第ニ話 スケルトンダンス
♦︎ダンジョン十階
ん? ここって十階だよな? なんか暗すぎてほとんど何にも見えない。けど、ここはジャングルってことぐらいは分かる。そして、木には見たこともない食べ物が……。
せめて九階から松明持ってきてたらなぁ。そもそもこのままじゃあ、何も見えない。その状態で歩くのは嫌だな。
あー、どうしよう? こりゃ参ったな。何にも思いつかない。この問題を解決する方法が…。
もう、いいや。何も見えなくても歩こう。落とし穴なんてものはないだろうし。でも一応ここに戻って来れるように所々に目印付けとこう。こんなジャングルで迷子になるのは嫌だし。
って、今頃思い出したけど、杖に火を点けたら松明になるんじゃね? そうだ、杖はこのためだったんだ。あとは火さえあれば……。
「ゲホッゲホッ」
なんか咳が勝手に…。
「ゲホッゲホッゲホッ」
やっぱりなんかおかしい。もしかして…煙? そして奥の方に火が⁉︎ まさかの火事発生?
これは杖を松明に変身させるチャンスだ。
そして、俺は奥の方に進み、杖に火を点けようらとしたら、誰かが倒れていたってことに気付いた。しかも美少女だ。
西洋の人か? 金髪で髪がサラサラして、そして雪のような白い肌。あまりもの美少女っぷりで見とれてしまうほどだ。自然に守ってあげたくなるような…。よしっ、この人を助けよう!
この周辺は炎が広がっている。一刻も早くここから逃げなければならない。だから、俺は彼女を持ち上げておんぶした。
うぉっ、かなり軽い。
この重さなら俺みたいに力がそれほど無くても大丈夫だ。
これってもしかして結構いい感じじゃね? だって、女子をおんぶする機会ってなかなかないし。それに、そういうことするのって付き合ったりしてる人がするもんだろ? 俺の勝手な考えだけど。
そんなことを考えながらそのまま数分歩き続けた。すると、いつの間か彼女は起きていた。
「wha……what are you trying to do with me? Put me down!(わ…私に何をしようとしてるの? 降ろして!」
彼女が俺の肩をいきなりトントンと叩き出した。意外と力が強くて痛い。とりあえず降ろしておこう。
それにしても英語で喋るのか…。俺は海外のゲームやりまくってたから多少は話せる。ここで、少し俺の英語力を披露してやろうか。
「Okay. But don't get this wrong. I just helped you from the furiously fire burning.(分かった。けど、何も悪いことをするつもりはない。ただ、お前を燃え盛る炎から助けただけだ)」
俺は彼女を降ろすと、すぐどこかに逃げていった。
ウソっ…こんなのウソだ……。俺がせっかく美少女と仲良くなれるチャンスだったのに……。ここは暗いからもう見つけられそうにない。
そう思っていたが、それは杞憂にすぎなかった。
程なくしてこの近くで叫び声が聞こえたからだ。
「Kyaa!(キャッ!)」
「ボンッ」
「Ahhhhhhhhhhhhh!(ギャァァァァァァァァ!)」
奥の方で一瞬、炎が見えた。
よく見るとスケルトンが燃えてるー⁉︎
スケルトンが暴れてる。暴れてるけどダンスしてるようにしか見えない。不思議と怖くはなく、なんていうかシュールすぎる光景。物凄く笑いたくなるレベル。笑っていいのかな。
いや、待てよ。あそこにいるのがあの美少女の可能性が高い。今あっちに行って信頼を得るべきだ。そうすれば仲間になってくれるかも。そうしよう!
俺は凄い勢いで燃えてるスケルトンの方に向かった。
そこに彼女はいた。そしてこっちを見ている。
「what are you doing here?(ここで何してるの?)」
「I came here just because I saw something on fire.(ここに来た理由はただ、何か燃えてるのが見えたから)」
「Now you saw what was on fire so leave me alone. (何が燃えたか見たのなら一人にして)」
「Hold on!
You don't have anything that can be useful.
So I'd like to make a suggestion.
How about to be my partner instead of something that you will need.(待て! 君は何も役立ちそうなものは何ひとつ持っていない。そこで提案がある。君が必要になる何かの代わりに俺のパートナーになるのはどう?」
それを聞いて彼女はムスッとした顔をした。
「Then do you have a torch?(それなら松明持ってるの?)」
「Of course. Look!(もちろん。見て!)」
俺はまだ燃え続けるスケルトンに近づき、手に持っていた杖に火を点けた。
「Tadaaa! Now,it's a torch.(じゃじゃーん!松明の完成)」
彼女は呆れた顔で俺を見た。やっぱすべったか?
