同窓会の夜
「目覚まし時計が決めること、全てが」
「これ、イントロ? …オケ」
「あいつが来なくなって君は毎日泣いてた。行かなきゃいいのに、またあすこに行って、あいつが来てないってこと確認して帰ってくる。意気消沈してた君。あいつとの思い出は重荷に早変わり。悲しくてたまらないって顔の君。覚えてるか? あんなに好きだった本も読めなくなってたよね。何だか1人の時間も苛立ちを煮込みことでしかないようで、君は日ましに落ち着きをなくしていって」
「エヴリデイ、エヴリナイト、何時でも触るんだって。何だろうと構わないと見切り品に触る手なんだってあの人の手。手で触るんだってあの人。しつこく触り続けるんだって。触りたくて触っているんだってあの人」
「声に出して触るといってから触り、触れているから触れることになる、駄目になりながらも触るんだって。いつまでもどこまでも触るんだって」
「やっぱり触るんだって、どこにもいても触ってるんだってあの人。夢の中でも触って触り続けたんだって。素早く、そして明日になっても触るような感じを今から残している触り方でそれをやるんだって。そういう触れ方で触るんだって、あの人。今から触る、そういって。本当にそうするんだって。そして触り続けていくんだって。ずっとそうやって生きてくんだってあの人、触るのを止めるつもりないんだって、分かるぐらいにしつこく触るんだってあの人、キッチンは好きでポスターだらけにしててそうなるぐらいに本当に好きでライブみに行った唯一のアーティストもアリアナ・グランデなんだってあの人、そしてそんなキッチンでもやるんだって本当に触るんだって、いつも触ってたいんだって」
「朝夜触るんだって。誓ったんだって、生涯変わらない触り方で続けていくんだって。むしろ触らないほうが不安に襲われてしまうんだって、前々からあった噂じゃない、噂はかなり本当のことなんだって。そう、本当に触るらしい、あの人が触るのはそれはいつも花の香りのような素晴らしい肌なんだって。関係ないんだって、それをやるタイミングとか場所柄だとかもそうなんだけど、誰にも何の配慮もしたことないんだってあの人たち。応答にこたえないんだってあの人たち。部屋にいて、それでずっと、ずうっと触れ合ってるんだって」
「氷のうえを歩くよりも、彼女と二人で歩き続けていることのほうが寒かった。彼女の吐く言葉によって、凍てついた俺の全てを感じた。指は、1ミリも動かなかった。彼女にいわれてしまうのを恐れてたからさ。もっとこの世界を暖かくしてほしいのに、そんな冷たいモノ近づけてこないで、といわれるから、こっちは黙っているしかないと思ったんだよ。ああ、何も隠せていない彼女、いや、隠す気もじつはなかったってことか。それだけ傲慢な人間だということなのか」
「芸術家に投げつけろ! 時空歪めずにお願い! 俺のいる方に持ってくんなよ! おいおいやめろよぉ草はえる、ってバカ! マジでゆっとんだわ持ってくんなバカ! ウマシカが! ウマシカがよォ、芸術家に投げつけろ!! は、全部だよ全部! 全部っつったら全部! 全部分! 芸術家に投げつけてろ全部分ねお願いしますね!! 俺が名乗り損じゃねぇか! じぶんで芸術家見つけろ! 名刺? ない!!」
「プライド、この言葉が僕は大キライ。これを目にしたらもうその漫画は即閉じる。予感、ミニマリズム、といった言葉も。僕は思うんだ、お見合いおばさんになってみたいって。それであいつら全員を結婚生活もとい墓場に送り込むためにだ。そして早いところ連中に代わる新しい言葉に出てきてほしい。やなやつらはみんなはよ結婚して、子供作って、たんなる養分、そんで鏡を避けるようになるタイプの醜く枯れた人間になればいいと思うでしょ? んなのと一緒だから。漫画やアニメは作られていくし、ウェブ漫画やウェブマガジンともなれば広告で視界が侵されてる、げんなりする。一冊の小説作品はその在り方が好きだ僕。美しいとさえいって良さそうだ。僕がなりたいお見合いおばさんになるための道筋が相当きついものに感じられる感受性が、僕じしんはそこまでのノイズではないよ。お見合いおばさんのその家に火がつかないとしたら、そここそ地獄の様相でしょ。逃げ足速いからね僕。お見合いおばさんの必須スキルとして、瞬間移動ってあると思う」
「ずっと応援しています! 何度、この文を彼は綴っただろう。彼にはいつも死ぬほど応援しているような存在がいたのね、それはいつも画面の向う側にいるスターで。彼は大好きだったんだ、天才って呼ばれる存在が。特にじぶんが見つけた天才が。天才たちは、歌って踊って、笑いも健気さも感じさせてくれる、こちらに手を振ってる。スターである存在を彼は死ぬほど応援していて、それが彼の人生の歓びだった。彼は働いてたよ、働いて、働き続けて、そうして一年間の貯金額はゼロ。画面の向う側のスターは、そんな彼に手を振ってるわけ。彼はだから頑張った、彼は死ぬほど応援したいから、だから彼はじきに死ぬと思うんだ、理想ってのはやっぱそーゆうものなんだろうね。どこかの時点で必ず死ななきゃならないって感じの。ステージの向う側、画面の向う側のスターは、こちら側に手を振る。彼も星に手を伸ばす、死ぬほどに。彼は死ぬほど応援した。しかしもうそれも終わる。死ぬほどに彼は応援した、その手は下ろされても、一人分。ほんとうにシンプルな話だ、そう思わない? 一人分は、一人分。人が一人減ること、世界には空白が生まれてて、そこが埋まるわけではないんだっていうこと。そして、ステージの向う側から、画面の向う側から、スターはそんなことにはお構い無しに手をずっと振り続けるわけ。変わらない輝きを放ち続けるわけ」
