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ピサの斜塔
わたしが死んでから、あなたには何もいいことがなかった。以前からそうだったように低空飛行を続けた。元々あなたの人生もそんな程度のものでしかなかったんだ、とわたしは思う。
あなたはわたしを知らなかった、知ろうともしてくれなかった。わたしが生きていようと死んでいようと同じだった。ただ盗まれた傘だった。わたしを見覚えてもいなかった。あの晩のカラオケルームでの物真似の最中でも。いつだって素通り。いつだってテーブルの下のピーナッツ。
だけどクラスでわたし一人だけだったの、あなたにイモージェン・ヒープのCDを貸してあげられたのはわたしだけだった。
もちろんとうに理解してはいた。あなたにとって、わたしはピサの斜塔の写真みたいなものだというのは。
何千何万と焼かれ続けてても、あなたはわざわざ手を伸ばして止めようとはしないの。




