」
清田は公園で話そうと延長戦を提案した。
ゲーセンではうるさくてゆっくり話せなかっただろうからまあ当然か。
二人が僕の顔をチラッと見る。
ここを空気を読んで帰るのが得策だろう。
「明日の宿題をやってないから、僕はそろそろ帰るね」
二人きりにしてあげようとすると、
「えええ? アキラ、もうちょっといいじゃない。青春は短いよ?」
なぜか、初音が僕を引き止めた。
「いや、でも宿題が……」
「できなかったら私の写せばいいじゃん。ね?」
初音が僕の手を強く握る。
柔らかく、ひんやりとした手の感触に思わずどきっとする。
そんなに二人でいるのが恥ずかしいのだろうか。
清田が若干面白くない顔をしているが、初音の頼みなら仕方がない。
ゆるせ、清田よ。
「いいよ。じゃあ行こうか」
「うんっ!」
僕達は公園の敷地に足を踏み入れた。
すると、
「お、おい? 地面が光ってるぞ?」
「きゃっ。なにこれっ? どうなってるの!?」
突如として地面が光り、幾何学的な魔法陣が現れた。
これってラノベとかによくある召喚の魔法陣じゃないのか?
そう思った束の間、公園の景色がふっと消える。
次に目に入ってきた光景は、自分たちが今までいた公園ではなく、石造りの荘厳な広い空間と赤い絨毯。
そして、少し離れた一段高いところにいる法衣みたいな衣服を着たオジサン達と、美しい金髪の美少女だった。
◆◆◆
あの後、いろいろあって気づけば僕達は歓迎パーティーを受けていた。
豪華な服と冠をしたオジサンが言ったのだ。
「勇者様方ッ! 歓迎の宴をひらかせていただききます!」
と。
どうやらオジサンはイリースと呼ばれるこの国の王様のようで、金髪の美少女は王女だった。
給仕の女性から運ばれた食べ物や飲み物に口をつけている初音と清田は、ずっとわけがわからないという顔をしている。
その場の雰囲気に従ってなんとか愛想笑いで付き合っている様子だったが、ネット小説を読み込んでいる僕だけはなんとなく状況の予想がついていた。
王様の話を聞くと大方予想通りだった。
王様曰く、魔王が復活し、魔物を率いて人間を滅ぼそうとしている。
それによって多くの人が虐殺された。
王国の軍隊も奮闘むなしく壊滅。
すがる思いで召喚の儀式を敢行し、勇者の素質をある者を異世界、つまり日本から呼び寄せた。
やはり、ネット小説とかによくある展開だった。
「貴国をお救いすることはやぶさかではないのですが」
独善的な正義感を持つ清田は、もうその気になっている。
頭おかしいんじゃないかと思いつつも、黙っておく。
たぶん、純粋な正義感なんてほとんどなくて、現状に対する欠けた危機感と好奇心ゆえの発言だろう。
「俺なんかに、そんな力があるかどうか……」
しかし、その心配もすぐに払拭された。
王国の人間が言うには、日本からの召喚者は大概、強力な戦闘職を持っているらしい。
なんでもステータス鑑定の魔道具とやらで、僕達の適正のある職業を測ってくれた。
「なんと! キヨタ様は勇者ではないか!」
「おお! ハツネ様は賢者か!」
瞬間、嫌な予感が僕を貫いた。
これ、転移は転移でも巻き込まれ系なんじゃね、と。
「どれ……タナカ様の能力は……死霊術師!?」
今まで大はしゃぎしていた大臣達の顔が急に曇る。
ボソボソと相談する声が聞こえた。
「死霊術師……魔王軍の魔将ゴルベールが街の人間を丸々ゾンビにした時は苦労したな……」
「どうする? とち狂われたら……」
「カズキ様とハツネ様はありがたいが、アキラ様は……」
や、やばい。やっぱり巻き込まれ転生だ。
よくある放逐ならまだいいけど、最悪、消されるぞ。
「アキラ様。申し訳ないのですが、貴方は間違って召喚されたようです」
どうも敬語だし殺されるほうじゃなくて放逐のほうで済むかもしれない。
「一週間で逆召喚の魔力が溜まりますから、元いた世界に返しますよ。後はご随意に」
「へ? 帰してくれるんですか?」
ネット小説だと普通は放逐になるんだが……。
「そりゃ帰すに決まってるじゃないですか」
まあそうだよね。向こうが迷惑かけているのだから。
こうして僕は異世界に来て早々、ネクロマンサーにされた挙句、帰りのチケットが予約されてしまった。