「ねぇ、哲学的ゾンビから年賀状来た?」
「シロアリに家を破壊され、最後に愛は勝たない。誰が死のうと揺らぐことはないその真実。永遠の輝きとして、死んだ誰かを死んだことによって加点している、でもどれだけ人死にが出ようとも無関係に街だけが本当に輝く、たったひとつそれだけが真実だ。常に揺らぐのは、グラついてんのは人間たちの歯と心。学ぶべきことの大半を学ぼうとしない。だから揺らぐ。だから、人は簡単に破壊されてる。心が、大したものを生み出せてないから。何だかたちの悪いジョークみたいじゃないだろうか、と少年少女は感じる。どんな木も言葉もなく伐り倒されているみたいに、人も大した抵抗ができるわけではなかった。大人は花粉に苦しむ様ばかり見せてる。大した言葉を持ってないどころか結論も出そうとしないわりには、なぜか曖昧な表現に終始するラブソングばかり歌い続けてる。アスリートを名乗っていようが何だろうが、結局、連中の頭の大部分を占めてんのはヘアスタイルのことばっかなんだってこと。人として、中学校の頃からちゃんと進歩してるっていえる大人って本当に存在してるのかな、少年少女は首を傾げてたよ。ただただ死に続ける人たちの列。それに並ぶのがつまり人生なのかなあって感じに伏せ目。愛はだから勿論正解じゃないし、愛が勝つことなどありえないし、最初から最後まで愛は勝ててなどいない」
「鬼滅の刃や進撃の巨人は全巻揃えられてないまま。米津玄師はチェンソーマンの曲。バウンディはチェンソーマンの曲。女王蜂は告げ口。古川日出男のLOVEがどこの書店の棚からも消えてて悲しくなる。マイク・ミルズ監督作品全部大好きだな。きみにオアシスのスタジオアルバムをどれも貸してあげる。きみにギンズバーグ詩集を貸してあげる。みんな、月曜日の友達なんて知らない、だから安心。軽蔑し続けてて構わなかった。旅行中の男友達の部屋でずっと聴いていた、Eveの文化。ラブコンに出てた時の小池徹平が彼女の初恋だそう。それが何を意味してたかというと、僕がアークティック・モンキーズを聴いているのと同じ時、すでに彼女の感受性とか終わってたんだねってこと。寂しい話、ときみはだから感じてて。僕のビジネス無神経、同窓会の夜」
「おれの口から冗談が飛び出してくることは、ひょっとしたら今後二度とないかも」
「お前の体が冗談をいうところはよく見てっけど?」
「どゆこと?」
「貶めてるわけじゃないから」
「口でだったり、髪でだったり、表現する方法なんていろいろあるわけだし」
「そうそう」
「こんなふうに頷きを返すとか、動作によって、その人に対して面白いとか、なんかいいなこいつって感じてるのって分かる。何だかんだで何でもいいんじゃないかな」
「あたたかい人がいて、いるべきじゃなかった。あたたかい人がいて、この心は鋭く、ふれるもの全て形を変えてやる予定が無茶苦茶になるしかなかった。あたたかい人がいて。何かしらの糸が切れた、あたたかい人がいて。お守り失くしちゃった、あたたかい人がいて。あたたかい人がいて、俺の眠りが深いものになってしまった、間違いなく。あたたかい人がいて、俺の弾くピアノの音は町に響いていき、家の中に冷たい人がいるということになって、家の中から家の外へ冷たい人は移ることにいつだってなった。あたたかい人がいて。あたたかい人が、そこにいて。あたたかい人がいて、そこにいたのならいるべきじゃなかった。あたたかい人がいて、ずっといるって嘘をいう奴はいつだって居場所を手に入れてて、その手があたたかくて、ただそんな理由だけで俺は泣いた。あたたかい人がいて、聞こえがよかった。だから最初の時点から、あたたかい人がいて。あたたかい人がいて、細心の注意。あたたかい人がいて、当面。あたたかい人がいて。あたたかい人がいて」
「彼女のカメラロールはずっと有田くん」
「誰だよ有田くん」
「貸そうか?」
「有田くん借りれんの?!」
「今5巻まで発売中だから」
