表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/591

はなれ離れ






 じぶんの母親がつくる涙の河を、いつか僕も渡った。

 ああいうことは、僕ひとりでは絶対的に無理だった、ひとから教えてもらった泳ぎ方があった、とても不思議な古式泳法みたいなもの、彼からそいつを習ったあの一年。

 母親たちが流す涙の河を、ともかく渡りきらなくては先に進めない。



 いうまでもないことだが、いちど渡ってしまったあの河を、高校生が今更思い出す必要はどこにもない。

 必要もないことを僕が思い出しているのは、妹のことがあるからだ。

 妹は中学生特有のフォームで、このごろずっと、あの辺りで泳がなくてはならなくなっているところだ。






 母親たちの涙の河は、まよなかにつくられる。今も時おり、その存在を夢のなかでだけ僕も感じる。

 晴れた日も、風が波を立てる日も妹は、あの河まで行く。



 そして僕はそんな妹たちの姿など目にしたくない、これはただそれだけの話。

 その努力と、遠く離れた地点に今はいる。

 どうしようもなく距離が離れていく。






 中学生たちは行こうとする、あれは、妹たちの今いるところでは何と呼ばれている行為なんだろうか? 今週、母親たちの涙に加え雪融け水が集まって河の流れは恐ろしくはやい。遠目にも分かってしまうのだ、それが。



 思い出そうとするが僕が、僕が思い出せることと、それは、違う、こんなにももうはなれ離れ、こちら側とあちら側ではきっともう、何もかもが。距離が離れていく、あれとは、そうしてあれは、どんな種類の努力だったのか、悲しかったのか何だったのか、かつてじぶん自身も続けていたこともあった、そんな努力が、そういうことがあることすら、もう、今の僕には、ほとんど見えなくなってきているのだ。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