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草冠をくれた君へ






 ルールと呼ばれる少年がいた。ルールにはルールがあり、側にはビートがいた。ルールにそのルールはないのに、側にはいつもビート。ルール亡き後は、ルール無き世界のビートとなる。



 ビートはそして手を置く場所を一つなくした。

 それまでそうじゃなかった、でもそうなったときビートはビートがあることの幸福を知った。

 しかもそれが二つあると考えてみると幸福が増し、しかし結局ビートは一つをなくした。二つのハートビートを知り、見失った場所は一つ。元に戻っただけのこと。ずっとそういい聞かせたものだ。でもどうしてか彼を待っていたのは絶望だった。



 絶望それオンリー、と少年は泣き夜の中をさ迷いあるいた。

 それから少しして、疲れと反動から縮こまって本を読み漁る毎日。

 そうやって割に順当に手順を踏んで彼は術を学んでいった。



 絶望は彼に古い靴下をはかせて、つまり、彼は絶望に古い靴下をはかせて今も歩き続ける。



 ルールがしんだ日がいつだったのかは判然としない、意識的に物を書く習慣をつけているような人たちや家のことを心から羨ましく思う。



 鏡の中には、おとながいる。

 じぶんの顔を触りながら考えてみる。



 誰にもいえない、花があった。

 誰にもいえない、苛立ちをくれた。

 からだ右半分、いつまでも若さが貼り付いていて取れない感覚。



 誰にもいえない、古くなってきた苦しみが、誰にもいえないのは、この荷を床に下ろしたいわけではないから。

 誰にもいえないのは、蔑むことならもうじぶんで自分にやってきているから。彼は薬だった、そんなこと可能なのかどうかすら直前まで想像したこともなかった、初めてだったから。

 他人を、その言葉を薬にしていいのかどうかも決めてしまえないままに、でもどうしようもなくそうなっていってしまった、それとも結局そういうふうにやるしかなかっただけなのか。

 今となっては思い出せない、本当の本当は誰がやったことなのか。

 今となっては、あれが本当にやってよかったことなのかどうかすら疑わしい、あれがどこから来たのか。でもやれたことは確かで、やったということは覚えている。



 あの、思い返せば笑い話にするしかないような、あの瞬間を、一人覚悟を決めた瞬間を、覚えている。

 それがからだに芯を通したような感覚を、覚えている。







 やったということ、ふたりでやったということ、そして言葉。薬だった。どれだけ時がすぎようとも。

 何もかも。












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