「夜になり予約したところにきみは来た。テーブルに先に着いたきみ。座る以外にない。グラスにはそれが入っていて、テーブルに近づきながら理解していたけれど、あるのはグラスの半分まで。その時きみは喉を潤さなきゃいけないのか? それほどでもないか? いいえ、それは今問題じゃない。水道水かミネラルウォーターか。安いのか高いのか。そこも違う。そうではなくて、なぜ半分しかグラスに注がれていないのかがきみの一番知りたいところ。一番知りたいのは、半分しかグラスに入ってない水がどこから来たのか。誰のせいか。きみは椅子の上でじっとしたまま、グラスが挑発的な感じであるというのを受け止めてる。きみはきみが受け止めるようにしか受け止められないタイプの人だと、知っている。自覚がある。きみは見たいものだけを見るんだ。映画なんかはだから大嫌いだ。映画製作ほど下らない仕事はないときみは友情に向かって話した。ああ、今グラスは置いてあり、それはきみが飲むためにあるよ。そう見える。きみの渇きを癒すためにそこにあるようだ。しかし半分だけだ。それは何故? 君が本とに気にすべきは何なのか、何に頭を占められてるのがいいのか、何割、そしてどれだけの期間を? きみはもうすぐ来る気持ちに名前を付ける。そして何であれ約束を違える」
「イアン・フォーサイス&ジェーン・ポラード?」
「あの時君が本心では交わしてなどいなかったおれとの約束、いい値段で売れたのかい? 今思うことは、かつておれじしんが胸のうちに渦巻かせていた類いの思いとは大半が変わってしまっている」
「彼らがそこにいる、短針と長針。そこでのきみは丸っきり秒針、剣。きみは将来を思って忙しいから。きみは彼らのことが羨ましい。何を意味しているのかも知らないまま生きていられること。ふたりは知らない、じぶんたちがどれだけの美しさを体現しているのかを。雨の日、きみは止まらない変わらないチクタク、チクタクを続けながら、ふたりが色づくのを見なきゃならない。きみは何を意味しているのか知らないままいつもやってきたことをやり続けてる。0時にキスをする彼らを横目にしながら。きみたちの願いは、この街ごとみごとな大火事であのふたりに関連する全てが消えてなくなること。そんなめちゃくちゃな願いを抱えているのは醜いきみたちの心の立派な証明になっている、知っているけれど、彼らへの愛ゆえにきみたちは変わり果てたじぶんの姿からも目を逸らさない。跡形もなくふたりの全部が燃えればいい、本当にそう思うからこそ、顔を上げていられるんだなんて、知りたいわけでは勿論なかったのだけれど。きみたちだからだ、そんな日が来ることを、密かにずっと願い続けているのは。きみたちが、それを降らせる」
「超能力少女のいいそうなことをゆうの巧みだったよねえあの娘」
「お前が壊した、後ろからも正面からも、複数いる声がそういうのが聞こえた。僕に向かって、何人かのじぶん自身の声が。おそらくは十五と十九と二十六と二十九のじぶん。いっそ幼く可愛い頃のじぶんがいてくれたならよかったんだけれど、でも分かる。その少年は何が起こったか把握できておらず、そっちに行っては駄目だと中学生の僕に腕をとられながら、近寄ってジッと見つめている。その気配をずっと感じている。今日、だから僕が僕にいわなきゃ、ちゃんと見なきゃ、分からないから見るのではなく、ずっとこうなると前から分かっていたことを見ないといけない。僕がいつかやらなくてはならなかったことだとして、それでもやったらどうなるか知りたくはないと思っていたことをやらないといけない。悪いのはあのひとじゃない、僕だ。全部僕が悪かった」
「つまり、さっきのがこの人生で61回目のザラキ」
「そーゆうもんだから。手間をかけさせるんじゃねぇよっていわれてしまう羽目になる結果が、おれらを待ってるんだとしても、唱えずにはいられない。呪文って、そういうもんだよっていった人がいたけど、本当にその通りでさ」
「優しさ。どこかでは仮面を取るタイミングを計りつつ見せる優しさなど、オレには関係ない。優しさに本当も嘘もないとしても、あれこれと理屈をつけ、ねじ曲げ、挙げ句の果てに、分が悪い時にはそういうのって若さだとか、未熟者だとかって嗤う。だから関係ない、最後には絶対に要求を飲ませてみせる、と思いながら、優しさと世間ではされているようなものを利用し続ける連中なんて顔を見りゃ分かるし。ここでは笑っておこう、まだ、と思いながら気色悪い表情を浮かべているんだ。始めから関係ない、来る前からも関係がないし、来た後ももちろん同じ、ずっと凪いだままの海。穏やかな時間を乱し、こごとばかり並べ立てる母親みたいな。お前は何もできない人間と決めつける。性とか生とか。そんなリアルな人生。マジ、ほんと、オレは勘弁してっていいたい。お前のためにいってやってんだから、聞けよと小さな画面に目を落としながら喋り続ける奴ら。優しさ。あんな連中のいう、そんな優しさ。いいね。そして永遠に、さよおなら」
「最後全員生きては帰れないと君が予想する映画のなかかよここは。ニッコリしちゃったじゃねーかよ」
