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糸
「どうしてあんなにも考える時間をあなたはあげてしまったんだろう?」
そう訊ねられるたびに、彼は毎回律儀に考える。僕はどうしてこんなにも考える時間をあの人にあげてしまってるんだろう? 彼は、毎回問いに対してろくな答えを返せないし質問者に対してもそうだ、彼や彼女の望む反応など端から出来ないと知っていながら、それでも自責思考に陥る。
今もやはり彼は一人考え続けている、なぜ人々は既に終わった関係について話すように僕に同じ質問をしてくるんだろう、と。
あの人は、考える時間が欲しいんだといった。だから、僕はそれをあげてる。永遠に考える時間が欲しいから、それを頂戴とあの人はいったわけじゃない。だけど僕はそれについてももちろん検討したし、その上で考える時間をあげてるっていう状態にいる。
考える時間がほしいといった、永遠に考え続けているかもしれない人。そんなのって、いう方もいう方だけれど、あげる方もあげる方だよね。
そう思い彼は、独りでクスッと笑うのだった。