「But I have a question. Why the skeleton is on fire?(けど質問がある。何故スケルトンが燃えてる?)」
「Because I used a magic.(魔法を使ったから)」
「Magic⁉︎(魔法⁉︎)」
ん?
この人、魔法って言ったか?
「Yes.I can use magic but I can't control well.(そう、魔法が使えるけど上手くコントロールは出来ないの)」
彼女は続けた。
「That's why I don't wanna use the magic as light so I'll be your partner from now on.(だから私は魔法を光の代わりに使いたくないの。っていうことでこれから私はあんたのパートナーになる)」
彼女はニヤニヤして言った。
「I'll introduce my self,but not here because the skeleton looks like he wanna dance alone.(でも、ここではしない。だってあのスケルトン一人で踊りたそうだから)」
この人Sっ気強いな。放置プレイとか。
こうして、俺らは仲間になり、今もなお燃え続けるスケルトンを放置状態にした。
で、結局ついてくんのかいっ! って思わずツッコミしてしまいそうだな。
俺らはさっきの場所から少し離れた所で自己紹介し始めた。
「My name is Lilia. I'm 17 years old. Nice to meet you.(私の名前はリリア。17歳です。宜しく)」
次は俺の番か…。何を言おうかな…。彼女みたいにシンプルでいいや。
「My name is Kota. I'm 16 years old. Nice to meet you too.(俺の名前は航太。16歳。よろしく)」
「As expected. Your Japanese, right?
I was thinking about that until now.(予想通り。あなたは日本人でしょ?ずっとそんなことを思ってたの)」
リリアはそのまま続けた。
「You can speak in Japanese if you want. Because I was living in Japan for a long time,so I can speak Japanese.(日本語で話してもいいわよ。だって私は長い間、日本に住んでたから日本語が話せるの)」
なんだ…日本語話せたのか…。でも良かった。さすがの俺でもずっと英語で話せるわけじゃなかったから助かった。
なら、突然日本語で話しても問題ないってことだろ?
「じゃあ、どのぐらい日本語話せる?」
リリアの返事は即答だった。
「普通の日本人と同じぐらい話せるの」
それなら尚更安心できる。簡単な言葉を選んで話さなくてもいいのか。
「それは凄いな。じゃあ、そろそろ次の階へ続く階段を探そうか」
「ちょっと、軽く流さないでくれる?」
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急にリリアがモジモジし始めた。
「どうした? なんかずっとモジモジしてるけど」
と訊いたけど答えようとしない。
何があるんだろう。
そして、リリアは小さな声で赤面になりながら呟いた。
「トイレ……行きたい」
あー、トイレか。それでずっとモジモジしてたのか。
でもこの階ではトイレなんか見当たらなかった。
そりゃあ当たり前か。こんなジャングルにトイレなんてあるわけないからな。
で、トイレがある場所と言えば……九階か。
でもトロールが……。まぁ、トロールぐらいなら彼女に任せておけば大丈夫か。
「なら、九階に行くぞ!」
「いや、いいよ、ついて来なくても。私一人で大丈夫よ。その間だけ松明貸して」
「い〜や、俺も一緒に行く。何かあったら心配だから」
彼女はまたムスッとした顔をした。
「なんであんたなんかに心配される必要があるの?」
「だって…九階にトロールがいたから。だから一応…」
「大丈夫だから。九階にトロールがいるから心配してるんでしょ? あのトロールは死んでるはず」
「でも、俺がここに来るときに見たトロールは生きてた。だから……」
「あんなトロールは一瞬で倒せるの」
「なら、もしも九階に出現するトロールが突然変異で強くなっても倒せる?」
