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ベッドの上と下






 二階建てのそのアパートは古く、川の近くにあり、不細工な猫たちが周辺をうろついた。住んでいるのは独身男、あるいは老いて独り身となった女かのどちらかだ。夕方にバイクの音がすると、いつも同じ猫が甘えた声で鳴き続ける。猫たちは、一階の住人である男から刺身や魚肉ソーセージを貰ったり、大学生ふうの男が連れ込む女子学生たちからサンドイッチを貰ったりする。窓から外の様子を老いた女がじっと見つめる。夜勤の三十代男性は、休みの深夜に目が醒めてしまうらしく、コーヒーを作り、凄まじい屁の音で薄い壁の向こうで眠っている二十代の男の眠りを破る。十二月になってもアパートには蚊が入ってくる。二階の住人は若者が多く、カードゲームに興じて真夜中まで笑い声が響いていたりするので階下の朝の早い掃除婦は天井を見上げ続ける。男性の住人同士の間には挨拶はない。しかしごみ出しの時に近隣の子持ち女たちとはどの住人も挨拶を怠らない。軋む床。老いた独身女が朝と夜に換気扇を回していると、胸の悪くなるようなにおいが漂ってくるので、夏場でも両隣の住人は完全に窓を閉めていなくてはならない。どのドアも、どの窓も乱暴に音を立てて閉められた。面妖な顔をした猫の歩行。目を合わせるのは猫たちにとって合図である。階段下の暗がりに、誰かがいらなくなったのか、雑誌を放置し、雨の後で膨張し小山のようになる。バイク乗りの男たちは缶やペットボトルを部屋の外、窓の下に並べている。住人の誰もが、玄関ドアに手をかける時には外の気配を窺い、鉢合わせることのないように気をつける。陽当たりは良好だ。昼間は猫も住人もどこかに行っていて静かだ。近所の小学生たちがはしゃいで敷地の中に入り込んできたりもするが、滅多に住人たちと遭遇せずに済む。その古アパートに入り浸る猫たちにとって、コンビニのビニール袋のサラサラいう音を伴わない人間の足音、子どもの足音は、脅威以外の何物でもなかった。








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