「憧れの世界」
この世に生を受けたときから俺と彼女はいつも一緒にいる。
彼女だけでは無い。
他にも大勢の老若男女と伴に数年間過ごしてきた。
僕たちが住んでいる環境は良くも悪くも無い。
僕たちの命を脅かす脅威も無いし、自分達で食料を探す必要も無い。
何故なら、屋根と柵で囲まれた空間で生活しており、そして、食料が底を尽くと不思議と勝手に補充されるから。
しかし、生まれた時から此処で生活をしているので、外の世界に憧れを持っている。
時折、柵の周りにある壁の一部が開く。
僕は、扉の先にある光景を毎回しっかりと目に焼き付けている。
いつか自分も、地面が緑で覆われている世界に飛び出してみたい。
だが、此処から出られない訳では無い。
この空間から出る機会は月に一度ある。
毎月、無造作に選ばれた数名が此処からあの世界に出て行っているから。
しかし、選ばれた者はここには帰ってこない。
こんな環境よりあっちの世界の方が楽しいのだろう。
そんなことを考えながら数ヶ月程度過ごしていると遂に自分の番がやって来た。
皆が寝静まった頃に、幼馴染みの彼女が僕の元にやって来た。
「ねえ、私達また何処かで逢えるよね?」
「ああ、あっちの世界で待ってる」
その言葉を最後に僕は長年過ごして来た場所を後にした。