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最近、うちの執事様の様子がおかしいです。  作者: 芍薬
執事様と、婚活宣言
8/18

執事様、肉が食べたいです。

「……私も婚活しようかなぁ」


 仕事中に思わずぽつりと呟いた私の声を拾ったハーシーが変な顔をしました。


「どうしたんですかぁ? シエルまで頭沸いちゃったんですか」

「ハーシー、ひどい」


 あんまりな言われようです。私もいい年だから、結婚相手を探そうかなぁなんて思っただけなのに。

 憮然としながら仕事をしていると、ハーシーが雑巾がけをしながら隣に寄って来ます。


「奥様にお見合い設定してもらったんですよね」

「……私がお願いしたような言い方はやめてください」


 そうなんですよね。奥様おすすめの商家の長男坊とやらと、いつの間にかお見合いが設定されていました。

 笑顔全開の奥様に「今度の休みは開けておくのよ!」と押しきられてしまった形です。

 正直、あんまり気は乗りませんが、奥様の顔を立てる意味でも一度は会わないといけないみたいです。


「まあ、シエルにはユーリウス様がいますからね」

「何の話?」


 私は次の休みのことで頭が痛いです。

 頭を抱えていると、廊下の向こうから執事様がやって来ました。


「あ、ユーリウス様」

「シエル」


 こちらに気がついて足を止めた執事様に、ハーシーが声をかけます。

 執事様は今日も通常営業です。隙のない制服姿は見慣れているので落ち着きますね。


「シエルったら、お見合いのことで頭がいっぱいなんですよぉ」

「見合い?」


 片眉を上げた執事様に、ハーシーがペラペラと事情を語って聞かせます。余計なことを……。


「シエル、何故浮かない表情をしているんですか」

「お見合いに乗り気じゃないみたいです。婚活するって言ってたのにねぇ」

「ハーシー」


 咎めると、何が悪いんですかという顔をされました。

 私はしようかなって言っただけじゃないですか。話が大きくなってます!


「……それはそうと、シエル。今夜時間はありますか」

「今夜ですか?」


 明日も仕事ですし、特に予定はありませんが。

 何か特別な仕事でもあるのでしょうか。

 首を傾げると、執事様は真顔で提案してきました。


「先日のお礼に、食事でもいかがですか」

「先日?」


 何かお礼をされるようなことをしたでしょうか。

 暫し考え、例の買い物の時のことだと気づきました。

 お礼と言われても、お(ケーキ)を既にご馳走してもらっていますし、特に必要がない気がしますが……。


 きょとんとしていると、ハーシーに背中を叩かれました。ちょ、雑巾を持っていた手ですよね?


「ご馳走してくれるんだから、行ってきたらぁ? ユーリウス様、美味しいものを食べさせてくれるんでしょう?」

「町で最近流行しているという、肉料理の店を予約しました」


 ハーシーの瞳がキラリと輝きます。私も驚きました。それって確か、予約一ヶ月待ちとかじゃありませんでしたっけ。食べに行った友達が、すごく美味しいって言ってました。

 その話を聞いて、羨ましく思ったことを覚えています。

 どれだけ美味しいのか気になりますね……。


 そこまで考えてはっと我に返ります。

 執事様の様子を窺いますが、いつも通り、特に表情は変わっていません。


「少し高すぎませんか」


 確か、噂のお店はお値段の方も素晴らしいと聞いています。

 それもあって、行きたいねという話止まりだったわけですから。


 後ろからハーシーに袖を引かれました。

 少し離れたところに引っ張っていかれ、執事様に背を向けて、こそこそと囁かれます。


「行ってきたらいいじゃないですか。予約までしてくれてるんですよ」

「うーん……」

「考えて見てください。あのユーリウス様が、わざわざご馳走してくれるって言ってるんですよぉ? 素直にご馳走になったらいいじゃないですか」 


 ハーシー、目の色が変わってますよ。そのお店、行きたいって言ってましたもんね。


 そういえば、執事様は奥様に女性を紹介してもらったんですよね。その女性とは行かないんですね。

 そう思って少し(いら)っとしました。

 もう婚活のお手伝いは要りませんよね。


「分かりました。行きます」

「では仕事終わりに、前と同じ場所で」


 事務的に時間を決めた執事様は、さっさと歩き去っていきます。

 その背中を微妙な思いで見送っていると、ハーシーがじっとこちらを見ていることに気がつきました。


「ねぇシエル」

「なんですか」

「本当に、お見合い受けちゃっていいんですか」

「どうしたんですか、急に」


 さっきまで面白がっていたくせに、へんな人ですね。

 もういいんですよ、別に。会うだけですから。


「……これは、ユーリウス様も大変だわ」

「何か言いました?」

「何でもないですー」


 変なハーシー。執事様に続いて、貴方までおかしくなっちゃったわけじゃないですよね?

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