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その時には






 おれたちの暮らし。いつか、その時が来たなら、きっともうおれはあなたに見つかることがないようにと、それしか頭にはなく、その時には、きっともっと今おれが知っている以上のひび割れた手、遠く離れた姿かたちにおれはなっているんだろうし、なるしかないんだと、ちゃんと分かっている上で、おれは今の時点から、その時の、二人の在り方に怯えて暮らしている。



 きっと、おれにも想像のつかない姿になっているんだろう、その時には。

 そうしてやがておれは白いシーツを頭から被り、ずっとこうしていたい、こうあるべきと、そう思うようになるんだろう、その時には。



 そしてその時には、あなたのぬるめのミルクティーだかミルク入りコーヒーだかがおれの上に降ってくるような、そんな事態にもなっている。



 その時には、あなたが知らないあなたのことで今更あなたも傷つくようなこともあり、ただそれらは、その時にはもうただただ、それはそうなってしまう。







 こうなるのだ。







 あなたがおれの上に熱い液体をこぼした。

 ここは廃墟だ。



 世間からあなたは離れて、あなたは一人でいるつもりになっていて、あなたの目に入るものといったら、白い月の光、弱々しいテレビの光ぐらいのものなのだろう。



 おれはそれらの冷たさを感じているのだ、あなたのソファーでいることを、嬉しいのか悲しいのか決めきれないでいるじぶんの温度を計りたいと考えながら。



 あなたを支えて潰れているじぶんの形も、見たいのか見たくないのか分からない。

 それにまず、そもそもどうして今晩もまた、この場所に来てしまったのかおれは分からない。もう何回も来ている。

 来てどうなるのか? あなたの助けにまだなれるだとか実はどこかではまだ思えているからとか?



 もう数時間、あなたはおれの上でぼんやりとして過ごしている。寡黙で動きが少ないあなたにしたってこれは酷すぎだった。静かだった。そして時間ばかりが過ぎていく。



 でももう知っているのだ、あなたが、あなた自身にすらつかまりたくないのだと、おれはこの場所で知ったのだ。



 おれは知ってしまうのだ、その時には。

 そうしてそれから頭の中でしかあなたを見つめる他に、もはや術はもたないのだ。



 だから次のことも、幻聴、のようなものと思っておくほうがずっといい。だから、シーツに音を立てて落とされた雫のことも雨漏りか何かだろうと、じぶんにいっているほうがずっといい。



「かなしい」



 そう、もしあなたがポツリ呟いたのが気のせいでないとするなら。

 なんにも思い出さなくていいよ。

 こんなに綺麗で最初からアザだらけな言葉も、どこにでも残っているいやな言葉だって、おれたちが世界にいる限りは、残っていると信じたふりをした言葉だって、証明になってしまう。



 ずっと残るものなどない、とかつてのじぶんは信じたがっていたことを、声の調子も、その時には、おれは思い出すだろう。

 でもその時おれは残っているものを見るのだ。その時には、残っているものを呪いさえするだろう、残ることそれ自体を呪いさえするだろうか。おれは見れやしないだろう、あなたを見ないだろう、おれ自身を見れないだろう、その時には。その時、おれがなるしかないおれは、頭からシーツを被ったままでいるしかないおれは、ガラクタを積み上げているだけみたいなこの毎日を、おれ自身を、おれは呪いつづけるのだろう、その時には。









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