「も〜、あんたってどれだけしつこいの? そこまでいうなら一緒に来てもいいわよ」
その後、しばらく歩いた頃リリアは何かを思い出し
たようだった。
「そういえば、あんたはトロールについて話してたわよね。私はトロールの弱点を知っているの」
「トロールの弱点を⁉︎」
「そう、トロールの弱点はズバリ……髪の毛なの。なぜって思ったでしょ。理由はトロールと戦ったとき、適当に炎を当てたら、たまたまトロールの髪の毛が燃えちゃって…そのまま禿げちゃったの。
そして、トロールが自分の頭を触ったとき、ちょうど気を失っていたわ。というより、髪の毛が無くなったことによるショック死だと思うの。さっきトロールが生きていたって言ってたよね。でもそのトロールには髪の毛があったでしょ?」
「まぁ、そうだけど…」
「なら、あのときトロールがショック死してたと思うの。それなら別のトロールがリスポーンされていたとしたら辻褄が合うでしょ」
「うん、そうだな。って今思えばなんでトロールとかそういうモンスターの名前知ってるんだ? お前ももしかしてゲーム好きなのか?」
「そうよ、悪い?」
「いや、別に」
「ならいいわ。まぁ、そういうことがあったからトロールの弱点は髪の毛だと思う。つまり、髪の毛さえ燃やしちゃえば一瞬で倒せるっていうことなの」
「でも俺はトロールの弱点が髪の毛だとは思わない。だって、たまたまあのトロールが髪の毛を大事にしていて、燃やされちゃったからショック死したっていうだけで他の奴らも一緒だとは信じ難い」
「それなら試してみるに越したことはないわね。早く行きましょう」
コイツってちょっと馬鹿なのか? 髪の毛がトロールの弱点って本気で信じちゃってるし。可愛いけど…。可愛ければいっか!
よしっ、これで彼女と離れることはしばらくはないだろう。
早速俺らは九階に戻ることにした。それにしても九階までの階段に辿り着けるように所々に目印置いといて良かった。
♦︎ダンジョン九階
俺らが階段を下りると、すぐさまトロールが現れた。突然変異とかでいきなり強くなったりしてないよな?
まぁ、見た目が変わってないからそういうのはなさそうだ。問題はトロールの弱点だ。もし、トロールの弱点が髪の毛だったとしたら何らかの方法で守ってくるはずだ。
「さぁ、倒すわよ。えいっ!」
いきなり攻撃しちゃうの⁉︎
トロールの髪の毛が燃えだした。
えっ⁉︎
弱点への守り弱すぎだろ。というよりそもそも髪の毛を守ろうともしかったけど。本当に髪の毛が弱点なのか?
トロールは自分の頭を手で押さえ、炎を消した。そのときだった。
「ガァァァァァァ、ァァァァァ!」
「ドスン!」
トロールが勢い良く倒れた。
「マジかよ。さっき言ってたのと同じ行動パターンじゃんか!」
「ほらっ、言った通りでしょ。トロールが『髪がぁぁぁ、髪がぁぁぁ』って言ったでしょ?」
「トロールは倒れたけどそんなことは言ってなかったような…」
「そうね……あんたにはまだこのことについて話してなかったわよね。でも、それは後で話すことにするわ」
そういって彼女は急いでトイレに行った。
あー、ずっと我慢してたからな。先にトイレに行きたくなったのは分かる。でも、凄く気になる。何を言いたかったのかが。
それにしてもトイレ…トイレって……
ヤベっ! 完全に忘れてた。このダンジョンのトイレはまともじゃないの忘れてた。変態ドMスライムに変なオッサン、もしかしたらトイレの中に何かいるかもしれない。
俺はすぐトイレの扉の前まで行って訊いた。
「おい、大丈夫か? ここのダンジョン普通のトイレじゃないぞ!」
すぐリリアが出てきた。
「何が普通じゃないの? 特に変わった点はなかったわ」
それなら、あの変態ドMスライムが天井の上にいるかも?
そう思い、俺はすぐトイレの中に入った。
そして、予想通りスライムは天井に張り付いていてニヤニヤしていた。
「スライムのくせに何を勝手に人がトイレ中のときに覗いてたんだ! あー、許せない、許せない、許せない、許せない。
掛かって来いやー。スライムめ!」
リリアがトイレの中に入って来た。
「何一人で喋ってるの? それになんでスライムなんか……キャーーー」
そして、炎を何発もスライムに撃ち込んでいた。
「グニョッキー、グニョッキー」
スライムは最後にそう言って少しずつ透明になっていき、やがて消えた。
何変態ドMスライムのくせに綺麗に消えてんだ。この野郎!
こうしてスライムが消えた一方、俺の方には憎しみだけが残った。
そして、俺らは十階へと戻った。