「彼女が傷つくことは、彼女の権利だ。そうして傷ついたことを声に出していうこともまた、彼女の権利。確かにそれはそうだった、しかしだ、誰かにじぶんは傷つけられたのだと断ずることは彼女の権限には含まれていた時などない筈なの、これによって傷つけられたのだと、指を指しながら声高にいう権限も同じく彼女にはない筈。聞く耳を持たない連中の最たる特徴は、じぶんたちは聞く耳を持っている、と思い込んでいるところじゃないかな。そのような権限が与えられていたことはない、例えばだけれど、あなたの心の中で起きている全てを想定して動けるんなら、それってもう他人じゃなくない? 彼女たちは他人に、他人なんかじゃいられなくさせたいと思っている。だけど間違いなくわたしは他人なんだよ、今日も明日もずっと他人。こんにちはもさよならもかなり他人だ、あなたの感情もどちらかといったらあなたの他人だよ、むしろ今わたしの胸にあるこのあわれみの念こそ最も彼女たちと親しい距離にあるものだ。だって、だってさあ、じぶんがいったい誰なのか、誰だと思ってキタんだったのか、ひとつも忘れていないとは正直いえないんじゃないか?」
「君が強いことなら知っている、君はまるまるから。君はまるまって強く君はまるまり君は強く君は強い君はまるいその意味は、強い君はまるまって強くなるからまるいだからとても強いとても強く、君は強さをまるい君はいつでも強い君ですぐまるくなる、まるいならまるくて強くて君は君が君がまるく強くまるい君らしさなら知っている、君はまるまるから。君の強さ、まるさは、強いから君だから君のまるさが君らしさだったからまるい君はまるい、強い君らしさでまるまって強くなれて君は君がだから君の強さなら君の、まるまった強さまるさだから君が、強さは君のまるさなら君らしさがまるい君の強い君らしさのまるらしさの強さまるさの君でまるまった君らしさは強い君に、君が君の、強い強さのまるまったまるさ君の強さが強く強いまるさの君で君のことだ?」
「ふせいじつなものにはおとずれることのないやすらぎ。今はオレもおもってないさ、前まではおもっていたあれやこれやのことは、もうおもわない。眠らないといけないのに、眠ることができない夜に、いずれ降りかかるであろう辛苦を想像したりすること、誤魔化しきれなくなって、もう死ぬのが一番楽な道かもしれないと思う夜、夜の安らぎの中にいる者とは真逆の夜を生きること。もうおもわない、死んでくれたらいいなんておもわなくなった。どうか連中が長生きをし、一年中働くのがあほらしくなるほどの税金を払い続けて、いつしか老いへの恐怖感で頭の中は常に一杯になってしまっている、そんなふうになりますようにと。死ねばいいなんて今はオレもおもってない。さっさとこの世から消えればいい、なんて。逆にしっかり息をしてくれればいいと願い続ける」
「顔のダニのせいだね、という脅し文句しかあの人との会話で残ってるのがないなんて」
「私は何も見えてない人間だから。みんなと同じ方向を向いていた試しがないし、みんなが口を揃えていいというものも、ちょっと持ち帰り検討します、そういってちゃんと持ち帰って、部屋で検討に検討を重ねて、インターネットの海に浮かぶ塵を押しやりながら情報収集して、それでやっとじぶんなりの回答を準備して、その頃になるとだけどいつだって私以外には誰もいいものをいいだなんて思ってなかった。いつだってそうだ」
「なるほど」
「で済ます」
「気のせい」
「で済ます」
「幻をみた」
「で済ます」
「あんなもの口先だけのもの、子供に肩もみさせる親は漏れ無くグロテスクだったから」
「全員分の全てが地面に落ちてて土にまみれないといけなかった、あの日だけ、あんな日だからあの日に全ぶ決着ついてないといけなかったのに!」
「ヤドカリ踏み潰しながら笑顔で移動していく爽やか三組のこと?」
「納得はできない。それはとても難しい。この傷も、目も唇もこの鼻も、そんなにいいものじゃない。飾り物ではないというところが、特に良くない。みんなにあるものだから、ただそれだけの理由で削ぎ落とすこともない、可愛いと感じてるみたいに。僕には納得することができません、止まっちまいましたわアドベンチャー系とか」
「ざいあくかんに押し潰されそうなひとにはとてもだせない発声でおはなしをして。ざいあく、かんに、押し潰されそうなひとにゃとてもだせない声でさ、はなしを」
「そこにちゃんとある、その二つの目で見渡せばいいだけの世界といわれたこの場所に、みんななくしものばっかしてさ、泣きあかしていてほしいよ、としかいうべきことがなかったから。いい加減溜息をしとこ、夜な夜な」
「全ぶしかない全ぶ本当だった」
「母のお腹に帰りたい、と思いたくないが、思うし、どうだっていい。僕らの感情は全ぶ割とゴミ。んなバグを後生だいじにしていらっしゃる方々を嘲笑って生きていきたい。誰一人助けてこなかった人間のこんにちは、という声が満ちている朝のマンション、何の価値もない。こっちとしても同じ空気を吸うのであれば、そんな思いだけで頭を下げ行き交うだけなら。隣人に、今月の新作映画は観てるか観てないか訊かない」
