愚者の雫
とあるオークション会場。そこは、非合法、非合理、非売品、非現実といわれる曰く付きのあらゆるものが売られる。そこには、生物、非生物も関係ない。
今日も、各界の大物たちが揃い踏み。その誰もが、決して外向きでは出さないどす黒いオーラを放ち、人の目を気にせず悪い笑みを浮かべ、上品さの仮面を投げ捨てて下衆な目で、出品物たちを審美する。
そんなオークション会場。今日は特別な日だった。そのオークションのトリを飾ったのは、そこの支配人。
彼はこの日のためにこの闇オークションを創り上げたのだ。彼が出した品。それは、灰色に淀んだ色の液体だった。彼は言う。
「これは、貴方様を愚者に変える薬です。いつも通り。仔細変わりありません。この品の効用、保証致しましょう。」
このオークション会場では、一切の嘘偽りはない。出品者落札者共に。必ず代金は何だかの形で支払われ、必ず出品物の効用は真実なのである。
それを保障するのは、この闇オークション会場で働く、あらゆる分野の一流の審美眼を持つ人々と、取引の嘘を生じさせることを防ぐだけの武力として用意された人々であったが、今回の話ではスポットを浴びることはない。
あくまで、今回スポットを浴びるのは、この出品物、愚者の雫なのだから。
出品物の個数は一つ。使用できる人数は一人。持続時間は永続。値段は無い。オークションでありながら値段がない。ここではそういうことが稀によくあった。
値段がつけられない物というものが世の中には存在する。そういったものを誰かに譲りたい場合もこのオークションは使われるのだ。今回もそれに相当した。
「この品には値段はありません。手を挙げ、何故これが欲しいか、その思いの丈を私にぶつけてください。最も私の心に響いた思いを持つ人にこれを譲りましょう。」
オーナーがそう述べると、熱狂が会場内を充満した。狂気のような、凶器のような熱気。悪酔い。そんな淀んだ空気が漂う。
「ただし、この品を譲るにあたって、特記条件があります。それは、この品を譲られた貴方自身に服用の対象を限定すること。そして、これを使用する場に、私を立ち合わせることです。さらに、それから後、私が望むままに経過を観察させてもらうことです。ふふ、あまり軽々しく、欲しいと言わないようにお気をつけください。」
一部の不届き者たちが汗を掻く。
「取り返しがつかなくなろうとも、必ず、使ってもらいますからね、譲った暁には。キャンセルなんてものはこのオークションでは存在しないのですから。あははははははは、ふあはははは!」
だが、最後のオーナーの嗤い声とともに、狂気が会場を充満するのだった。
どのような強く歪んだ思いを持った物にこの品が渡り、どのようにその者の人生が、運命が捻じ曲げられることになるのか。オーナーは、そんな愉悦を心に抱き、オークション開始の鈴を振りかざした。
気が向くか、もしくは評判よかったら、そのうち続き書こうと思います。