作者の視線
本を読むと、そこには大概物語を進めている視点がある。それは、主人公の視点だったり、全知全能の視点だったりする。
図書室の片隅で物語を書き始めて、かなりの時間がたった。読み返してみると、そこには一つの世界で、一人の主人公の織りなす一つの物語があった。だが、物語の主人公の他に、彼等を二、三歩後ろから眺める『作者』の視点がそこには存在し続けているのがわかる。
彼女は、物語の登場人物の誰かに心を預けつつ、しかしその誰かに染まりすぎず、そこにいた。そこで、彼等の物語を描きながら彼等の前に姿を現し、時に手を貸し、時に事態を引っ掻き回して。
彼女は、物語に登場しても主人公たりえず、また神になることもなかった。
ただ彼女は、彼女の思想を世界に反映させつつ、誰かに寄り添いながら物語を描くのみであった。