「飛んでいくものはみんな嫌い。だから、未送信ボックスに言葉を置いている。いつも。外で買ってきた本を棚に並べるの好きだ。ネット書店では紙の本は絶対に買わない。コーヒーもトーストもあんまり好きじゃない、ラーメンよりはましだけど。夏は翔ぶ季節。冬は留まる季節」
「あなたはまだ悪魔たちと出会ったことがないかも、いや事実出会ったことがないのではなく、じぶんとしてはそう考えているってこと、とにかく自身としてはそう感じる、この今はそうとしか感じられないっていう。私の経験談、私の友人たちの声も混ぜ合わせて私は言葉を紡ぐ。悪魔たちからどう逃げたらいいのか、日々考える? 悪魔たちが好む、大衆音楽から距離をおく? 再生回数の目立つ動画、学生が入りやすい店とかでちらっとでも視界に? いつか出会う悪魔たち、出会うしかなかった悪魔たちなの。何も知らないでよく見てきたみたいに語れるものだと彼らは私のことを呆れながら見ていた。知ってるかな、それは昔ながらの悪魔のやり方ってことを。通じている。悪魔というのはそんな心が住める土地の名称なの」
「恋人同士にとっとと似たい、彼女は彼に対しては傷一つつけない、愛情を示すこともない。黒い二人の胸だけに白いパズルが、二人の四季の幻覚症状が。あと何より二人の存在する意味についても、決して、ついぞ彼には答えないでいた。彼も大概な奴だよ、彼女に向かって正しい言葉は使うことはなく、去年まで彼だった彼らしいこともしたがらなくなったほどで」
「うーん。まぁまぁジェラシーかもしれない」
「やっていいことと悪いことがある、誰かがそういい出して、誰かはそれはその通りっていったんだったけれど今は全てが過去のこと、かつては確かにそんなだった、かつて世界はそんな場所だった、今は違う、ぜんぜん違う、変わってしまった、人は変わるものだ、文化、駅前通り、強い弱さ、弱い強さ。剥がれ落ちてなきゃいけないものをそうしようとする気力は根こそぎ持っていかれてる。砂場に落ちているべき涙だけ光る」
「タクシー運転の男性たちに、抱えてる感情抑え、心が浮かべている行き先を出すのぐっと堪らえ、名駅の桜通口とか広小路口とかいい続けてきたわたしたちなのだよ。そんななのに、いい訳上手だと? 冗談じゃないよこんな在り様で甘んじてきた。いつか遠くに行く。荷物は沢山、だけど行こう」
「持っていた花を隠すのが得意すぎる人がどういう運命を辿るのかをまだ知らないよね君って。それにより被る悪影響は、本当の笑顔を隠すのとは比じゃない。ほんとうの話。だからオレは伝えたい。あいつが花を隠す、わざわざ持ち込んだんだ。手荷物を増やすのは避けたい、今日のこんな雨の中でもあいつは気を遣いながら花を、あの人に贈るために用意した。あいつは花を隠す。あの人は到着した時点で、あいつの花よりも光輝く贈り物をもらい続けてた、既にどちらの手も塞がっていた、横顔も疲れて見えた。あいつにしたらいつものこと。花を隠すのがいつもいつも得意なあいつには」
「最近の私。私は憂鬱で、ストレスが溜まるといつもなるように髪の生え際が痒くて、お金もなく、今一番好きなバンドのCDは売り切れ、ライブの物販に行ったら買える、買おう、行こうと決心したい、でもライブに行くための服がなく、町に話ができる人もおらず、住んでいるアパートは一階で、身長だけは百七十弱あり、いやで、いやで、この顔も、実家のことも、請求書ばかり放り込まれるポストも見たくない、何も考えたくない、いやなものはいやで、それ以上に誰ひとり私にかんしての考えを頭の中で巡らせることはしてほしくない。部屋で私は耐えられなくなり町に出る日もある。そうしたらそうしたで、また耐えられないと思うことになり、これは本当にろくでもないことだ、だからハンバーガーショップの二階にいて、祈らないよう、腕をさすっているしかないということにもなる。最悪だよ。ほんとうに最悪の人生」
「僕は速かったから。誰よりも早く本を読み出した。誰よりも多くの言葉を学んだ。映画館に並ぶ時、本があるのは役に立つ。屋上にいって、遊んでいる同級生たちを眺めおろしたよ。そうやってよその子どものやり方を学んだ。見て、聞いて、嗅いで、学んだ。この口や、皮膚は僕には不要だった。少なくともあの頃は」
「返してよ『アンダー・ラグ・スウェプト』、そしてその時には一緒に返して、私の若さを。私から奪ったもの全部返して。そんなつもりじゃ、とかはほんといいから返して。少なくとも出合って始めの頃はそうするつもりなんか本当になかった、とかそんなのいいから返せよ糞野郎」
「一ばん彼女のためになることをしたのは誰なのかが、当の彼女には知る術はない。彼女は一ばん彼女のためになることをしてくれた人を見ることも、嗅ぐことも、触ることもできない。あくまでも可能性があるというだけの話。ただ、今まで彼女が通り過ぎていった中で、その人はちゃんといたかもしれない。そう思うことも彼女にはできるよ。決めてしまうことだって本当は彼女にもできる。無理やりだとしても。けれども彼女は、なぜだろう、心の奥ではそうしたいとは思っていないみたいだった。いっそのこと彼女は、なぜだろう、その人の存在なんかこれまでの道程にいたのではなく、行くのを断念した、でも行けたかもしれない道の上にいるような人だといいと、そんな想像をする彼女が現時点での彼女で。 間違いなく、彼女じしんが彼女のために役立つ存在であるわけじゃん? 魂と知識と直感で交通整備されれば。彼女の決定は続いてて、野良犬暮らしにも飼い犬暮らしにも堕さないようにと、彼女を彼女じしんから守っている毎日。その人が記憶に残ることはないだろう、当たり前に」
