ノックは
ノックは何回するのが適切なのかと、あなたが俺に訊く。
「違うそこじゃない、真夜中にドアをノックするなって話でさ、何べんいったら理解してくれんの」
するとあなたはいう、でもノックしてもしなくてもどっちにしろ開かない扉で扉の前にいるだけの時間を過ごす、それなら朝だろうと夜だろうと違いはそこにはないはずだと。
「始めからそんな場所に来るなよって話じゃんじゃあ?」
するとあなたはいう、開かない扉は永遠に冷たくて触ると心地よい、さみしい、どこにいてもさみしい、好きだ、だから許してほしいのだと。
「ノックしないで、夜でも朝でもしないで」
するとあなたは何もいわなくなる。でもあなたは語り続ける、あなたはそこにいて、あなたが考えていて、その全てが、本当に全てがたんにあなたの都合でしかないのが哀しい。俺には哀しい。
「二度とノックしないでって俺はいってるんだけど、要するに、さみしいから、さみしさが膨れ上がってどうにも感情を抑えきれないから、だからドアをノックするって、そういうことでいいかな?」
するとあなたは俺を八つ裂きにしようとする、あなたはこちらに近づいてくる、あなたが隠し持っていたあのナイフが月の下で美しいやり方で動く、ようやくだ、俺は無抵抗のままあなたを受け容れる、あなたは不思議に思う、初めてあなたの中に疑念が生まれる、たちまち部屋中にそれはひろがる、あなたはベッドから弾かれたように離れる、悲劇的なベッドからあなたは離れる。
あなた自身が起こした悲劇の中心地から離れると、あなたには見えなかったものが少し見える。
今やあなたの息はひどく荒れていて、真夜中で、ちゃんといつも通りの真夜中なのだが、全部があなたらしくない。全部あなたのプランにはなかったことなのは明らかだ。
やがて、あなたにもそれが聞こえるようになる。
「何が起きている?」
俺はノックしながらいう、酸素がなくなるよ、駄目じゃないかそんな場所にいたら。
「でも、でも、でもここじゃないと」
俺はノックしながらいう、やっぱ親の躾かなあ。
「駄目だ、止してくれないか? もう叩かないで。壊して。入ってきてよ」
俺はノックし続ける。
まあ代わりにはなっていると思うから。




