母親
〈ホットの場合〉
実際の話、痛いぐらい強く強く目をつぶったっていい、これはそういう段階。よく思い出してみること。何もかも深さが足りない、深さも、強度も。または、然るべき入室のタイミング。もしかしたら一度だって、そこには器があったためしがないとすら考えれるのかも、だとしても、今は、じぶんが何をそこに入れているのか注視しつつ、入れてください。入れてください、彼女の言葉、彼女の身勝手、彼女の弱さも、彼女の猫なで声、彼女の昔からの癖も昔から消えることなくある彼女の駄目なところも。季節の合図無視して空回る彼女をみていた。彼女をみていた。彼女をみていた。
かき回してください。
〈アイスの場合〉
本当のところは何がしたくて用意したのかすらも思い出すのが困難な作業になってくる。追い出すためにとかでゆるく首振って。目を落として。そしてもうここ以外のことなら今現在は忘れてください。よく知っていると思っていたもの、夏の幻とかと一緒くたにそこに置いて。昼間の奇声と夜中の奇声の差異を見た日々、それももちろん遠くに置いていて。視界の隅にあるいつものあの日の部屋、窓から斜めに入る陽射し、忘れろください。思い出してください。思い出して。
忘れろください思い出してください忘れろください思い出してくださいあなたにとっては、助けにならないたくさんの思い出が並びすぎている。
そもそもの話、あなたの期待はどれだけのサイズだったのか、やはり大きすぎやしなかったか、それって彼女に見合うものだったのか? 深さは? あの問題の夜だって今になってみるとちょっと考えもの、プリントを手に部屋に入る前の彼女の身に何が起こっていたのかについては殊更に。得意の想像力は一体どこさいった? これらはもちろん幼少の頃誰もが持っていて当然のものでも確かにあるのだ。けれど、これを彼女の引退試合として見てみよう、なんて思って口をかたく閉じるのは間違いとも呼べない。
はじまりから、もう、それは挑戦でしかなかった。もちろん、かなり無謀な類いの。もはや誰のものでもあり誰のでもないと思える溜息をここでついたら見てください。
理想と現実。
もうそれらはそこに浮かべてください。
かき回してください。




