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非常勤講師の体温






 この世に父親という名のゲームが存在するかぎり、その気になれないことがたくさんある。

 男性の行動の多くに、なぜこうも価値のない体温しか、誤解を恐れずにいうなら非常勤講師の体温としかじぶんには見えないのだが、どうしてこういう感じ方なのか、私じしん、ずっと分からないでいる。



 そういう話を、以前夜に会っていた時に女友達にしたことがある。

 すると彼女も打ち明け話を私にしてくれたのだった。



 そんな波はここまでは来ないからといって、彼女の父親が一度きりのその笑顔を向けてくれた、あの日には永遠に戻ることはないけれども、どうしようもく大切な記憶だということ。居なくなる気満々の、男性たち。その特有のやり口を、もう見たくはないけれど、恐れることのマイナス面を、特に近頃は、やはり彼女も痛感してきているということ。



 グラスの縁を噛みながら私が挙げていく。

「非常勤講師の体温で、公式の解説。非常勤講師の体温で、夏の星座の解説。非常勤講師の体温で、おまけに間違えて、いいこいいこをしてしまったりしてくれるの」



 彼女は弱く笑って、こういった。

 男性たちのやること、体温を、非常勤講師の体温を前にして、なんにも考えず、じっとして、じぶんのままでいることがね、しんどいことだね。



 しばしの沈黙。

 そしてあの晩の彼女はようやくいった。

「全ては背中だよ」









 あの手紙を美しく読めるような俺が存在するのなら。

 何だってやるさ。

 やってやるさ。

 お前のお父さんは躊躇わないんだ。

 何もかも失ってみせる。



 彼女のお父さんの背中は、そう語っていたのだ。

 彼女のお父さんの背中は、その階段を上がっていってそれきり、もう二度と彼女の視界に入ってくることはなかった。










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