「唐揚げをやったら、彼はその礼だといって僕に女子を差し出した。起こったことを正確に書き記すことも、話して聞かせることも不可能だ、僕にはできない。だから強調したいのはひとつだけ、僕は僕じゃなかった。はじめましての時からいなかった、あの女子も見て取った。ただ二人だけは、彼と僕とは、友人関係だった、すべてがそれ以前と以降とにいつの間に区別されてて、最悪なのはかつて僕じしんが何を考えていたのか上手く思い出せなくなったっていう点だろう。彼は僕に、何でもくれる、しかも本当にくれる、返せとかそういうことを後になり匂わせたことなんかない。一回も。そういう、他人に与え続ける部類の男子が存在するのすら今は承認しがたい。まして僕はじぶんがそういう人間と繋がることなど想像してなかった。誰かが何かを贈る、それは分かる。誰かが誰かに贈るような、もしじぶんだったらと孤独な男子学生が思い描きそうなもの。彼ひとりがいるだけで、どっと僕に押し寄せてきた大量の、そういうものを彼が僕にくれたんだ、惜しみ無く、と僕が感じるほうが間違いと考えてみることもある、気のいい友人というものはこんなふうにサービス精神が旺盛なのだ、そういって、考えることはやめてもみた。卑屈でいるのを忘れよう、簡単に感じるだけでいい、なんて無理なのに。真っ先に強調すべきことを忘れていたけど、本当に僕は彼に唐揚げを二つやっただけだったんだ。あの日あったのは、それで全部。会話らしきやり取りをしたこともその日までなかった。弁当箱から弁当箱に、何の変哲もない普通の唐揚げが二つ移動する間、何かが起こった、と仮定してみる。唐揚げの礼としちゃ彼って存在は僕にはでかすぎる。話として出来すぎ。彼を介して僕が得たもの。周囲からの信用、帰りの電車で居眠りするほど喋り疲れること、変人の称号、心地悪いぬくもり等。誕生日祝いすら貰うようになった僕がいる。すなわち個人情報云々といったことに消極的になった僕がいる。なくしたもの。ノートを貸す際の抵抗感。先手を打つこと。僕は彼に大きな恩がある。唐揚げの礼、彼はそういったけれども、まるで橋だ。カラフルすぎたし、そんな友情だというのなら、僕にはこの先もっと巨大化する恐れしか見えてないんだろうな」
「帰ろう、そういったあの男、私たちの家なんかじゃないわあんなの。あんなことが起きた場所に、帰る? あの人はいう。帰るべきタイミングって何。本当に、私が愛した存在と同じ人間なんだろうか。かつては私たちの家だったあれは、侵入者を中に入れてしまった。私はそれに犯された。そしてあの人も。変わり果てた姿を見たくない」
「あなたはあのノートに書いているのでしょう。わたしたちの若さは奪われて当然のものだった、と。彼女はいった、私たちの若さ、誰かに奪われてそれは当然のものだといわれた、だけどそれは間違い、大きな間違い!! そういっていつか彼女は涙を流し続けていた、あの場では慰め役を務めた彼、でも後になって彼はいった、若さとは誰にも剥ぎ取ることは不可能なもののはずだ、と。ディスイズマイペン、ディスイズマイユース、と誰かのトイレの壁の落書きに紛れて本音を洩らしたつもりでいる、少しの本音ぐらいはいい。夜の公園で、駅前で、俺のアパートの前にある自販機で、カラオケルームでも、涙で、ゲロで、叫びで、表現方法を試してみている人たちがいた。彼がいいたかったことと、俺の気持ちは微妙に違う。落ち度はこちらにあるのでは、なんて俺でさえ何万回も考えてきたのだが、2人に当てはまるかどうかはまだ誰も知らない。二度は失えないから失えたもの。2人が失ったものはそれだ。失わなければ失う痛みが理解できなかったもの。彼と彼女が失ったものはそれだ。痛くないけど痛かった、とそういうほかにないもの。失わなければならないもの。いつかは失うと分かっていたもの。だがそれがどういうことなのかは正確には誰もいい当てられていなかったもの。形だけの喪失と、失ってからそれで良かったのか良くなかったのか分かるだろうとかつて俺が思っていたもの。でも無論、依然そこはよく分からないままでいるそれについて、俺は今もよく考える。今日、いつも行くコンビニエンスストアへの道を歩きつつ思った、俺たちの若さは正しくなかったものだとしても何でも、もはやどこを探したって見つからないだけ、と」
