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最近、うちの執事様の様子がおかしいです。  作者: 芍薬
執事様と、婚活宣言
6/18

執事様、これはどういうことですか?

 執事様と買い物に行った翌日、応接間の掃除をしていると、ハーシーが「それで、昨日はどうなったんですかぁ?」と聞いてきました。

 元々彼女のアドバイスでしたからね。

 そう思って昨日の流れを話して聞かせます。

 話を聞いたハーシーが目を丸くしました。


「それって普通にデートじゃないですかぁ」

「そうですか?」

「どう考えても、そうですよぉ」


 冷静に突っ込まれ、私は昨日の自分の行動を辿りました。


 1、執事様の服を選んであげる。

 2、ケーキ屋でお茶。

 3、雑貨屋で買い物。


 ……うん、普通にデートですね。ちょっと助言をっていう域は越えてますね。


「あーんとか、今時恋人でもしませんよぉ」

「あ、あーん? いや、あれは味見だから普通に皆さんやりますよね」


 いやいやと首を振り、私は自分に言い聞かせます。

 別に疚しい気持ちはありませんよ。相手はあの執事様ですしね。

 結局、彼は外出中に、にこりともしませんでしたし。まあ、拗ねたりむくれたりはしていましたが。

 普段、冷ややかな無表情くらいしか見せないので、珍しいことは確かですが。


 悶々と考えながら拭き掃除をしていると、ハーシーが壁掛け時計を見上げました。


「シエル、奥様に呼ばれてるんじゃないですかぁ?」

「そうでした。ハーシー、ここの掃除もお願いします!」


 そういえば、今日はお昼前に顔を出すように奥様に言われていたのでした。

 時刻は昼食時間の半刻前。いい頃合いです。

 奥様の私室に伺うと、すぐに通されました。

 奥さまはほんわか笑顔の素敵なご婦人で、屋敷の皆さんに愛されています。


「まあシエル。よく来てくれたわね」


 ニコニコと私を出迎えてくれた奥様は、ソファーを勧めてくれました。ありがたく腰を下ろすと、タイミングよくお茶が運ばれてきます。

 給仕をしてくれたのは侍女の先輩でした。

 手際のよさに惚れ惚れします。こんな風になりたいものです。


「シエル、貴方はいくつになったのかしら」

「18歳です」

「そう、そろそろ結婚とか考えてるの」


 お茶を噴き出しそうになりました。

 何でしょうね、最近こんなことばかりしている気がします。


「いえ、お相手もいないですから……」

「そう! じゃあよかったわ」


 パッと顔を輝かせた奥様が、私の手を握ってきました。

 よくも悪くも従業員と距離の近いお家柄なのですが、それでもこれはやりすぎだと思います。

 困っていると、奥様がにっこりと微笑みました。


「あのね、私を知り合いから、よい娘さんはいないかしらと聞かれていたの。裕福な商家の長男なんですけど、適齢期のお嬢さんとご縁がなくて、独り身なんですって」

「あの、奥様……」


 私は直前の自分の台詞を後悔しました。お相手がいないからって、いたらすぐにも結婚するみたいじゃないですか。


「ちょうど貴方と同じ年齢だし、いいお話だと思うの」


 キラキラした目で見つめられて、私はうっと言葉につまりました。

 私が承諾すると、信じて疑っていない顔です。

 奥様には十年お世話になった恩がありますし、すぐには断りづらいです。


「……考えさせてもらってもいいですか?」

「どうぞ。早いうちに答えを教えてね」

「あのぅ、奥様」

「なぁに」

「そういうお話は、私じゃなくて執事様にしてあげてください」

「ユーリウスに?」

「婚活してるそうですから」


 親切心で執事様を名前を挙げると、奥様は意外そうな顔で瞬きました。


「ユーリウスにはもう勧めたわ」

「えっ」


 よく考えたら、執事様は私より年上です。

 こうやってお見合いを設定するのが好きな奥様が、目をつけないはずがありません。


「知り合いの娘さんでね、ユーリウスのことが気に入ったという方がいたから紹介したわ」

「そ、そうなんですか」


 聞いてません。いや、そんな話を聞くほど親しくもないですけど。

 なんだか釈然としない気持ちです。

 奥様の紹介なら身許もしっかりしていますし、執事様のことを気に入っているなんて奇特な方がいるんですね。


 印象的な藍色の瞳が脳裏を(よぎ)ったので、振り払うために私は小さく首を振りました。


 ……執事様、もう婚活なんて必要がないじゃないですか。

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