青いほうがいい
彼は彼女の耳に顔を寄せていう、俺以外の全ぶに耳を貸さないでほしい。
いつかこういうことが始まる少し前のこと、彼の描きかけの風景画にそっと彼女は近づきながら彼本人が用を足しにいっていて窓のないその部屋のどこにもいないのを見回した。それから彼女は目を細めた。
あと少し、青いほうがいい。
青いほうがいい、そう口を揃えて連中がいうからそのほうがよくなった空。
青いほうがいい、そういわれれば美しく見えることもない瞳。
真夜中まで目を開けている二人の為に、青いほうのローソンで、同じドーナツを買う。青いほうの信号を、青いほうの二人で、青いほうの笑い声で、青いほうの歩き方で渡り終える。
本当は、青いほうがいいという声さえなければ。
なぜならば青いほうがいいとは、この二人はいったことはない、彼らは、彼らの場合は、本当のところはこうだ、青いほうがいいそれは青いほうがいいのが大多数で価値のある当たり前にそれは価値を持っていたから流されていただけに過ぎなかった、似合うと思えば似合うのだ、そうやって二人でいられるのが少し楽になればと考えた二人たちが無数に存在してきた、しかしそういう二人だからだったという理由ではない、彼らの場合は違う。
本当は、ひそかに、楽をしたいと考えるよりも二人を楽しみたいと二人のどちらも思っていた、そんな彼らだった。
もっと、もっと青いほうがいい、とアドバイスを食らう少女漫画。
青いほうがいい、と近頃駄々ばかりの長女に負け母親たちが買ってくるカーテン。
分かっていることはひとつだけ。青も夏も完成など二人は待ってやしないんだってこと。いい間違いも聞き間違いも、二人だけの青と夏なら特にそう。無数のキスがあった、仲直りのキスあかずのふみきりでのキス思いやりのキス分かってるってばのキス。それからまだまだたくさんのものを含みながらこの青とこの夏はとうとう完成しようとしている後悔すると分かってて口を開く瞬間が経験不足を思い知らされた瞬間があって自己嫌悪と自由と不安定な足元、呆れてしまうほどにシンプルな言葉たち。眠らない夜をこの青い夏い優等生たちは増やしたのだその途方もない解放感しかしそもそも共有するということじたいに喜びを感じる彼らはそういう二人だったわけで朝まで話せる場所などなかなか見つけられない苦労もあり、明け方の空もあり脱力もあり未来の話より今日ばっかりだったということもあり、そして何より、空の高さ。
いま、二人は目を瞑る二人でいたがる。どこでもない場所だと二人は思う。
始発が動くのを待っている。
二人とも目を瞑って、二人寄り添って微動だにしないで。
横から唸り声、そして首を緩く回すので髪がふれあう。
すると反対のほうも唸り目を開けて会話になるようなものが何も転がってない頭を確認するだけ、また閉じられる目。
さきほどからその繰返し。
ふたりでいたい。
このままでいたい、ふたりで。
どういうわけか、でも真っ先にまぶたのうらに彼らが見る気がするのはいつも、空の高さだった。