「彼女達の涙。あの街を汚したのはそれだ。疑いようがない。彼女達のサンタコス。当時同じマンションに暮らしていた子らは、床に流れ落ちていく彼女達の涙の振動を感じているからこそ悪い夢にうなされていた。あの頃の彼女達は、真夜中に横になることがとても苦痛だったから。彼女達はベッドで腰かけていて、暗い部屋でただ手の中のデバイスの放つ光が、救いであるのならどんなにかいいだろう、と考えていた。彼女達は思う、あの頃の彼女達、涙のせいで夢見が悪かった子供はいま、どんな大人達になっているのかしら?」
「ギャンブルも酒も女性も知らないで彼は死ぬ。産みの親のこと、大人たちの言葉の裏にある想いも涙も知らずに彼は死ぬ。真実と呼べそうなものは一切知らないまま彼は死ぬ。彼はイメージを拭うこともしないし、更新もされないままの彼で死ぬ。友達の顔をみずに彼は死ぬ。彼は穏やかな心持ちで死ぬ。彼は運良くそこで死ぬ。先に行けば行くほど地獄で、それすら知らない若さで彼は死ぬ、信じられないくらいに静かに、若い心の彼で彼は死ねる」
「夏がすきとかってゆってる男はダメなんだってだから!」
「やーそこホントわかるんだけどさー。冬が得意ってゆうヤツにもいなくない? マシな男なんて」
「ひったくりぃ! 誰か捕まえてぇぇ!?」
「私はとても渇いている。水が欲しい。きれいで冷たくて静かな水が欲しい。近くを通りがかる人にそういうと、稀に水をくれる人もいる。ここに置いていきますね、と私が仰向けに倒れている地面と呼ぶのも可能な位置で、手を離しても容器は自立している平坦な位置に水を置いていく、心優しき人びとが確かにいる」
「家族が初詣に行っている間にあの娘はひとり家に残って岡崎京子の『チワワちゃん』を読んでたの、女の子の本棚には本当にあるものがあるし本当はないものも本当の話あったりするよ。若い娘の本箱にあってはならない本、と大人たちは考えている頃合いでも。頭のなかは自由なんだよってこと、それは原則だから。思ってることはどれもいわないように努力するしかない、誰しも好きにじぶんの考えたいことを考える、止められないし、止める手なんかも存在してはいけない。だからね、女の子は親から隠れて考えに耽る。女の子は親から隠れて好きな本を読む」
「朝目覚めるたびに思う、この部屋がどんどん小さくなればいいな。そしてこの下らないもの、下らないだけの人生を締め付けてくれたら。そしたらこの町から出ていける。私に夢を見ないようにお星様に願った母さんの死を願った私の生」
「そいえば突然死のうと思い立った。そしてわたしは死ぬ準備をしているところを家族に見つかり、中止せざるをえなかった。ほんとうちの家族は強者たちばかりだから。わたしはひどい、本当にひどい目に遭わされたの。小さくなったわたしを看病しながら妹は涙を流した。見舞いと称し笑いにきた兄はじぶんが鞭打った躰を初めて撫でた。姉はひたすら梨を食べながらわたしを見下ろしたままでいた」
「彼女? 彼女は僕に愛されて、うれしいといってくれた、なのになぜ、昼も夜も向かいあわせでいても今は当然になったこの関係を維持しつつも、あの女にバックハグをするのを許してる? 後ろから抱き締めるあの女が、彼女の首の匂いを深く吸い込むその様子。彼女の肌に切なく拒まれる幸福を、僕と同様にあの女も感じているというわけだ。これを、酷い、といわせてほしい。今のこんな事態を。だけどいえない、こんな僕が正しく愚かだ。ひたすらに正しさが痛くて辛い涙が出てくる。恋をする僕はそんな感じ。正面から見つめ合い街は騒がしく僕は花のようにあのふたりの目に映りこみたい毎日。こんな苦しい思いをいつまでもしていてもやっぱり、彼女にろくなこといえず、元気な女の子みたいにあかるく笑っている僕、出し惜しみをする。息苦しい実家暮らしかよ。未だにそんなふうでいる。誰かと目を見て話したい、あんな女の存在を見ないようにいつも必死で。本音では全てが欲しいけど、わたしにはわたしのままでいる限り不可能なことは勿論とても多いから、という彼女の目を見て、そこにじぶんを見ないようにいつも必死な僕、僕は励んでいる、僕を消す努力をずっとしてる」
「また今度ゆっくり会おうね。インターネット・ラヴの話しようね」
「あの学年にいた人たちは全員、罰を受けなくちゃ。彼を欲しがっちゃいけなかったのに、見てた。欲しいと思っては絶対にだめなものを欲しがれば、罰を受けるのは当たり前。なんて悪い子たちだったんだろ」
「解るよ。欲しがったりするから罰が下されるんだ、って夜誰も歩いてない町の電柱に話しかけたりしてるもん私」
「君だけなんだ、といわれると今すぐに終わらせたくなる。わたしがこれ以上ないほどの深い傷になれる、彼の内側で光り続けるこれがチャンスなんだと、真っ先にそれを考えついてしまう。その信号の色を渡っていってしまう。残り時間のこと、あれは嘘。バレンタインデーチョコは本当。わたしが恋人に嘘をつくのは、もうこれ以上、怖いものが増えてしまわぬようにと、それだけの思いだとしか理由に挙げられそうにない。わたしが彼に嘘をつく、彼は疑惑の森の奥に進む、迷い込む」
