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最近、うちの執事様の様子がおかしいです。  作者: 芍薬
執事様と、婚活宣言
5/18

執事様、笑ってしまいそうです。

 私は今、すごく後悔しています。

 なんで映写機(カメラ)を持ってこなかったんだろうと。


 向かいの席には執事様。

 器に合わせて長めのスプーンを手に、テーブルの上を眺めています。

 その絵面(エヅラ)がなんとも可笑しいのです。

 クリームと果物が盛り盛りのパフェと無表情な執事様。

 うちの従業員一同、爆笑ものの光景ですよ。


 服屋を出た私たちは、お茶をするためにケーキ屋に入りました。

 ケーキ屋でお茶というのが珍しいらしく、戸惑っている執事様のために、一番人気という商品を注文したのですが。


 向かいの席なので、お互いの表情がよく分かります。

 私は気合いで笑いをお腹に収めます。

 笑ってなんかない……ですよ。


「何がおかしいんです」


 言われた瞬間、ぶはっと噴いてしまいました。

 だって、そのぶすくれた顔!

 執事様でもそんな顔をするんですね。

 大笑いしたい衝動をこらえていると、むすっとした執事様がクリームにさっくりとスプーンを立てました。


「はい」


 スプーンを差し出されたので、その手の主を見上げます。

 憮然とした表情で差し出されたそれは、もしかしてくれるってことですか?


「くれるんですか」


 問いかけると更に差し出されたので、ぱくりとくわえると、もう一口差し出されます。今度は果物でした。


「お返しです」


 私は目の前のケーキを一口差し出しました。

 執事様は僅かに眉を寄せ、躊躇うような間の後に口を開きます。

 素直に咀嚼している様子を微笑ましく眺めました。


「ユーリ、この調子です。この調子でいけば、きっとお姉さん方もめろめろのモテ男に」

「だから、モテは必要ないと言っているでしょう」


 婚活なんだから、多少のモテは必要だと思いますよ。

 唯一の人に振り向いてもらえるだけの甲斐性は必要ですよね。


「そういえば、ユーリは甘いものが平気なんですね。男性だと苦手な人も多いですよね」

「嫌いではないですね」


 私はまたしても笑いを噛み殺しました。

 そんなことを言って、結構食べる速度が速いですよ。

 好きなんですね。少し意外ですけど、いいと思いますよ。


 お互いに食べ終えて、食後のコーヒーを頼みます。

 私がミルクのみにした向かいで、執事様はミルクを倍と砂糖も頼みました。

 本当に甘党なんですね。コーヒーに砂糖なんて邪道だと言い出しそうな顔をしてるのに。

 目が合うと、執事様は心なしかむすっとしていました。


「何か」

「い、いえ何も」


 笑ったらきっと彼は頑なになるでしょう。

 ここは私が大人になって知らんぷりしてあげましょう。


 食後のコーヒーをのんびり楽しんだ後、私たちは店を出ました。

 腹ごなしに少し歩くことにします。

 特に会話もなくぶらぶらと歩いていると、唐突に執事様が「シエル」と呼びました。


「はい」

「退屈ですか」


 思わず立ち止まると、数歩先で執事様も立ち止まりました。

 こちらを振り返った執事様は、静かな表情をしていました。

 暫し見つめ合います。


 不意に、ぽつりと。胸に落ちてきた答えに納得しました。

 この人は、自信がないんですね。

 仕事の時はあんなに自信満々なのに。


 藍色の凪いだ瞳が、私を見ています。

 私は嘆息して執事様に歩み寄りました。

 制服(せんとうふく)がない執事様は、なんだか少し頼りなげに見えました。


「怒らないでくださいね」


 手をのばして、執事様の髪に触れます。

 きっちり整えられた髪は硬く、微かに整髪料の匂いがしました。

 指を立ててがしがしと掻き回します。

 いい感じにぐしゃぐしゃになりました。


「笑わせてもらいましたから」


 別に退屈じゃないですよと私が笑うと、執事様は微妙な顔をしました。

 ぐしゃぐしゃの髪に触れ、更に微妙な顔になります。


「……そうですか」

「大丈夫ですよ。ちゃんと女性にモテるようにしますから」

「だから、モテは必要ないと」


 はいはい、そうですねと茶化すとむすっとする執事様。

 大人げないですよ、執事様。

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