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窓
彼女は彼女の部屋にずっといる、そうしている以上は彼らが彼らであらねばならない事情であるだとか彼らのあいだで評判がいい曲もどんなか知る術はない彼女でいられた。
けれど意図せずにたまにその機会を彼女は得るのだ、彼女の部屋の窓はたまに開いていて、開いた窓が一つでもあれば何かは必ず変化する。たとえばドーチやポスト・マローンやセントラル・シーの新曲がどんなかを知っている彼女へと。
彼女の最大の弱点は、心があるところ。
だからせめて私が、街を好きになれたなら。
そう思いはするものの、彼女はずっと大嫌いなままだ、来た時から本当に嫌いだった、こんな街なんて。
彼女は努力を怠る。心があるなら、好きも嫌いも踏み躙る彼女でなくてはならない。でもそれはしない彼女。
かわいそうだ。そう呟き、彼女は膝を汚す。花を守る。小さな人間の尊厳を守る。風に舞い上がるフリーペーパーの行方も見届ける。
彼女の部屋には窓が一つある。
その窓は時たま開け放たれ、中に風が入る。
彼女が泣き出すのは、そのせい。