「鯛焼き屋にひとりで行くじぶんをイメージして。お前はいうべきことをいう、鯛焼き一つ下さいと。お前は鯛焼き屋で鯛焼き屋に行ったら買えるとお前が思っていた通りの鯛焼きを数枚のコインを渡して得るわけだ。それでまた次の週そこの鯛焼き屋に行くんだけど、前回と同じ鯛焼きは二度と買えない。でも鯛焼き屋は鯛焼きを出してて、だから鯛焼きを下さいっていってる。そこらのレストランの食事なんかよりもいいかも。お気に入りに入れる、何かを得る。お前は鯛焼き屋で鯛焼きを買う。お前は好きだから鯛焼きを買うし、好きだから鯛焼きを食う。ある時知人がお前にいう、今食べてるそれは何だと。お前はいつもの鯛焼き屋に行き鯛焼きを買って食べてた、だが鯛焼きは鯛焼きだからそういうだけだ。そもそも疑問だ、鯛焼きを食べてるだけなのに、なんでわざわざ声に出して指摘なんかするんだろうと思っているお前は、顔に出す。それも良くなかった、相手は奇妙な声音で奇妙なことをお前にいう。例えば、全然鯛焼きなんかじゃない、だとか何だとか。君の好きな鯛焼き屋の鯛焼きっていうのは、結局独り占めしているわけにはいかない何かになっていく。じぶんのことをたんに鯛焼きが好きなだけと思っていても、そうはいかないんだよ」
「期待にこたえて紅?」
「あの天使たち、どうか今後彼女たちが不幸になりますように!」
「僕は話しかけたいからいつだって話しかけに行っていたんだ、だのに友人連中は口を揃えていう、止めにしろよと、寓話なんかに話しかけ続けるだなんてお前どうかしているぞ、と。僕は答えた、友達になりたいだけだと。何も寓話を手にとり読もうとしてるわけじゃない、適度に距離を保ち、声をかけたいからかけてるんだと。寓話は僕に話しかけられてもろくすっぽリアクションしないし、期待はしないようにしているけれど、返事が返ってきたことなんかそれまで一回もなかったんだ。その日、気がつくと寓話と僕の二人はどこかに座っていた。今日もやっぱり、一方的に僕だけが喋りどおしで、寓話は明後日の方向を向いていた、と思ったら寓話が唐突に手を伸ばしてきて。いきなりのことで固まってしまった僕で。いうまでもなく、その時に寓話がやったことは、右手を僕の太腿を包むジーパンに置いただけに過ぎない。その手をそこに置くと寓話は手を退けず、そのまま置いていた。二人してその手を見ていた。まるで、その手の意図や目的が予想できないから知りたくてずっと注視しているといった二人みたいに。寓話がいった、こういうつもりだったんだろうが? 僕は即座に首を振った。かなりおかしな話の展開をしている、と僕は思い、そういった。で寓話は寓話だから寓話の太腿の裏に花があって揺れてて。涙が出る、涙だけが逃げられる。いい子だなぁ、といわれて、僕はいい子の昼食をもどした。そうして全てが変わってしまった、変わるべくして変わったんだろうか僕は?」
「あなたの車は何ですかとは、問うていません。自慢大会ではありません。それは二十年後。あなたの車は何ですかとはいいえ分かりません。質問しません。興味が死にません。生きていませんから。あなたの車は何で走りますか? あなたの車は、何で走り続けますか? 向かっていくのでしょうあなたの終わりはおすすめです。そのままでそれは、あなたの車は、何であろうと。そしてあなたの車は何で走りますか、いいえ何であろうともあなたの車は何で走りますか? あなたの車は、何で走っていますか? あなたは走り続け、あなたで、車は何で続くのですか? 本当にそうなのでしょうか? それは、あなたの車ですか? あなたでしたか、ずっと? あなたの車は何で走りますか? ってさ、そんな目をしているんだよ」
「その一滴にすら、速度に規制がかけられている。それが、加害者の目。今なお彼女はうわごとみたいに口にするよ、被害者の部屋に行かせて、って」
「加害者に一度でもなったら、誰もが色のない靴下を穿きたい」
「精々悔いればいいんだよ、そう思うだろ?」
「明日だったら大じょぶ?」
「親に強めに墓参りだゆわれてる」
「明後日だったらいけるかんじ?」
「標準化されたハラ痛で苦しんで転がってベッドと壁のすきまにいる予定だわ」
「はー明々後日はじゃあ?」
「夢の歌唱える予定だわオレ」
「来世しかないわけな」
「オレたちは友だちだ。ほらサム・キニソンごっこで忙しい忙しいってやってた、いつもそんなふうに週末みんな過ごしてたろ?」
「あーそーぼーッ!?」
「町の人気者はたいへんなんだ」
「それがもう名前も思い出すことはできなくなったひとが歌う、曲名も分からない、だけど今もきこえる歌だとしたって、きみはよかった、もう何だってよかった、何だっていい、消さないために、全ぶを消したんだと、今でもずっと信じられない小学生の頃のきみがずっといるあすこ、冬でも夏でもない場所、いちども行ったことない場所でなら、遭えるひとたちがいる、そこで立っているのが、もう名前も思い出すことはできなくなった、あの日のあの子だ」
「誰も行かない花火大会で逢いましょう」




